17.旅立ちの日 -奏音-




【11月】



1年前と同じセミファイナルの日を迎えた。



三度の審査を通過して勝ち上がってきた私と秋弦。





今年は誠記さんはエントリーしていないので

私たちも注目の演奏者として評価されている。 






「秋弦、行っておいで」




五人目の演奏者が、演奏している最中

私は控室から、秋弦の背中を押す。





「あぁ、行ってくる。

 

 行って、ファイナルに

 出場できる五人の中に入ってやるぜ。


 そしたら俺……お前に大事な話がある」






何時になく真剣な眼差しで私を見つめた後、

秋弦はステージの方へと消えていった。





去年は全く余裕なんてなかったけど、

今年は……秋弦の演奏を聞いてみたいって思った。





冗談なのか、本気なのか知らないけど

秋弦は、私を落としたくてエレクトーンを始めたって

笑ながら話したことがあった。





そんなことないって思うけど、だけど……それが本当なんだったら、

秋弦がこんなにも上手くなったんだってその演奏レベルを、

パフォーマンスを一番近くで見届けられる場所に居たい。





「ナンバー六番。

 大田音楽教室、中学三年生、泉貴秋弦君」






司会のコールが告げられると同時に、

秋弦は、ステージの中へと進んでいく。





そして課題曲・自由曲共に

各五分の演奏パフォーマンスを繰り広げる。





コンクールなのにスタンディングオベーションに包まれて

帰ってくる秋弦。







染み入ってくるような音色。



背中を押してくれる滑走感。





秋弦らしい、アップテンポなリズム感が

会場全体を包み込んだ。





帰ってきた秋弦は、Vサインと共に清々しい顔で

私たちの場所へと戻ってきた。




その後も順番に演奏は過ぎて行く。





演奏時間が迫ってくると、

緊張感が半端なくて、悴みそうになる手と足を

必死に何度も意図的に動かしてポジションを確認する。









「奏音、次スタンバイ」





言われるままに、

その場所を控室を後にして、

ステージの方へと向かう。








「行って来い、奏音。

 ガツンとやってやれ」







ガツンとやってやれって、

喧嘩じゃないんだから、秋弦。





そんなことを心の中で突っ込みながら

何時もの秋弦らしさが、

私を緊張から解放してくれたのに気がついた。







「本日最後の演奏者です。


 大田音楽教室、中学三年生。

 松峰奏音さん」







アナウンスと同時に

ステージへとゆっくりと歩いていく。




そしてステージでお辞儀をした時に

私の視線が捉えたのは史也くんの姿だった。






観客席で見守るように友達と視線を向ける。








観客側に笑みを浮かべて、

私はエレクトーンへと移動した。




データーを読み込んで、

そのまま演奏体制に入る。






この二曲を必ず成功させる。




そして、今年こそ

ファイナルに進出して見せる。






そして……まだ史也くんの許可すら貰えてないけど

彼の曲をリサイタル形式のコンクール内で演奏する。







ただその夢に向かって、

ひたすら演奏に集中する。








順調にリズムにものれてる。





指先の表現力も途切れることなく伝えられてる。







10分間の演奏を終えて、

私はエレクトーンの椅子から降りると

ゆっくりと観客にお辞儀した。







秋弦の時以上に拍手に包まれて

再び、私はその場でお辞儀する。






ステージから降りた時、大田先生と美佳先生が、

それぞれに抱きしめてくれた。






「先生……観客席に史也くんが居たんです。

 来てくれてた……」





そうやって呟いた私に、

秋弦は「ったく、お前はまた史也かよ」って

不貞腐れるように告げた。






審査の時間を待って、

ついにファイナルへの出場を告げるその瞬間。





私は秋弦と肩を並べて、

祈るように両手を組みながら

待ち続ける。






「ファイナルに出場出来る選手を発表します。



 市川音楽教室。

 高校二年生、長谷川南海【はせがわみなみ】さん。


 

 東学院電子オルガンコース、高校一年生。

 戸田陽子【とだ ようこ】さん。



 同じく東学院、音楽コース。

 高校三年生、刀根崎大地【とねざき だいち】君。


 大田音楽教室、中学三年生。

 泉貴秋弦君」








コールが鳴り響いた途端に、

秋弦は私の隣でガッツポーズ。






今で4人。




ファイナルに出られるのは、

後一人。





最後の一人の枠をかけて、まだ名前を呼ばれていない人たちは

一斉に祈るようなしぐさでコールを待つ。






「ファイナル最後の出場者は大田音楽教室、中学三年生。


 松峰奏音さん」







会場内いっぱいに

告げられた私の名前。





信じられない気持ちで

いっぱいになりながら、

私は次のファイナル出場者の受付表が入った

封筒をゆっくりと受け取った。







「太田先生。


 私、この書類を持って

 史也くんにあってきます」


「あぁ」






断りを貰って、私は携帯電話を握りしめながら

会場の外へと走り出した。



演奏していたステージ衣装のままだけど、

それでも立ち止まってしまえば、

史也くんは帰ってしまうから。





携帯電話にナンバーを表示させて

コールボタンを押す。



二回くらいのコールがなって、

久しぶりに、電話が繋がった。





「もしもし、奏音です。

 

 えっと……お話したいことがあって。

 何処だったら逢えますか?」




勢いに任せて、一息に早口でいいきる。





「わかった。


 ファイナル、出場おめでとう。

 秋弦と二人、見事な演奏だった。


 見つけた……。

 ステージ衣装のまま出てきたらダメだろう。


 肩を冷やしたら風邪をひく」




そう言うと、電話をしている間に

何時の間にか私の姿を見つけて、

歩いてきてくれた史也くんが、

自分のコートを脱いで私の肩へとかけてくれた。






「ここじゃ目立つね。

 楽屋、戻ろうか」





そう言うと史也くんは、

私をエスコートするように会場へと戻り始めた。




会場内を良く知る彼は、

知り合いになっているらしい警備の人と会話を交わして

裏口から入っていく。






そこで着替えを済ませて、

全員が集合すると、

大田先生の車で、開場を後にして

大田音楽教室へと移動した。




史也くんが久しぶりにいる太田音楽教室。



そこで、史也くんだけを

あいているレッスン室へと誘い入れた。







「あの……、お願いがあるんです。


 ファイナルは、リサイタル形式だって言うのは

 プランプリ経験者の史也くんは知ってるよね。


 オリジナルを二曲以上、全四曲構成のリサイタル。


 私……オリジナルを三曲と、

 編曲で出場したいって思ってます。


 今から演奏するから、

 もし史也くんが承諾してくれるなら

 「煌めきの彼方へ」をファイナルで演奏させてください」





そう言って、次回、会場で提出しないといけない受付表を

史也くんの前に差し出した。




編曲の場合は、

その曲を編曲してもいいですよって

作曲した人の署名を貰う欄があるから。




エレクトーンに向かって、

「煌めきの彼方へ」を精一杯演奏する。





演奏を聴いた後、

後ろを振り向くと、

史也くんが静かに涙を流してくれてた……。






「えっと……史也くん?」





戸惑いながら、返答を求めるように

名前を紡ぐ。






「あっ、悪い。

 奏音、いいよ。


 奏音の気持ちが沢山伝わった、

 一曲に仕上がってる。


 あの頃の俺には見えてなかったものが

 その曲にはプラスされた気がするよ」






そう言って、史也くんはファイナルの書類に

サインをしてくれた。






「頑張れ、奏音」





そう言って私にエールをくれて、

史也くんは大田音楽教室を友達と一緒に後にした。






史也くんが居なくなった教室。



とりあえずファイナル出場を祝う、祝勝会な雰囲気が漂う

その場所で、二人きりになった途端

秋弦が私を、レッスン室へと呼び出した。









「奏音……。


 何回も今まで言ってきたけど、

 お前、どんくさくて、にぶちんで気が付かないから

 もういっぺん言っとく。


 俺は松峰奏音が好きだ」





って……えぇ?




秋弦の分際で、何いきなりいってんのよ。

唐突過ぎるでしょ。




こんな場所で告白って、

ありえなくない?







不意打ちくらった私は、

多分、鳩が豆鉄砲くらったみたいな形してると思う。



まっ、見たことないんだけど。




「いきなり言われて、

 お前が戸惑ってるのも知ってる。


 だから俺は待つよ。


 待つけど……ファイナルで、

 俺はお前の為に作った曲を演奏する。


 だからちゃんと聞け。


 それだけだ」






それだけだって……

偉そうな口調でいいながら、

かなり照れてるのがわかる秋弦の奴。






だけど……秋弦、

私も今は何も言えない。






私は……ファイナルに勝手、

史也くんに告白するって決めてるから。





秋弦の気持ちを知りながらも、

何も行動出来ないまま、

ただ私たちはお互いの練習に没頭した。




12月になって、クリスマスが目前になった頃

ファイナル当日がやってきた。





5人の演奏者が、

それぞれのパフォーマンスをアピールしながら

ステージほ演奏していく。






そのコンクールで

グランプリを納めることが出来た。





念願のグランプリ。




秋弦は、3位入選って言う結果になったけど

それでも……凄い演奏には違いなかった。






グランプリのトロフィーを手にして、

私は楽屋へと戻る。




私の携帯で、

トロフィーと一緒にピースしてる写真と共に

史也くんへと1ヶ月ぶりのメールした。

 

  







ファイナル、グランプリに選ばれました。


史也くんの曲が、

私の背中を押してくれた。



伝えたいことがあるので、

良かったら、今晩、時間を頂けませんか?



太田先生の教室の、近所の公園でいいので

逢えませんか?




奏音









送信。






暫くすると、

史也くんからの着信が入る。







「もしもし」


「奏音、グランプリおめでとう。

 いいよ、俺の方も推薦の枠が手に入ったらからね。

  

 公園に行くよ」






そう言って、史也くんは電話を切った。




その夜、私は待ち合わせの公園へと足を進めた。






そこには約束通り史也くんの姿があった。







「ごめんなさい。

 私が誘ったのに」


「構わないよ。


 奏音、グランプリおめでとう」





そう言って、史也くんが

私の前に小さな紙袋を手渡す。



受け取って覗きこむとそこには

小さな箱が入っていた。



その箱を取り出してゆっくりと開くと、

鍵盤の形をしたペンダントが入ってた。




「可愛いvv」


「良かった。

 気にいった?」




問われるままに頷くと、

史也くんは、そのペンダントを私の手から抜き取って

ゆっくりと首元へとつけてくれた。



首元からぶら下がった鍵盤部分を

片手で軽く握りしめる。





「えっと……あの……。

 私と付き合ってください」







一気に告げて、

そのまま体をぺこりと折り曲げる。





そんな私に、史也くんはゆっくりと

体に手を添えて続けた。







「奏音ちゃんの気持ちは知ってたよ。


 気持ちは嬉しいけど、

 俺が君に対する気持ちは、

 恋愛感情ではないから。


 奏音と居る間、

 俺は妹と一緒に居るみたいで楽しかった」






史也くんの言葉に、

泣くことも出来なかった。






思ってたけど、多分……

何処かで諦めてたのかもしれない。




こうなるかも知れないって。







「妹?」



「あぁ、奏音には

 残酷な事をしてしまったかも知れない。


 だけど君と過ごせた時間は、

 俺にとっては大切な時間だよ。


 君の恋人になることは出来ない。


 だけど……今の同じような関係でも構わないなら

 俺は、俺が居た世界で輝き続ける奏音を

 見守ってるよ。


 俺を夢を受け継いでくれた

 大切な存在の君を……」







史也くんの答えに泣くになけないまま、

私は握手を交わして、公園を後にした。






初恋が失恋に変わった日。






その日が、

私の新たな旅立ちの日になった。








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