第42話 ようやくルーガが出て来たようだ
声の方を見れば案の定、ルーガが立っていた。
「おいおい、おいおいおい! おかしいだろ、なんで生きてるんだ、オマエ! なんでモンスターが死んでる。オレの見せ場をどうしてくれるんだよ!」
ラヴァンたちが死んだ頃合いを待って出て行って死んだことを嘲りながら宝珠を回収し、モンスターをラミナーリアの街にけしかけてそれを自分で解決する。
そんな計画が、これでは台無しではないかと臆面もなく言い放つ。
相変わらず言っていることがめちゃくちゃに自分勝手でラヴァンは怒るよりも呆れかえる。
「お前の思い通りにするわけないだろ。スタンピードは俺たちがなんとかした。お前の企みは失敗したんだよ」
「お前みたいな無能にできるわけないだろうが!」
「だが、見ての通りだ」
「どうせ、ズルしたんだろう。お前はそう言う奴だ」
「あ゛?」
リチェルカの殺気がルーガへと突き刺さる。
「おい、なんだそいつは。誰に向かって殺気を出してるのかわかっているのか? ん、いや待て。美人じゃないか。しかもギルド奴隷? は? お前にはもったいないな。オレが貰ってやろう。こっちにこい、可愛がってやるよ」
ルーガはそのことに気が付きもせずに鼻の下を伸ばしていた。
「あの兄ちゃん、終わったんじゃないか?」
「元から終わってるのですよ」
「…………」
ルチアーノとレスティが、明後日の方を見ながら我関せずを決め込んでいる横で、ゆらりとリチェルカは立ち上がった。
ラヴァンは、リチェルカの顔を見てこっそりと後ろへと下がる。
(あ、これ完全にキレてる)
リチェルカからは表情が完全に抜け落ちて虚無。
そこからただならぬ圧が放たれている。
モンスターもかくやとでもいう圧は、人型のワイバーンでも相手にしているかのようだ。
自分以上にキレてる奴を見ると落ち着くのは本当だなとラヴァンは震えながら思った。
自分が標的ではないし、慕われている側で本当に良かったと安堵すらした。
「先生」
「な、なんだ、リチェルカ?」
それでも底冷えするような声色は恐ろしいと思った。
「殺して、良いよね」
「は、半殺し、くらいで……」
自分の分も残しておいてという意味合いを含みつつ、リチェルカに殺しをさせないギリギリを提案した。
そうでないと、これが収まらない気がした。
「わかった」
リチェルカはずんずんとルーガへと近づいていく。
なんとかとめてくれないかとラフレーズとコルネイユの方を見るが、2人は宝珠の後処理をしている。
気配的に勘付いているはずであるが、見逃してくれるらしい。
(……いや、まあここまで来たら良いか。うん。殺しさえしなければルーガがどうなろうが良しだ。なんだったら俺はきっとすーっとしてしまうに違いない。ピンボールみたいにぶっ飛んでくれないかな)
少しだけわくわくしながら、ラヴァンは動向を見守ることにした。
「そうだ、ギルド奴隷は素直に従うところが良いんだ。さあて――」
「これは先生を馬鹿にした分」
大きく振りかぶられたリチェルカの足がルーガの股間にめり込んだ。
冒険者用の固くて丈夫な長靴が、男の大事なところにクリーンヒットして、ルーガの身体は宙を舞った。
「ぐあああああああああああああああああ!?」
この世のものとは思えない断末魔の悲鳴と甲高い金属音のような幻聴が窪地に響き渡った。
ラヴァンとルチアーノは思わず痛みを想像して身を震わせながら股間を押さえたほどだ。
「う、ぐ、な、何をするんだ、この奴隷がァ! へぼぁ――!?」
ルーガは、きりもみ回転して落っこちてくる。
それでも彼は立ち上がる。
股間が爆裂してもおかしくないダメージを喰らい小鹿のようになりながらもまだ立ち上がったのだ。
そして吠える。
「ゆるさ、ねぇ……絶対にぶっ殺してやる……!」
そんな元気があるルーガに対して、ラヴァンは男として思わず尊敬しそうになった。
少なくとも自分が同じことをされたら2度と立ち上がれない気がして色々縮こまってしまったほどだ。
もっともリチェルカはまったく気にしないどころか容赦もなく、吠えるモンスターにするように拳を叩き込んでいた。
剣を使わないのはそれだけの元気がないのか、手加減なのか。
「な、ぐ、なにを、ぐぼっ、お、オレが、だれぐはぁあああ!?」
ボコボコである。
そりゃ金的喰らったあとに満足に動けるはずもない。
「あなたのおかげでわたしは先生に出会えたから、これくらいにしておいてあげる」
リチェルカは落ち着いたのか、ボコボコのルーガを放置してこちらに戻ってきた。
ラヴァンはリチェルカは怒らせないようにしようと心に決めた。
「この、奴隷風情があああ!」
本当にしぶといルーガは、剣を抜いて後ろからリチェルカに斬りかかった。
リチェルカも反転して剣を抜こうとしたがその前に、ラヴァンが前に躍り出る。
「無能が! ちょうど良い、死ねえええ!!!」
「すぅ――」
ラヴァンは冷静に、ルーガの剣を見ていた。
スキルによる赤い斬撃。
よく見ていたからわかる。
喰らったこともあるからわかる。
斬れる一線は――。
「そこだろ」
ラヴァンが剣を横に振った。
「は……?」
信じられない、という間抜け面でルーガはラヴァンを見ている。
ルーガが放った斬撃は、ラヴァンの剣によって断ち切られていた。
「なに、なんで、おか、おかしいだろ! 無能になんでこんな! お、オマエ、スキル隠してたんだな! オレたちを影で笑ってたんだろ!」
「自分勝手な被害妄想も甚だしいな。スキルは未覚醒だって話したろ、隠してないよ。まあ、お前に追放されてから覚醒したんだが」
「ほら、見ろ、やっぱりじゃないか! お前がオレに勝てるわけがない。スキルが強いせいだ! オレはスキルに負けたんだ、オマエみたいな無能に負けたわけじゃない!」
「生憎と、戦闘に使えるスキルじゃないぞ」
「嘘だ、じゃあどうしてオレの斬撃が斬れるんだよ! そんなこと今までできなかったじゃないか! サボってたのか! この無能野郎!」
「努力の成果だよ。お前のおかげってのもアレだけど、このスタンピードで気が付けたんだ。だから、お前は自分のせいで俺に負けたんだよ」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
信じられない事実に、彼は子供のように首を横に振って嘘だと叫び続ける。
それに止めを刺すように、ラフレーズが肯定する。
「本当だよ~。ラヴァンちゃんのスキルは、戦闘系じゃありませ~ん。んー、残念だねぇ。戦闘系スキルもない子に負けるなんてAランクの恥さらしだ~」
「全くです。Aランクの質も落ちましたかね」
「まさか~、彼が無能なだけだよ~。そう言わないであげてね~」
「なん、なんだよ、どいつもこいつもオレを馬鹿にするのか!? オレは強いんだぞ!? 強ければ何をしてもいいんだろ!? だから、オレは――っ!?」
「じゃあ、もう1回やってみればいよ~」
まったくもって反省の色のないルーガの言葉がラフレーズの笑顔に止められる。
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