第13話 新入ギルドメンバー歓迎会に参加します!!

 「かっ、勘違いしないでよねっ!シルバーが高齢者って意味なのは日本だけの和製英語なんだからねっ!!」

 

 動揺してるのか、ショウさんがすごくツンデレ風の口調になっちゃってる。

 わたしが男爵さんのギルド『Ritterorden aus Silber』に体験加入して三日。

 酒場のアルバイトがお休みになる日にわたしの歓迎パーティを開くってことでショウさんのお屋敷に招待された。

 今日は執事のアルフォンスさんではなくショウさん直々に出迎えてくれて、パーティ会場になるダンスホールに向かう途中でシルバーの意味を釈明されてしまった。

 

 「それにしてもアナタ、今日のドレスいい感じじゃない?」

 「えへっ、そう?ありがとう。」

 

 先日と違って行く先が貴族のお屋敷風だとわかっていたので、その雰囲気に合うような衣装を選んでみた。

 わたしは胸元もカバーしている紺のホルターネックのパーティドレスに二の腕まである紺のドレスグローブ。

 クロエには薄紅色のチューブトップのパーティドレスに、同じく二の腕まである薄紅色のドレスグローブを着てもらった。

 

 「ううっ……ご主人様ぁ。クロエみたいなメイドがこんなドレス着てパーティに出席するなんて。」

 「何言ってるの、クロエはこんなかわいいんだし、すっごく似合ってるよ?」

 

 慣れないドレス、慣れない立場に不安がってわたしの腕にしがみついているクロエを安心させるように、髪をなでてあげる。

 

 「はうぅ、ご主人しゃまぁ」

 

 髪をなでるとすぐに顔を赤くして蕩ける様がすっごくかわいい。

 

 「まぁ、もしかしたら先日と違って今日はドレスじゃなくても良かったかも知れないわ。」

 「えっ?ショウさんのお屋敷でパーティと聞いてたんでこれにしたんだけど。」

 

 お屋敷のパーティだったらこういうパーティドレスじゃないと浮いちゃうんじゃないかなぁ。

 

 「みんながみんな、アナタみたいにTPOわきまえた格好してくれるんならいいんだけどね。」

 

 と言いながらショウさんがダンスホール入り口の扉を開ける。

 

 「イズミ、気を確かにね。」

 「って、なんですかその不穏なセリフは。」

 

 ショウさんが開けた扉の中、部屋の天井中央には豪華なシャンデリアが飾られ、立食パーティ形式なのか椅子はなく、白いレースのテーブルクロスを敷いた丸テーブルが10卓ほど、壁際には数々の料理がビュッフェのように並んでいる。

 そこまでは貴族風のパーティのような豪華な感じではあるんだけど、目を引いたのはダンスホールに集まるギルドメンバーらしき人々の姿。

 みんな衣装に時代的?世界的?な統一感が全くなく、和洋中カジュアルフォーマル民族衣装戦闘衣装その他諸々なんでもござれって感じで、アクロシティ南大通りの一部をそのまま切り取ってきたかのよう。

 

 「ね?フォーマルな格好の人の方が少ないでしょ?」

 「う、うん。そうみたいだね。」

 

 ま、まぁ人それぞれ趣味もあるし、フォーマルな服装に興味のない人もいるでしょうし、VRの中でまでフォーマルを意識して揃えたくない人もいるでしょうし。

 

 「おう!ようやく主役のお出ましだな!!」

 

 ダンスホールの正面奥、ステージになってる場所のすぐ前あたりから、男爵さんの大きな声が聞こえる。

 と同時にギルドメンバーのみんながササっと両脇に避けて、わたしとステージの間に道ができる。

 

 「だっ男爵さんーーーーー!その恰好ぉぉぉぉぉ!!」

 

 わたしは思わず叫んだ。

 男爵さんの格好は、目の位置に穴を開けた紙袋を被って赤いフンドシを締め、全身の筋肉を晒しながら腕を組んで仁王立ちしている。

 他の人は知らないけど、少なくとも男爵さんはフォーマルな衣装持ってるのにぃぃぃぃぃぃ!!

 

 「ハッハァ!何を驚いている。これがワシの標準装備だ!!」

 「そう、みんな略して『男爵』って呼んでるけど、正しくは『ふんどし男爵』ってあだ名なのよ。」

 

 ふ……ふんどし男爵……

 

 「さぁお待ちかねだ!イズミちゃん、前に出て挨拶をしてくれ。でなきゃ始まらん。」

 

 なんだか、あまり行きなくない気が……

 クロエも男爵さんの格好に怯えてるのか、さっきより強くわたしの腕にしがみついて震えてる。

 

 「うん、まぁ気持ちはわかるわ。この歓迎されて逃げる人も多かったし。男爵も何度言っても聞かないんですもの。」

 

 ショウさんの話だと「ワシがフォーマルな格好したら、みんな気を遣って衣装揃えようとするだろ?フォーマルが趣味じゃない者にまでショウちゃんのマイルームくらいでしか使いどころがないってのにわざわざジュエル使って揃えさせるのは気が引ける。」ってことらしい。

 うーん……ギルドメンバーへの男爵さんなりの気遣い……なのかなぁ?

 そう考えたら少し気持ちが楽になった。

 

 「じゃ、クロエ、いってくるね。」

 

 わたしはクロエの髪をなでてから一歩前へと踏み出す。

 

 「あっ、ちょっと待ってイズミ。クロエと一緒に挨拶してくれないかしら?」

 「えっ!?」

 

 踏み出した足はそのまま、ショウさんの方に振り向く。

 

 「ほら、アナタとクロエ二人で並んでるのって、とても絵になるからね。」

 

 そう言ってウィンクしつつ、わたしとクロエの手を繋がせる。

 

 「ありがとうショウさん。行こ?クロエ」

 「はいっ!ご主人様!!」

 

 クロエはわたしの顔を見上げて満面の笑みを見せてくれた。

 そう言えば、ツイもツベも今までずっとクロエと二人で映って撮ってた。

 わたしとクロエのツーショット、ギルドメンバーのみんなもそれを期待してるのかな。

 

 先ほどまで男爵さんのいた場所より少し先、わたしとクロエの二人でステージに上がる。

 

 「ギルドメンバーのみなさん、男爵さん、ショウさん。今日はわたしの歓迎会を開いて頂きましてありがとうございます。」

 

 挨拶の言葉を紡ぎ、ドレスの裾を持ちながら一礼する。

 って、こんな感じだったかな?詳しくないけど。

 右手の方をちらっと見ると、クロエも同じように一礼していた。

 

 「ごしゅ……イ、イズミさんのメイドのクロエと申します。パートナーでメイドのクロエまでステージに上がらせて頂いて大変恐縮ですっ!どうかよろしくお願いします。」

 

 パチパチパチパチ、とダンスホールに拍手の音が響き渡る中、クロエの挨拶にはわたしも心の中で拍手を贈る。

 

 「わたしもクロエも力のない脆弱な身でありますので、何かとご不便、ご迷惑をおかけしてしまうかと思いますが、男爵さんとショウさんより頂いた『ギルドを盛り上げて欲しい』と言う期待に応えらえるよう頑張りますので、クロエ共々よろしくお願いします。」

 

 歓声と共に、先ほどよりさらに大きな拍手が沸き起こる。

 

 「よぉーっし、じゃあみんなグラスを持て!!」

 

 男爵さんの一声でギルドメンバーのみんながテーブルから各々のグラスを持ち、わたしとクロエもお屋敷のメイドさんからワインの注がれたグラスを受け取る。

 ……って作法知らないながらも貴族のパーティっぽく頑張ってみたのにいきなり『会社の新入社員歓迎会』みたいなノリになってきた。

 

 「乾杯の音頭もイズミちゃんよろしく!!」

 

 ちょっと乾いた笑みになりながも、わたしは男爵さんの方に顔を向け、小さく頷く。

 まぁいっか……いいよね?貴族とか全然知らないし!!

 

 「では『Ritterorden aus Silber』の今後の発展を祈って、かんぱーい!!」

 

 こうして、わたしの歓迎会と言う名のただの宴会が始まった。

 

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