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ぜろ
Vol,0.5 NIGHTMARE
長い長い課題が出されたのは夏だったのか秋だったのか。
……季節も時間も中途半端であった。薄暗いようなそうでもないような、そして広くもなく狭くもない中途半端な場所。…『そこ』は密室という名を冠するには、あまりにもありふれすぎた公共の場であった。
バックミラーを通して表情の伺える運転手もまた、若くもなく年寄りでもない中途半端な年齢だった。そして『男』もまた子供でもなく大人でもない年格好をしている。そしてそれは自分もなのだ、と、彼女は固唾を飲んだ。
中途半端である。時間帯は夕暮れと夜の間に入ってしまった。『そこ』に閉じ込められだしたのは朝と昼の間の時間、もう六時間も前である。
『男』が動いた。
長い間何も口にしていない、おむつも変えられていない赤ん坊が、びくついている母親の必死のあやしにもかかわらずぐずっていた。それはやがて巨大な泣き声に変貌し、静かな車内にこだまする。通路を挟んで自分の隣に座っているその親子を見て、彼女はどうにか赤ん坊を泣き止ませようとする。だがやまない。けれどどうにかしなくでは、『男』の顔は目に見えて苛立っていた。
そしてとうとう『男』は動いた。子供を抱えて離すまいとしている若い母親から、無理矢理赤ん坊を奪い取ろうとする。助けたい気持ちと恐怖の板ばさみになった、それもまた一種の中途半端の中で、無防備に自分の前で背中を晒した『男』をじっと見詰める。身体は動こうとしているのかそうでないのか、僅かに震えていた。
母親の悲鳴が聞こえた。
それよりも大きく、赤ん坊の泣き声も響いた。
渇いた悲鳴は喉に張り付いたままでいつしか消えてしまっている。彼女はもう身じろぎも出来なかった。『男』の持っているアーミーナイフの鈍くぎらついたその刃だけが記憶に染みついていく。
赤だけが、鮮明に映る。
それは悪夢のようにリアリティとフィクションの狭間、中途半端な感覚を残していた。
さてここで課題が発生する。
悪いのは、誰だ?
『男』の無防備な背中をただ見ていた彼女か、
『男』自身か、
『男』から赤ん坊を守れなかった母親か。
答えは一年経つ今も、出ていない。
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