旅シリーズ13 スイス・ドイツバイク旅

飛鳥竜二

第1話 出発

 春に数年ぶりに木村くんから旅の誘いがあった。それが夏休みにバイクでヨーロッパを旅したいという。私はバイクの免許はもっているが、10年以上乗っていない。一度は断ったのだが、クルマでもいいからいっしょに行こうということである。

 そこで、計画次第という返事をしたら、旅行計画書が送信されてきた。それを見ると

1日目 昼 成田空港発

    夕 ミュンヘン着 ミュンヘン泊

2日目 午前 レンタカー・レンタルバイク借り受け

    午後 フッセンへ  およそ140km フッセン泊

3日目 朝  ノイシュヴァンシュタイン城周辺散策

    午前 フッセン発

    夕  グリンデルワルド着 およそ260km グリンデルワルド着

4日目 午前 登山電車でユングフラウヨッホへ

    午後 グリンデルワルド発 チナールへ およそ160km チナール泊

5日目 全日 チナール滞在 オフロードパークへ

6日目 午前 チナール発 ツェルマットへ およそ60km テッシュ泊

7日目 午前 登山電車でゴルナーグラートへ

    全日 ツェルマット滞在 テッシュ泊

8日目 午前 テッシュ発 アルプシュタットへ およそ200km アルプシュタット泊

9日目 朝 ホーエンツォレルン城遠望

    午前 ミュンヘンへ レンタカー・レンタルバイク返却 およそ180km

    夜 ミュンヘン空港発

10日目 夕 成田空港着


 この計画を見て、亡き妻とのスイス旅を思い出した。もう一度思い出の旅にでるのもいいかもしれないと思い、木村くんに返事をした。

「木村くん、だいたいはいいんだけど、ノイシュヴァンシュタインやアルプシュタットは前にも行ったことあるじゃないか? どうしてまた行きたいの?」

 と聞くと

「前に行った時に、自分で走ってみたいと思ったんです。アルペン街道は気持ちいいじゃないですか、それにアウトバーンも走ってみたいし・・」

「それでか・・」

 ということで、この計画で旅程をくむことにした。手配は全て木村くんに任せたかったが、レンタカーは自分で運転するので、その手配だけは自分ですることにした。前回はドイツ語のナビだったので、今回はナビのリクエストはなし。自分のタブレットとレンタルWifiでナビの問題は解決する。それで小型車をリクエストすることができた。一度乗ってみたかったワーゲンのゴルフである。

 夏の旅行が今から楽しみとなった。


 旅行当日がやってきた。木村くんとは成田のビジネスホテルで合流する。空港の夜景がきれいなホテルで、亡き妻が気に入っていたホテルである。

 夜、白ワインをもって木村くんが部屋にやってきた。

「モーゼルワインをもってきましたよ。打ち合わせしながら飲みましょ」

「打ち合わせならメールのやりとりで終わってるじゃないか」

「そうなんですけど・・久しぶりの再会ですから」

 と、夜景の見えるところで二人でグラスをかたむけた。

「空港がよく見えるいいホテルですね」

「そうなんだ。亡くなった妻のお気に入りのホテルなんだ」

「木村さんが奥さんのことを話すなんて珍しいですね」

「年月がたって、ふっきれたというところかな」

「いいことですね。感傷旅行にならなくてすみます」

「そんなー、前にスイスに妻と行ったこと話したっけ?」

「はい、一度だけ」

「そうだったけか? まぁいいや。今回の旅はドライヴを楽しむのが目的だからな」

「はい、教員になってからバイクで通うようになり、結婚前にヨーロッパを走ってみたかったんです。結婚したら絶対OKでませんから」

「エッ! 結婚するの?」

「はい、同じ学校の保健の先生と婚約しました。来年、転勤なのでその後結婚します」

「独身最後の海外旅行か?」

「きっとそうなると思います」

「そうなると木村くんとの最後の旅になるな」

「すみません。付き合ってくれてありがとうございます。ところで、長谷川さんは? 二人でフランスへ行ったんでしょ」

「よく知ってるね」

「長谷川さんにメールしたんです。そうしたら木村さんとフランスへ行ってきました。それと私、結婚します。とかえってきたんです。最初は木村さんと結婚するのかと思ってびっくりしましたよ。そうしたら、亡くなったお姉さんの代わりに牧場をしている義理のお兄さんに嫁ぐというじゃないですか。ダブルびっくりですよ」

「オレもびっくりしたよ。1年後ぐらいに牧場へ行ったらいいお母さんになっていたよ。甥っ子と姪っ子なんだけど、本当の親子みたいだった。だんなさんも気の優しい人だったよ。ただ、化粧っ気のない長谷川さんは別人みたいだった」

「そうですか、オレも一度牧場へ行ってみようかな」

「行ってみるといいよ。喜ぶと思うよ」


 翌日の昼、日系A航空のミュンヘン行きに乗った。787型機はエコノミーでも快適だ。シートは最後尾なので2席しかない。シートを倒しても後ろを気にすることはない。しいていえば、機内食の配膳が最後になることがデメリットだ。時に、選択ができないことがあるが、今回は希望のチキンを食べることができた。

 時差が11時間あり、夕刻ミュンヘンに到着した。近くのHインエクスプレスに泊まることにした。時差ボケ調整である。眠くて仕方がないが、まだ明るい。暗くなるまで待たないと明日からのドライヴがきつくなる。寝ててもいい団体旅行とはちがうのである。


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