第2話 泣きたいです。

豆腐家:リビング


「優~、おめでとー!」

「…」

…なぜ私が…Vtuberに…書類選考はまだしも、面接は誰がどう見ても、赤ちゃんが見ても分かるくらいボロボロだったのに…。ご察しの通り、わたくし豆腐優、あすりぶ3期生Vtuberの1人としてデビューが決定してしまいました…

「もっと才能ある人いたでしょ。もっとやる気ある…家族にゴリ押しされた人がデビューってどうなのよ…」

一番最初の配信、謝罪配信にしたい…

「まあまあ!でっ、今日マネージャーさんとお話ししてきたんでしょ?」

「うん…うっ」

こちらがあまりにもコミュ障で、数年以上家族以外と必要最低限の会話しかしてこなかったせいで、あいずちでしかコミュニケーションをとることが出来なかった。

「秋瀬春さんっていう、絵師さんも兼ねてる人で…あ、本名は佐藤春奈さんっていう人なんだけど…、キャラデザはパソコンにも送られてると思う。」

私と、同期のもう一人の担当絵師さんは春さんだ。

「名前は?名前は?どーなった!?」

金鞠かなまりはがね。」

「うちにはわかってしまった…!優は豆腐メンタルを脱したいんだ~!」

「やっぱり分かっちゃうよね…はぁ」

「あ、でも優ちゃん中高で伝統文化部だし鞠っていうのはちょうどいいんじゃない?」

お母さん、よく気付いたな…

「わわ、アバターかわい~」

まあ顔面と体形関係ないのは嬉しいよね…

なんてったって私は前にも言った通りぱっとしない顔面、そして下半身脂肪集中特化型の人間なので、年中長ズボンが欠かせない。制服も不良女子に見えないぎりぎりの長さのスカートにしている。

何でうちの学校ズボン無いの?…ミニスカートとか絶対履けないし…この気持ちを分かってくれる人はいるはず…

「わ、超ミニスカ。普段あんまり履かないのにね」

「うっ…」

そう、せっかくなのでアバターはこの先何かが起きなければ一生履けないであろうミニスカートにしてみたのだ。一世一代の大暴挙である。

「明日事務所で顔合わせでしょ?」

「うん、顔合わせって言っても、それぞれスタジオで実際に3Dアバター使いながら自己紹介するだけだけどね」

「だけって…優、自己紹介できる?」

「うっ…お姉ちゃん、練習…」

「えぇ~、しょ~がないなぁ~、上行こ」

「うん…はぁ…」


あすりぶ事務所:第5スタジオ


ついにこの時が来てしまった。

「では最初、金鞠さん」

「…」

「はがねさん?あれ…?大丈夫ですか?動いてないですけど…」

全身が震えている。

「春ちゃん、ちょっと様子見て」

「あ、倒れかけてます…」

自己紹介…失敗したら終わり…怖い…

「…か、か、金鞠っ、はっ、はがね…れす」

あんなに練習したんだけどな…残念な気持ちになりつつ、なんとかカメラ側を向いた。

「えっ、ちょ、なんで…」

…春さん?

「か、金鞠さん!髪取れてる…!」

「は…へ…?」

…え?どゆこと?何故?

金鞠はがねという名にちなんで暗めの銀色と金色のメッシュになっている髪の毛が跡形も無く消えている。

「え…はがね、ちゃん…?」

「金鞠さん…大丈夫?」

同期の2人らしき2人からも戸惑いの声。

…神様、私何か悪いことしましたか…?

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