第5話 私は理想のお母さん
我が子を全員東大に合格させたママの育児教本に出合った時、私の生き道はこれだ、と悦子は思った。
氷河期世代。別名ロスジェネ世代と呼ばれる私達は、今の常識からは考えられないほど就職活動中に何度も人格を否定され、お前は社会に必要ないと言われ、散々苦しみを味わい、やっと決まった職場は劣悪な環境だった。それでもそこで働くという選択肢しか無かった。そこにさえ辿り着けなかった同級生達の屍をかき分けて、私は生き延びたのだ。
長男の秀平と、長女佐奈。我が子達には、絶対にあんな思いをさせないし、屍にもさせない。二人を叱咤し、まず長男は自宅から電車通学で片道二時間かかる進学校に合格させた。だけど、学校のカリキュラムのあまりの厳しさに、挫折し、長男は学校へ行かなくなった。
あの子は、失敗した。せっかく苦労して進学校に入れたのに。ランクの高い人生を歩める道を、せっかく私が作ったのに。あの子は、もうだめ。
でも、佐奈だけは。演劇科の名門北高校から歌劇の道へ。今度は失敗しない。
我が子の輝かしい成功、そのピースが揃って、初めて私は本当のタミーママになる。SNSのフォロワーはもうすぐ4万人に届く。私が何かを呟けば、皆が賞賛し、待ってましたとばかりにいいねをする。だって4万人もフォロワーがいるのよ、そこらの雑魚主婦とは違う。私はいつも正しい。皆の理想のお母さん。
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