クズのアート ~ネットで炎上した俺の唯一のファンは金持ち美人のイカレた画家だった件~

アカアオ

第1話 貴方の人生を頂きに来ました

 「これできっちり頂いた。あいつの借金は返済完了だ」

 「ふふふ。それは何よりですわ」


 無駄に着飾った部屋の中。

 私はガタイの良い殿方にお金を渡していた。


 「では、後はお伝えしたとおりに」

 「お前さんと一緒にあのクズの家に行けばいいんだろ?」

 「ええ。お願いしますわね」


 こんな事、お父様やお母様に知られたら怒られてしまうでしょうか。

 まぁ、そうだとしても恐れることはありませんわね。


 これは一人の画家として、色々と考え抜いたうえで出した決断ですもの。

 私、三条涼音さんじょうすずねのプライドをかけた決断ですもの。


 「しかし分からねぇな」


 目の前の殿方……もといいヤクザの親方様は不思議そうな顔で私の事を見つめていた。


 「三条家のお嬢様であるお前がなんであんなクズの借金を代わりに背負う?」

 「私の家の事を知っていますの?」

 「知らねぇ奴は居ねぇだろ。受け継がれてきた地主の特権。生まれる子供は才人ばかり。金があるからボディーガードも弁護士も雇い放題。規格外の一族だ」


 私の家の事、ヤクザの方はそう思っていたのですね。

 生まれる子供は才人ばかりって、買い被りすぎですわ。


 「それで、あの借金まみれのクズとは知り合いだったのか?」

 「いいえ。私が一方的に知ってるだけですわ。いわゆるファンってやつですの」

 「おいおい。ファンってまさかあいつの動画のファンって訳じゃねぇだろうな」

 「ええ。そのまさかですわ」

 「そりゃぁ傑作だ。日本一の嫌われ者にもファンがいるなんてよ。世の中分からねぇ」


 ヤクザの方は呆れたように笑った。

 まぁ、これが普通の方の反応なのでしょうね。

 私があの方を好いている理由は特別ですもの。


 『ど~も、ユーフォーです。あ、これ親からつけられそうになったキラキラネームな。終わってるだろ』


 あの人の動画を見て、その動画が起こしている炎上騒動を見て、私は確信した。

 私のアートを完成させるにはこの人しかいない。

 私の渇きを無くしてくれるのはこの人しかいない。


 この人の協力があれば、私の求める至高の一枚が完成する。

 

 この人は……ユーフォーと名乗る動画投稿者の彼はきっと私の希望になる。

 いや、もうなっていますわね。

 きっと彼は私の考える究極の一枚を完成させてくれると、そう思わせてくれる希望に。


 「暇つぶしがてら聞かしてくれや。あのクズの何処が気に入った」

 「あの人が持つ才能ですわ」

 「あぁ?才能だと」


 「炎上する才能。悲劇のヒロインを作れる才能。私は彼のそんな才能を気に入ったのですわ」

 「だから借金の肩代わりをすると?」

 「それだけではなく、今後の彼の生活も支えるつもりですわ」


 だからそれまで元気でいてほしい。

 なんの心配もなく生きていてほしい。

 早まった真似をしないでほしい。


 世界中の誰もが貴方を嫌っていても、私はあなたを求めつづけますもの。


 「待っていてくださいね。明日、貴方をお迎えに上がります。私の希望、縁ノ未確えんのみかくさん」

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