1.5章 三条涼音編

第14話 今にして思えば長い長い計画だった

 『ムニャムニャ……人の金で打つパチンコが一番楽しい』


 「ふふ。未確さんったら一体どんな夢を見ているのでしょうか」


 愛する人の寝息を盗聴する。

 普段なら億劫な掃除もこれだけで楽しいひと時になるものですわ。


 やっぱり寝息は良い。

 だってそれは、未確さんがわたくしを信用していくれている証だから。


 そして寝言も良い。

 本人も認識出来ない本音を聞けるから。


 「さてと、残すは地下室だけですわね」


 綺麗になったリビングを後にする。

 大きめの掃除用は地下室に入らないからお片付け。


 わたくししか知らない秘密の扉を開いて階段を降る。


 カツン、カツン、と鳴る無機質な階段の音。

 スー、スー、と聞こえる温かな未確さんの寝息。


 これを聴きながら地下に向かうのが最近の楽しみになりつつあった。


 地下室の扉の前に立って、あることに気づく。

 誰もいないはずの部屋に灯りがついている。


 「……」


 扉を開けてすぐ右側、そこに絵画用の画材が置いてあったはず。

 不届き者の頭蓋を潰すにはこれで十分ですわ。


 「わたくしのこの生活を邪魔されるわけにはいかないですもの」


 そう決心して地下室のドアをゆっくり開けた。

 そこで目にしたものはー


 「あ゛ー!!涼音お嬢様やっと帰ってきた!!大変だったんですよぉ」


 「あなたは……亜美?」


 「そうですぅ。あなたの専属メイドのアミですぅ。ついさっきお父様にクビにされたばっかりですがぁ!!」


 見知った顔の見知ったメイドが涙を浮かべて泣きじゃくっている姿だった。


 「涼音お嬢様の計画に巻き込まれてから不安の募る日々。涼音お嬢様がろくでもない男と同棲しているなんて悟られないようにするために色々裏で頑張っだ……でも昨日完全にそれがばれてぇ」


 「あらそう。お父様には知られてしまったの」


 「はい。お嬢様が未確様……というか配信者ユーフォーにスパチャを送っていた所まで全部」


 「それでメイドをクビになったんですわね」


 「はい。今アミは一文無し、職無し、おまけにメイド服しかない限界女子な訳です」


 亜美は目をうるうるさせながらわたくしの事を見ていた。

 助けてくださいの文字がその顔ににじみ出ている。


 「いいですわ。わたくしの方であなたを雇います」

 「ほ、本当ですか?!」

 「元々そう言う約束だったでしょ。わたくしの芸術と、未確さんを両方捕まえる作戦を話したあの時から」


 そう。

 今思えば長い長い計画だったですわね。


 わたくしが未確さんに心酔したのも、わたくしの芸術の方向性が決まったのも、すべてはあの日から始まったのですわ。


 高校一年生の夏、その時に味わったあの挫折から。

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