決めた相手
キャンプファイヤーの火が轟々と燃え盛っていた。
ぱちぱち、と蛍みたいな火の粉が夜空に舞っていて、火傷しないよう距離をとる。
とは言っても、火が照らす範囲から出ると真っ暗で、オレンジ色の地面から出ないよう付かず離れずの距離を保つ。
男子と女子も同じで、互いに距離を探り合いながらソワソワと音楽を静かに待っていた。
「ちょ! ふざけんな!」
「あー、私も男子と踊りたかったぁ!」
「あーるぷーすいちまんじゃーく」
反対に女子同士が踊るペアは騒がしい。
友達と馬鹿話をしていたり、男女ペアを恨みがましく見つめていたり、一足早くダンスをしていたり、と賑やかだ。
楽しむ声が星空に上がり、火を中心に輪になって繋がっている光景は、想像していた青春の光景だった。
「皆さん! 音楽かけますよ〜!」
先生の声を聞いて、俺は手を差し出した。
「一緒に踊ってくれる?」
ダンスの相手は迷うことなく手をとったが、疑問を投げかけて来た。
「あはは、勿論! だけど、舞亜でも、深山でも、別のクラスの子でも、夕子ですらなくて、どうして私を選んでくれたの?」
清水さんは、小首を傾げて言った。
清純派の美少女だから、仕草が朝ドラのワンシーンのようだ。
「今、一番気軽に楽しく踊れる相手だと思ったからかな」
清水さんにお願いしたのは、それが理由だ。
「んー、もうちょっと詳しくお願いできる? 大体想像はつくけど?」
「ご存知の通り、三人の誰かを誘いづらくて。小鳥遊さんは、舞亜ちゃんか清水さんの誰かとは踊らせてあげたかったし、部活の子も仲良いけど個人的には清水さんの方が親しいかなって。消去法みたいな説明になって申し訳ないけど、単に一緒に踊りたいだけなんだ」
「あはは。そうなんだ、ありがとう」
「迷惑じゃない?」
「勿論! それよりさ……舞亜と深山さん、と別クラスの子もか。なんて言って断ったの?」
「うーん、流石に言えないかなあ」
千秋さん、怜、舞亜ちゃんには、断りを入れていた。
『ごめん、今はまだ気持ちに応えられない。また好きになってもらえるよう頑張るから』
俺のことを好きになってもらえるのは不自然ではない。
だけどやはり、彼女らが元の世界に居れば、俺を選ぶ可能性が低いことは事実。
だから、元の世界基準でも選んでもらえる男になるように頑張る。
彼女らが俺の世界を知らずに選んでも、後悔させないようにそう決めたのだ。
そんな想いをありったけ込めて伝えた。
すると彼女らは、凪らしい、と笑って頷いてくれたのだった。
「えー、気になるよ」
「そんなに?」
「だって二人とも、小湊くんに断られてから、戦々恐々としてたからさ」
「本当?」
清水さんは、こんこん、と咳をして、舞亜ちゃんのモノマネを始めた。
「なーくんは言いました。『ごめん、今はまだ気持ちに応えられない。また好きになってもらえるよう頑張るから』と。つまり、今以上に好きにさせるから覚悟しとけってことですよねえ!?」
舞亜ちゃん、そんなことを言ってたのか。
つまり、そうではないし……いや、結果的にはそうなるのかな?
というより。
「知ってるじゃん」
「あはは。知ってる。本人の口から聞いてみたくて」
「清水さんは、したたかだなあ」
「うん。私はしたたかなんだよ」
その時、民謡がスピーカーから流れ出した。
「さっ、踊ろっか!」
「うん。俺がエスコートする側でもいい?」
清水さんが嬉しそうに頷いたので、俺は元の世界の男側で躍ったのだった。
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