第15話 チートが判明したかもしれないようだ

 斬り裂かれた雲間から落ちる陽光の中でリチェルカが笑っている。

 その美しさをラヴァンはきっと生涯忘れることはないだろう。

 雲をも引き裂く鋭い斬撃の煌めきと共に、彼女の笑顔が瞼の裏に焼き付いてしまった。


 例えこの先何があろうともこの美しさは記憶の中で燦然と輝き続けるのだとラヴァンは漠然と思う。

 パーティーを追放されて、押し付けられて出会っただけであるが、これだけで彼女と出会えたことはとても良いことのように思えた。


「…………」

「先生? 先生? 大丈夫? どこかぶつけたとか?」

「あ、ああ。すまん少し放心してた」

「良かった。これでクエストは完了だよね」

「あっ、ああ。そうだな完了だ。すごい一撃だったよ!」

「えへへ。褒められた。嬉しい」

「でも帰るまで気を抜かずに行こう」

「うん、わかってる。帰ってクエスト達成報告をするまでがクエスト。冒険者の鉄則」

「そうだ。まずはストーン・ゴーレムを俺のインベントリに仕舞ってから――っ!?」


 唐突にスキルウィンドウが開く。


 ――スキル【人体強化手術】がレベルアップしました。

 ――スキル【人体強化手術】がレベルアップしました。

 ――スキル【人体強化手術】がレベルアップしました。

 ――スキル【人体強化手術】がレベルアップしました。


 そこに出ている連続表示されたレベルアップの文字を見てラヴァンは唖然として固まる。


「どうしたの先生?」

「い、いや、なんかスキルがめっちゃレベルアップした……」

「どれくらい?」

「5、レベル」

「すごい。昨日1レベルだったのが、もうわたしに追いついてきてる」

「いやいやいや、上がりすぎじゃないか!?」

「でも、わたしも上がったよ? 2つ一気に上がって7レベルになった」

「そりゃ、ストーン・ゴーレムを倒してるからな……」


 しかし、ラヴァンが倒したのはせいぜいウッド・ゴーレム数匹くらいだ。

 ストーン・ゴーレムに関しては相手すらしていない。

 それでレベル1がいきなりレベル5になるというのは、どう考えてもおかしい。


 そもそもスキルレベルはそのスキルを用いた経験においてのみ上昇する。

 【人体強化手術】は戦ったところでレベルは上がりはしないはずなのだ。


「もしかして、わたしの戦った経験とかが半分くらい先生に行くのかな?」

「……あえりえる」


 要は【人体強化手術】で強化した者が戦ったり何かしらスキルに関与する経験をした場合、その経験のいくらかがラヴァンにも入るということなのだろう。


「先生、混乱しすぎで言葉がおかしくなってる」

「するだろう、これは……」

「大丈夫。先生が神ということが証明されただけ。わたしが頑張れば頑張るほど先生が強くなる。つまり先生に貢げるってこと……やる気でる」

「いやいやいや……」


 それはどうなんだ? と思うところである。


 ただ同時に、ようやく異世界転生チートっぽくなってきたとも思ってしまう。

 これならば自分一人で【人体強化手術】を行い続けるよりも早く成長できる。


 早く成長できれば、それだけ速くランクを上げることができる。

 今、ラヴァンはDランク冒険者くらいのスキルレベルだ。

 ステータスもそれくらいには上昇している。


 7レベルのリチェルカはCランク冒険者と同程度のスキルレベル。

 Bランクの脅威度であるストーン・ゴーレムを単独で倒せるだけの力を持っているから額面通りの強さではない。


 これならばもっと脅威度の高いモンスターを大量にリチェルカと共に倒せば、最速でレベルアップできるのではないかと思えた。


 それどころか、ここから【人体強化手術】で強化した人員をより増やしたらどうなるか。

 流れてくる経験の量は変わらないのか。

 あるいはそれだけ倍増するのか。


 わからないが、どちらにせよ――。


「ヤバイな、これ」


 追放した奴が短期間に自分たちのレベルを超えたと知ったらアズールキングフィッシャーの連中は、特にルーガはどう思うだろうか。

 それを想像すると顔がニヤケて仕方ない。

 今から、煽る台詞でも考えておこうかとすら思ってしまう。


「いやいや考えるのは後だな。今は帰って報酬をもらう方が先だ」

「うん」


 ストーン・ゴーレムの真っ二つの身体をインベントリに収め、プテリクスを呼び帰路につく。


「……ねえ先生。帰りは、わたしが手綱を握っても良い?」

「唐突だな」

「先生がいっぱい努力をしてたの知ったら、わたしも努力しないとって思ったの」

「そうか。なら良いぞ」

「ありがとう」


 帰りはリチェルカがそう言ったのでリチェルカが前でラヴァンが後ろとなった。


「……ん、難しい」

「も、もっと力を抜いて任せていいぞ。こいつらは賢い。そんなに緊張して力を入れなくてもこっちの意図をわかって動いてくれるから」

「ん、わかった」

「…………」


 軽くOKをしたのをラヴァンは即座に嬉しい後悔をし始めていた。

 後ろになるということは、ラヴァンの方が振り落とされないようにリチェルカの身体に手を回さなくてはならない。


 リチェルカは軽装であるから必然として腰回りなど鎧に覆われていない部分が多々ある。

 そこは当然、女の子らしい柔らかさに満ち満ちているわけで、そこを掴んでいるだけでもラヴァンには刺激が強い。


 その上、プテリクスの上ということで密着しているから、彼女が身を動かすたびプテリクスが揺れる。

 まるでどうですか、兄貴ィ! とでも言ってそうな視線を向けられるのだが、ラヴァンはそんなことを感じる余裕もなかった。


 なにせ、揺れる度にお尻が当たったり、鼻孔をいい香りがくすぐったりするのだ。

 あまりにも良い匂い過ぎて堪能しかけて思わず呼吸を止めるか、刺激が強すぎてそこらへんの木に頭を打ち付けたくなった。


 下手したら男のアレが調子に乗ってしまって、それがバレて大変なことになると、

必死に意識を逸らす。

 そんなこんな男としての尊厳を守る戦いみたいな何かも発生しつつ、行きのような事件は起こることなく2人はラミナーリアの城門を無事にくぐることができたのであった。

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