第9話 詐欺計画の加速③
一方、カトリーナ・ヴェステアの家の応接間にはレオン・アヴァルトの姿があった。ふたりはテーブルを挟んで談笑しているが、その会話の内容は「アルディアス家の投資計画」一色である。
「カトリーナ、知ってるか? アルディアス家の新規事業、ずいぶん勢いがあるらしいぜ。どこかのパーティでかなり資金を集めたって聞く」
「ええ、私も噂で耳にしたわ。なんでも既に何人かが出資を決めて、どんどん金が集まってるって……。凄いわね」
カトリーナは手元のティーカップを持ち上げ、考え込むように目を伏せる。一方、レオンは少し身を乗り出し、「あれ、どう思う?」と先を促す。
「私、実はフローレンスからも『もし興味があれば』って声をかけられてるの。あの人って、仲介役として動いてるんでしょう?」
「ああ、そうらしいな。俺も似たような勧誘を受けたよ。そこそこ手数料は取られるみたいだが、優先的に出資できるそうだ」
「そっか……。もしこれで私たちが儲かれば、借金だって全部片付くんじゃないかしら。そう思うと、胸がドキドキするわ」
カトリーナは頬を紅潮させ、期待に満ちた瞳をレオンに向ける。もちろん彼女は自分の借金を「結婚でレオンが肩代わりしてくれる」と思っていたが、それより先にこの投資で解決するなら手っ取り早いと考えているらしい。
「だよな。俺も正直、金は欲しい。……あ、い、いや、まあ投資で儲かるならそれに越したことはないって話さ」
「ふふっ、レオン様ったら正直なんだから。でも、私も同じよ。借金苦なんてもう御免だもの。これで私たちは安泰ってわけね」
「そういうことだ。フローレンスの話じゃ『初期参加枠』ってのがあるらしい。そこに入れればけっこうなリターンが約束されるとか。どうする? 俺たちも参加してみるか」
レオンがニヤリと笑うと、カトリーナも「ええ、ぜひ」と即答する。そのまま二人はテーブルの上にあるフローレンスから届いた案内状を取り上げ、目を通す。
そこには「アルディアス家主導の開発事業――海外貿易と大規模土地開発を軸に莫大な利益が見込まれる」等々の耳障りのいい文言が並んでいた。
「最初は小口でもいいから出資してみて、様子を見てから追加するのが得策かしら」
「それもいいが、もし枠が埋まったら後からは入れないかもしれないって話だぞ。早めに大きく張ったほうがリターンが大きいって、フローレンスは言ってた」
「んー、悩むわね。……でも『急がないと損する』って言葉、ちょっと怖いわ。まるで煽ってるみたいで」
「まあ、そう言わないでくれよ。どのみち投資は『先行者が得をする』のが常識だからな。俺は思い切って突っ込んでもいいと思ってる」
「わかったわ。じゃあ、私も腹を決めるわね。これで借金がチャラになるなら、ありがたい話だもの」
カトリーナは思い切りよく口にし、レオンは深くうなずく。それぞれが隠し合っている負債を解消するためには「こういう賭け」しかないと、二人とも固く信じているのだ。もちろん、どちらも詳しい計画の実態など気にしていない。大事なのは「儲かりそうかどうか」だけ。
「カトリーナ、一緒にやろうぜ。フローレンスから仲介してもらって出資すれば、俺たちの未来は薔薇色だ」
「ええ、レオン様。こんな絶好のチャンス、逃したらもったいないわ。二人で幸せになりましょう」
互いが互いの借金事情を知らないまま、同じように打算を膨らませ、手を取り合う。そこにはロマンチックな愛のエッセンスなど微塵もなく、「得するかも」という皮算用だけが存在する。
フローレンスはそんな二人からも仲介料をしっかりとむしり取る気満々で、既に手を回している。アルディアス家が詐欺まがいの計画を加速すればするほど、そこに便乗しようとする連中も巻き込まれていく。まさに、泥舟に乗り込む亡者たちの群れ――と言ったほうが近いかもしれない。
(エレノアの家だろうが何だろうが、構わないさ。金が手に入ればいい)
(これで借金返済できて、レオン様との結婚が安泰になるなら最高だわ。アルディアス家、ちょっと怪しいけどきっと大丈夫よね)
互いに都合のいい夢を見ながら、レオンとカトリーナは満面の笑みで「投資参加」へ踏み出す寸前まで心を固めていた。もう少しすれば、フローレンスが二人のもとへ具体的な「出資手続き」を持って現れることだろう。
こうして、アルディアス家の詐欺計画はさらに加速し、レオンとカトリーナさえも新たな投資家として取り込もうとしている。誰もが「自分だけは最後に笑う」と信じて疑わない。
果たして、この恐ろしい騙し合いの行き着く先は、地獄か、それとも「一瞬の」天国か――まだ誰も気づかないまま、物語は進んでいく。
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