第19話


「やっほー」


 ガラリと開かれた教室の扉。同時に放たれる可愛らしい声。その声は間の抜けたような、それでもしっかりと元気を感じさせるような不思議な質をしている。これも計算された可愛さなのか、天然の才能なのかわからないが、北里さんの独自性が光る挨拶だ。


 当然、クラス内の視線は彼女が独り占めをする。今朝であれば、みんなからの「おはよう」という波状攻撃がさながらアイドルのステージに声援を送るファンのようになっていたことでだろう。俺が登校する時間は彼女らの後だから、その光景は見たことはないけど。


「………」


 だが、教室内を支配する重い空気は、そういった声援をこちらまで送り届けることは無かった。代わりに運ばれてきたのは、不可解なものを見た疑念や不信のようなネガティブな感情。隠すこともないと言わんばかりにストレートに向けられたそれには、意図はしていないだろう攻撃性も含まれていた。


 "仲良しトリオ"は周りから向けられる視線なんか気にも留めていなかった。好意的な視線に慣れている分、その分の敵意や害意なんかも浴びてきたのだろう。どうしても有名になればアンチは湧いて出てくるものだ。


 俺だって雑誌に載ることもある。男性らしさを強調して「かっこいい」姿をみせたり、メイクや衣装で着飾り「可愛い」姿を演じたりと、紹介する商品に合わせてイメージを変えて挑戦していた。ただ、「かっこいい」面を見せるプロモーション活動でも、過去の「可愛い」姿に引っ張られてる受け取り手はそれなりにいるだろう。一度、犯人役をやった俳優が、後の別作品でも疑われるように。


 女装なりジェンダーレスなりのフィルターを通して見られ、そのイメージのギャップから嫌悪や批判されることはあるだろう。まぁ、仕事の出来や評判はカナさんからの報告分だけに留めているから、アンチがいることは知っているけど詳しい内容までは知らないけどね。案外、相容れぬものを「気にしない」というメンタルやマインドは、自分の周りの平穏を守るのにも重要なのかもしれない。


 俺はカナさんとの関わりや仕事で、そういった「気にしない」という能力や価値観を培った。カナさんのような強烈なキャラクターが近くに居れば、驚きの閾値が上がって自然と「慣れ」が身に付くよね。


 本校舎ここに来るまでにさりげなく"仲良しトリオ"が行っていたファンサービスのような対応も、そういった声に「慣れ」ているからと言えるだろう。そして、冷たい視線を向けられることも経験したことがあるから、いま動揺しないで居られるのだろう。

 北里さんは可愛さと明るさで、津田さんは身体能力と親しみやすさで、渋沢さんはクールな外見とちょっとした怖さで、それぞれが幼少期からこれまでに多数の注目を集めてきた結果かもしれない。


 俺らと会話を続けながらにこやかに自席に向かう北里さん。だが、心なしかズカズカと進む姿に少し強気な態度が見え隠れしてるような気が…。


「おー、おー挨拶も無しに。なんか今日は静かじゃん?ねぇ?」


 勢いよく座ったと思いきや、その口は周りに煽りをぶちまける。


「そうだよねぇ。いつもはぁ、リナちゃぁん、リナちゃぁんってぇ、うるさいくらいに寄ってくるのにぃ、不思議だよねぇ」


 さすがは北里さん親衛隊長の津田さん。ゆったりとした聖母のような声ではあるが、内容は北里さん煽りに便乗するものだった。その声色は、まるで自分が悪者になったかのような錯覚を覚えさせる。

 まぁ、教室内の空気が悪くなっているのはほぼ"四天王"内での会話から波及されたせいだから、煽られるいわれは無いと思うけどね。


「………」


 渋沢さんに関しては、いつの間にか自分の席に戻っていた。窓際の後ろに位置する席の彼女は、教科書も出さずに頬杖を突きながら窓から空を見上げていた。さもこちらへは興味無さそうな態度をとっている。のだが、寂しがり屋な渋沢さんのことだから、神経を集中して聞き耳を立てていることだろう。


 若干タイミングを逃した感もあるが、しれっと俺も渋沢さんみたいに離脱しよう。そう思ったが、もちろんあおりをまき散らす北里さんは俺を逃しはしなかった。


「えぇ、もうちょっとお話ししようよー」


 言葉だけではなく、袖を掴んで物理的にも引き留められた。そして、さりげなく俺の進路に津田さんが立つ。これでは、無理に解いても勢いで津田さんを押してしまう。いや、そんな無理やりにでも自分の席に戻ろうとはしないけどさ。


 そんな連携を取っている2人に感心していたが、クラスではざわつきが生まれていた。安堵をしている者や驚愕している者たちなどがいたが、グループ単位で感情を共有し合っていた。

 渋沢さんの壇上での宣言により、今日のお昼はカナさんも交えて"四天王"で過ごしていたことはクラス内では周知の事実だ。そんな時間を経て、北里さんの調子が回復し、俺のことをあだ名呼びに戻している。北里さんの様子を見れば、勘の悪い人でも俺らが仲直りしたと感づくだろう。


「お話って、さっきいっぱいお話してきたでしょ」

「足りない足りない足りないよー」

「うーん、もう授業が始まりそうだからちょっとだけだよ?」

「ふふっ、福見くんがお母さんみたいですねぇ」

「そうだね、しかも相当ケチだよ。ケチケチさんだ」

「え?付き合うって言ってるのに、ケチ扱い?」


 えー、周りに仲直りしたアピールをしたいのかなと思い歩み寄ったら、扱い雑じゃねー?


「カナ先輩の説明のおかげで誤解は解けましたが、わたしはリナちゃんを泣かしたことを許してませんからね」


 津田さんが耳元でそう囁いてきた。声はいつもと変わらずだが、口調には冷たいものを感じた。ホラー映画よりもゾクッと来たよ。


 えー、津田さんニコニコしてたし許されたと思ってたんだけどなー。

 というか、勝手に流された噂のせいで喧嘩になっちゃったのは不可抗力じゃ…。


 しかし、北里さん親衛隊長の気は済んでいなかったようである。頭の理解と心の整理が常に同じ歩幅を刻んでいるわけではないからね。頭では許しているけど、心が許してないのだろう。ふむ、どうしたらあがなえるのだろうか。


「そうですね。リナちゃんを泣かせた分、その3倍はリナちゃんが笑顔を送れるようにしてください。あと、どんな理由があろうとリナちゃんが泣いてしまったのであれば、それは相手が悪いです」


 そう言い残して離れる姿は、一瞬がらんどうな人形ヒトガタに見えた。しかし、まばたきの間にいつもの聖母然とする包容力を纏っていた津田さん。津田さんが見せた刹那の隙には、頭の隅にこびりつくような気がした。北里さんに過保護な彼女の態度から、北里さんには守っていこうと思える彼女の過去があるのは察することはできる。もしかしたら、津田さんも何か似たものを抱えているのかもしれない。


 ……、というかカナさんじゃないんだから、さらっと人のココロを読んだような発言をしないで欲しい。「慣れ」たとはいえ、尋問モードみたいなカナさんの前に立つのはまだまだ緊張するのだ。ふぅ、ココロが透かされているようなあの感覚を味わうのはあの場だけで十分だぜ。


「おー?なに2人でナイショ話してんのー?ウチのことハブくつもりかー?」

「違うよぉ、リナちゃん。リナちゃんはねぇ、可愛いねって話だよぉ」

「ほんとーかー?」


 ジロリと疑わし気にこちらを見まわす北里さん。

 さきほど津田さんから言われたことを思い返すと、「よくもうちの可愛い可愛いお嬢を泣かせてくれたのォ。あんさんの言い分はよォくわかった。けどなァ?泣かせたってぇコトにゃ変わりねェんだわ。筋ってもんは、通さねェとなァ?」ってことだよね。

 ヒッ!津田さんの方から何か知らないけど、凍てつくような何かを感じるゾ!


「ウン、キタサトサンハ、カワイイッテハナシダッタヨ?」

「よかったー」


 俺の答えに満足したのか、北里さんは(その裏で津田さんも)満面の笑みを浮かべていた。その笑顔は太陽のように周りに明るいエネルギーを放っている。それは俺らのやり取りをざわつきつつも眺めていたクラスメイトたちが、思わず光合成するほどだった。あぁ、光合成で新鮮な空気を感じる…。


「あ、あの…、リナちゃん、何か良いことでもあったの?」

「うん!」


 というのは、冗談では無かった。その証拠に、俺らの近くに座っていた女子たちがおずおずと尋ねてきたのだ。ちらりちらりと俺を気にしながら、"仲良しトリオ"に媚び寄るような仕草だ。


 察してはいるだろうが認識の共有のために聞いている、と言ったところか。なんなら、この北里さんのさりげない返答が今後のクラスの雰囲気に関わってくると言っても過言ではない。実際に俺らのバチバチでクラス内の雰囲気最悪だったからねぇ。いやぁ、ほんとすまねぇ。悪いのは噂流した人だと思うけど、ちょっとした罪悪感は俺にだってある。


 たったひとこと、されどひとこと。どこぞの壁が崩壊したように、歴史が変わるのはひとつのフレーズからだ。そう言えば、その壁ってイメージ的には東西を分けるように縦に伸びているように思えるけど、実際は地理的というよりは相手派閥を閉じ込めるように囲んでいたって話だよね。


 さて、北里さんはこんなに元気に返していることからわかるように、どうやらさきほど体験したお昼を共有したそうにはしゃいでいる。自分の偉業を親に報告したい子供のような明るさを感じる。


「カナ先輩にお昼ご馳走になってさー。めっちゃうまっ!ってなったんだよね。それでふくみんと仲直りしたんだ。ごめんねー。ウチらめちゃくちゃ空気悪くしてたでしょー?」

「仲良かったみんなが喧嘩しちゃって私たちどうしようかと…」

「心配かけちゃってごめんねー」

「ううん、大丈夫だよ!ていうか、カナ先輩ってあのお嬢様先輩でしょ?どんな食事だったの?」

「えーとねー…」


 勇気を出して声をかけてきた女子を皮切りに、予鈴も鳴っているというのにわらわらとクラスメイトたちが集まってくる。言葉通りに渦中の中にいる俺らは、お祭り騒ぎに巻き込まれてしまった。波の隙間から見える座ったままの渋沢さんは、来るタイミングを逃したのかこちらを羨ましそうに見つめてくるばかりだ。


 ってそんな顔するくらいなら、こっちに来ればいいのに…。それができないところが彼女の可愛い所でもあるか。あとでいっぱい会話してあげよう。


 北里さんの周りの話の中心は、お昼の内容やカナさんの人柄についてだった。食材だけでも味が違うと大げさに話し、味の表現はできないけどすごくおいしいってのは伝わってきたと堂々と言い放っていた。隣で微笑む津田さんも絶妙な合いの手で肯定するおかげか、惹かれるように群衆ものめり込む。


 いつしか、北里さんへの質問コーナーが漫談家の独演会となっていたのだ。


 本鈴が鳴るほんの数分。元々クラスどころが学年内での好感度の高さというアドバンテージが2人にはあったものの、クラスのほとんどが彼女たちの好意的な視聴者となっていた。何度も触れているように、クラス内の雰囲気を重くしていた要員のひとつが彼女たちなのに、だ。


 人を魅了する個性。惹きつけて離さないキャラクター。なるほど、周囲の人々がファンクラブのように"仲良しトリオ"として彼女らを持ち上げるのも納得する。


 周りの手首が柔軟なのか、彼女らの魅力が素晴らしいのか。心配していたクラスの雰囲気改善は、表面上は問題なさそうで安心した。


 後は、俺の噂話が終息するのを待つだけだ。イメージダウンという爪痕は残ってしまった。しかし、出どころ云々はカナさんに任せておけばいいし、イメージアップ戦略は"四天王"として過ごしていれば自然と傷口が直っていくだろう。


 この脳内を誰かに覗かれたら、のんきなものだと呆れられそうだな。最近は、タケにぃに、姉さんに、カナさんに、北里さんに、噂話に…といろいろと舞い込んできた。個人としては、やっとタケにぃのためだけにリソース確保ができる時間が作れるから万々歳である。落ち着いてアヘアヘできるね。…カナさんならこの思考すら読んできそうだけど。


 ――ブブッ!


 既に授業が始まっているため、チャットの受信はバイブレーションで知らせるマナーモードにしてある。このタイミングなら、仕事先か姉さんかな?


『バイトを別の日に移動しましょうか?』


 カナさんからだった。まったくもう、こんなタイミングに送ってくるなんてぇ。授業に集中しなさい!


 彼女からの提案は仕事の日の変更。

 タケにぃの部屋に設置されている監視カメラ映像の録画見返しや実際にタケにぃと過ごす時間の確保といった僕の趣味。変なストレスも無く全力で楽しめるぞと強く思ったからか、それを感知したカナさんが送ってきたのだろう。


 いま、俺の目の前には「友達との約束」といったカードが浮かんでいる。


 つい先日までには無かった選択肢だ。いままで、タケにぃからかけられた「かわいい」という言葉だけを頼りに生きていた。女装をしていたらカナさんに目を付けられ、契約という鎖で縛られていた。その鎖の重さは「かわいい」しか自己表現ができないような軽い僕を留めておくのにはちょうどいいもので、カナさんに従っていれば良かった。今日の食事の時にみんなへ語った「カナさんからの指示があれば友達とも距離を取る」というのは、あの場では冗談ではあったが、冗談では無かった。


 いわゆる指示待ち人間って楽だよね。薄い責任感の中、正しく動くだけで評価が上がるのだから。ただ、その中でも姉さんとタケにぃに関することだけは、カナさんに向かって自分の意思を持つことはできた。それは「家族」と「自己表現」いう心の支えだったかもしれない。


 そんな僕でも、友達という「社交性」が新しく加わった、気がする。

 以前なら「友達の約束」よりも姉さんやタケにぃを無条件で優先していたが、いまの俺には悩ましい選択肢のひとつとなった。いや、それでもさすがに仕事を休むは無いな。やむを得ない事情でも無いのに無責任に仕事を放りだすほど、俺もそこまで阿呆ではない。ナチュラルに聞いてくるからどうしようかと考えはしたけど、びっくりしちゃったよ。


 用事も無いから予定通りに行くよ、と―


 ――ブブッ!


 ―返信しようとしたら、カナさんから追加でメッセージが飛んでくる。


『慶に、心を許せる友人ができたようで嬉しく思いますわ。今日はわたくしも一緒に向かいますわ。彼女たちの引率係ですわね。是非とも、かっこかわいい姿を見せつけてくださいまし』


 カナさんも気に召したようだ。自分の友達が認められたようで俺も嬉しい。俺たち"四天王"を倒しても、奥に構えているのはカナさんという魔王だ。…みたいなRPGが作れるかもね。そんな薬にも毒にもならない考えを浮かべながら、午後の授業をこなしていく。


 放課後までに何度か訪れる休憩時間は、午前中の剣吞な静けさとは正反対の様相を見せていた。まるで転校生に群がるイベントのようになっていた。イベント会場は、北里さんと津田さん。そして、相変わらず近寄るタイミングを逃して教室の端っこで羨ましそうに見つめている渋沢さん。


「そんな顔するなら、混じってくればいいじゃん」

「ひゃっ!?あ、アンタか…。驚かせやがって。ボクは、いいんだよ。ボクが行っても話は広がらないし、何よりみんなを怖がらせちまう」


 背後から近づいて渋沢さんに声をかけてみた。思ってた3倍くらいの可愛いリアクションを返してくれたから、スマホとかで撮影してなかったのが悔やまれる。

 輪に入っていけない渋沢さんは、自分の混ざりに行きたい欲求と周りへの気遣いを天秤にかけていたようだ。せっかくの楽しそうな雰囲気を壊してしまうのは忍びないのだろう。


「ふふっ、確かにそうだね」

「アン?馬鹿にだろ?いま、ボクのこと馬鹿にしたよなぁ?」

「ううん、してないしてない。渋沢さんは優しいなって思ってさ」

「な、なな、なんだよ、急に。ちょっと、顔見ないで」


 わたわたと焦るようにして、赤らんだ顔を必死に隠す渋沢さん。

 恥ずかしがっている渋沢さんは、ギャップがあって可愛い。普段の怖いとかクールなイメージからはかけ離れている渋沢さんだが、今の乙女のような反応をもうちょっと周りに売り出せば、無駄に怖がられることもないと思うんだけどなぁ。


 人見知りであまり人との会話も得意でない、と自称していた。

 現状でも、見た目と雰囲気で怖がられているとは言え、"仲良しトリオ"の一角を担っている。避けられている層もあるのだが、それでも人を惹きつける何かがあるのだろう。そんな隠れたタレントが発見されれば、今の北里・津田コンビのように群がれるのは必至だろう。

 それは渋沢さんに過度なストレスを与えることになるかもしれない。日陰で咲く花が日光を浴びすぎると枯れてしまうように、少ない交友関係の方が心地よいと感じる人が居るのも、また当然の話。


 渋沢さんが食い入るように見つめている人だかりは、人気者に対する嫉妬ではない。むしろ、その人気者に話しかけることのできるクラスメイトたち。そのコミュニケーション能力を羨んでいるのだろう。


 こんな不器用なところも含めて可愛いだろう?渋沢さんは。

 だから、教室の端っこでたった2人、こうしてゆったり過ごしているのさ。


「渋沢さん、ありがとうね。誤解も解けたし、カナさんにみんなのことも紹介できたし、すごい有意義な食事会になったよ」

「ん?いや、逆にすまなかった。結果オーライになったけどよ。下手したら、もっと深刻に仲違いしちまうかもしれなかったんだから、さ」

「でも、必死にカナさんに頼み込んだんだろう?僕なら怖くてできないね」

「あはは!アンタ、いつもは飄々とした感じだけど、尻に敷かれるタイプだったんかい!」

「カナさんに関白宣言できる人はいないよ」

「んー…、あの先輩相手じゃそうかもしれねぇな。なんか、すまんよ」

「渋沢さんこそ、珍しく謝ってばっかりじゃない?今日の本番は、放課後だぜ?」

「珍しく、は余計だ余計。そうだな。業界としては興味ないが、アンタの仕事っぷりは気になるな」

「僕に惚れちゃうかもしれないから、気を付けてな」

「はん、楽しみにしてるよ」


 話の切りも良くなったので、席に戻ることにする。

 北里さんはまだまだ口が回るようだ。展望室から帰ってきたタイミングですでに昼食の感想を述べていた気がするのだが、よくもまぁあそこまで話を盛ることができるものだ。多少の脚色はあれ嘘は言っていないし、カナさんが敷いた緘口令かんこうれいにも抵触していないようなので、この調子なら俺がツッコミを入れることも無いだろう。


 単純に北里さんとのコミュニケーションを取りたい人もいたが、カナさんに対する関心も相当に高いものだった。俺がカナさんの恋人として振舞っていた時も、わざわざ多くは語らなかったからだろう。


 そんな風に平穏かつ、教室中の興味を引いたままに、本日最後の授業も終え放課後を迎えることとなった。

 となれば、"仲良しトリオ"の関心は、俺に向く。もっと話したいと泣くクラスメイトを置き去りにして、"四天王"でカナさんとの待ち合わせ場所である校門へと急いで向かう。目的地には、遠目から見てもわかる胴長の車体を持つ車が鎮座している。


「みなさま、本日の講義お疲れ様でした。こちらからお入りください」


 目的地周辺で突然現れた黒部さんが、そう言ってドアを開けて案内してくれた。




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