『瑞月は今日も女子校でモテている』

プロローグ

 桜の花びらが風で舞い足元に落ちる。


 道に落ちた桜の花びらは疎らで、多くは木に咲き綺麗な春色に染まっている。


 スマホで一枚写真を撮り、家族トークにメッセージと共に送る。


 今の時間なら夕食を取り終わっている頃だろうし、問題はないだろう。


 読み通り直ぐに既読がつき、『自撮りも求む』の母からのメッセージに直ぐ様カメラアプリを開きインカメにする。


 見慣れた顔とミディアムストレートの黒髪に、見慣れない制服が映る。


 濃紺のブレザーとスカートはまだ少し新品特有の匂いがして落ち着かない。


 紺色のソックスは前の学校と同じため良くも悪くも感情が湧かない。


 赤のストライプネクタイが曲がってないのを確認しスマホを横向きにする。


  としか求められていないが、桜の木と新しい制服が映るように距離を調整する。


 顔の横でピースをし笑顔でシャッターボタンを押す。


 送信すると立て続けに、『可愛い』『似合ってる』と送られ、ありがとうのスタンプを送り返し画面を閉じる。


 喋りながら私を追い越して行った二人組の後を追うように校門を抜けるとベージュと白の二つの校舎が見えてきた。


 ここが私が今日から転入する神良かみら女学院、中学から大学までの附属校で名前の通り女子校である。


 私はここの高等部に今日から通うことになる。


 向かって左に位置するベージュの校舎が中等部、右手の白い校舎が高等部の校舎になっており2階の渡り廊下で繋がっていると学校案内のパンフレットに記載されていた。


 この校門をくぐるのは転入試験の時以来二度目である。


 だが、一度目の記憶は無いに等しい。


 あの時は試験のことで頭がいっぱいだったためそれ所ではなかった。


 試験前後も試験官の先生が何か色々と説明してくれてはいたが、今となっては「緊張しないでリラックスしてね」「試験お疲れ様」の試験での定型文ともいえる言葉しか思い出せない。


 まぁ数ヶ月前の記憶はさておき、今は職員室へ行き担任とクラスを…。


 ふと疑問が浮かび校舎の手前で立ち止まる。


(職員室ってどこだ?…)


 今になって校内マップを一度も見ていないことを思い出す。


 転入が決まってすぐ学校のパンフレット等は貰ったのだが、まぁ教室の場所とかはそのうち覚えるでしょと飛ばして読んでいなかった。


 数週間前の呑気な自分にちゃんと読め!と叱りたいところではあるが今はそんなこと言ってる場合ではない。


 一度深呼吸し焦った心を落ち着かせ解決策を見つける。


 見つけるといっても、こういう時は誰かに聞くのが一番早いので解決策を考えるまでもない。


 周りを見渡すと、後ろから二人の生徒が並んで歩いて来るのが見えた。


 二人とも黒髪で右側の子はショートカットの長身で左の子より頭一つ大きい。


 もう一人の方は黒髪のロングで身長は私より少し小さいくらいだろうか。


 私は左の髪の長い子に声をかける。


「あの、すみません」

「はい?」

「職員室の場所教えてもらえませんか?」

「え、えっと…高等部側の校舎の2階にあります」

「高等部側の2階…ありがとうございます!」


 お礼を言い振り返ると再び校舎へ歩き出す。


 高等部側の昇降口へ移動し、一先ずA組の下駄箱を探し靴をしまう。


 内履きに履き替え近くの階段から2階へ上がるとフロアマップが目の前に見えた。


 左へ進み突き当たりを左に曲がれば職員室のようだが、一度反対側のトイレへ向かい身だしなみチェックをしておくことに。


 髪やネクタイを確認しボタンも三つしっかり留め、来た道を戻る。


 歩きながらふと先程の二人を思い浮かべる。


(二人とも可愛かったな)


(制服同じだったから高等部だよね、同学年かな?)


 職員室の前までやって来ると、二回ノックしドアを開ける。


 教員たちの机がズラっと並び、先生たちが忙しそうに右へ左へ動いている。


「失礼します、本日転入してきた日乃瑞月ひのみづきです、担任の高橋先生はいらっしゃいますか?」

「私だよ」


 入口付近に立ち掲示板を見ていたスーツ姿の女性が私の問いに答えた。


 予想より返答が近くから帰ってきて少し驚く。


 格好はベージュのスーツで下はパンツスタイル、インナーとパンプスは黒色で、左手に時計をつけている。


 身長は私より少し低めで、20代後半くらいに見える。


「私が2-A担任の高橋です、よろしくね。」

「日乃瑞月です、よろしくお願いします!」

「それじゃ教室に行きましょうか」

「はい」


 職員室を出て歩き出した先生の左に並ぶ。


 後ろをついて行こうかとも思ったが、周りに人がいないから並んでも邪魔にならないだろう。


「職員室まではすんなり来れた?」

「いえ、場所が分からず初日から生徒に聞いちゃいました」

「まぁ最初は分からないわよね、この学校広いし」

「広いですよね初めて来た時ビックリしました」

「私もよ」


 話してる感じとても気さくな先生でなんだか安心する。


 階段を登り教室のある4階に到着した。


「そういえば私、日乃さんの転入理由までは聞かされてないのだけど、聞いても大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


 私が転入することになったのは本当に突然決まったものだった。


 事の発端は3ヶ月前に遡る。

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