深山怜の答え2


 日曜日。私は凪を駅前に呼び出した。


「来てくれてありがとう」


「うん。こっちこそ。遊びに誘ってくれてありがとうね」


 凪はそう言って笑う。


 ここのところどこか笑みは曇っていたけれど、今日は晴れていた。

 昨日、美甘が何かしていたらしいので、その影響か。ちょっと嫉妬する。


 ただ完全には晴れきっていないみたいなので、その曇りを晴らしてやろう。

 そのために今日私は誘ったのだ。


「凪」


「うん?」


「今日はさ、細かいこと全部忘れて楽しんでほしい。私も何も気にせずに楽しむから」


 凪が頷いたのを見て、私は満足して歩き出した。


 ***


 最初に来たのは、ボウリング。


 まずは球選び。どれにしようか、悩んだのち、10ポンドの球を選ぶ。

 よいしょ、と持ち上げると、凪が声をかけてきた。


「持つよ、重いでしょ」


 凪の爽やかな笑みにとくんと胸が高鳴る。


 男子は鍛えないのが普通なので、基本的にこういう役割は女子のものだ。

 だけど身体能力的には男子の方が高いので、重い物を持ってもらうのは女子の憧れだったりする。


 そうだよ。そういうところを好きになった。


「いいよ、私が持つ。凪のボールも運ぶから貸して」


「いやいや、流石にそれは無理だって」


 申し訳なさそうに、無理無理、と手を振る凪に好きが加速する。


 やっぱり凪が変わってしまうなんて悲しいことだ。


 かと言って、友達で居続けるから、好意を持たないから、安心して優しくしてくれていい。なんて言うことはできない。


 だから私は変わるんだ。


「じゃあ凪のボールを私が運ぶから、私のボールを運んで」


「えぇ、何それ」


「いいから」


 私は凪の選んだボールをレーンまで運ぶ。


 まずは、このくらいからスタートだ。


「よし。じゃあ投げよう」


「うん、どうする? 負けた方が罰ゲームとかする?」


「凪はギャンブル好きなんだ?」


「あはは。ギャンブルっていうより、何か賭かってたほうが熱くなれるしね。全然、なくても楽しいけど」


 凪は勝負事に熱くなるのが好き。

 また一つ凪のことが知れて嬉しい。


「じゃあ賭けよう」


「よし。じゃあ何を賭ける?」


「勝ったら何かもらう」


「曖昧だなあ」


「私は決めるのが苦手な人間だから」


 私という人間を凪に知ってもらえたことも嬉しかった。



 ***


 ボウリングを終えた後、次へと移動する。


「凪、ボウリング楽しかった?」


「うん、楽しかったよ。怜って運動神経良いのに、ボウリングは上手じゃないんだ」


「むう。でも勝ったのは私」


「あはは。途中からカーブ縛りにさせられたからね」


「でも勝ちは勝ちだから」


「負けず嫌いだなあ。でもそういうところ良いよね。冷めてないから同じ温度感で盛り上がれて楽しい」


 私も楽しい。

 凪は私と同じ目線で遊んでくれる。

 と言っても、私に合わせてくれているわけじゃない。

 気遣いや遠慮とかがなくて、ただ普通に私と同じ目線で遊んでくれている。


 きっとそれは理想だ。


 そこに至ることは難しいかもしれない。


 けれど一歩一歩踏み締め、近づくことはできる。


「凪」


「ん?」


「お腹空いた。何か食べよう」


「いいね。どこ行こうか?」


「麺類が食べたい」


「おぉ、いいじゃん。ラーメン食べたいなあ」


「私、うどんが良い」


「割れたねえ。ディベートか?」


「じゃあ私のターン。海老天うどんが食べたい。出汁に浸った海老天は本当に美味しい。最初は衣をさくっとした食感を楽しんで、海老のぷりっとした食感を楽しむ。時間が経って出汁でふやけた衣は美味しいし、海老にも味が染みて絶品。うどんは口に入れたらほわほわして、つるんとした舌触りが最高。コシがある麺を噛んだら、旨味たっぷりの出汁が染み出して筆舌しがたい美味さ」


「うわあ、美味しそう」


「ふふん。でしょ? 凪のターンね」


「ラーメンは満足感があるよね。ほろほろの柔らかいチャーシューの肉って感じは、うどんじゃ味わえない旨さがいい。スープも醤油でも塩でも何でも、旨味がぎゅーって詰まってて蓮華で掬って飲むだけで幸せだし、店によって違うから楽しみがあるのがいい。味玉とか、野菜とか、ネギとかトッピング一つ一つにパワーがあるし、麺と合わさって美味しい。一杯で満足できるのは絶対にラーメンだよ」


「うぐ。たしかに……でも」


 と歩きながら、ディベートを続ける。

 主張は食い違うけれど、悪い雰囲気なんてなくて、ずっと笑いながら続けた。


「じゃあ回転寿司にしよう」


「うん。それがいい」


 じゃれあうような楽しいディベートは予想外のところに着地した。


 うどんのお店には決まらなかったけど、私は満足感でいっぱいだった。




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