第129話
「……」
館は塀で囲まれているから、中の様子までは分からないけど……パッと見た感じ、見張りの騎士が館の前に2人いるだけで他には誰も待機している様子が無いんだが。
本当にこっちの動きに気がついていないのか、罠なのか。……罠だと思う方が普通……ではあるよな。
「貴様ら、こんなところで何をしている? しかも兵士までいるじゃないか」
そう思っていると、見張りをしていた騎士の1人が俺たちを警戒するように腰に携帯している剣に手を置きながら、そう聞いてきた。
「領主様が俺を呼んでいると聞いたので、来たんですけど……」
耳につけている治癒士の証を見せながら言う。
「治癒士……チッ。それにしては随分と遅いと思うが、まぁいい。今、確認を──」
「しなくていいわよ」
シャネル様のそんな言葉が聞こえてきたと同時に、その騎士の体が吹き飛び、塀に思いっきり体を叩きつけられていた。
「なっ!? き、貴──」
そんな光景を見たもう1人の見張りをしていた騎士が動き出そうとした瞬間、ナナミがその騎士を気絶させていた。
……言葉も何も無かったのに、この連携……少し前までのあんまり仲が良くなさそうだった関係を考えると、嬉しい思いがもちろんあるんだけど……今じゃないと思う。
……ほら、ザザさん達だって突然のことにびっくりして固まってるぞ。
「あ、あの? シャネル様?」
「何よ。どうせ同じことよ。貴族の責任も果たそうとしないような者をこの街の為にも、領主のままでいさせるわけがないでしょ。確かに、この騎士達が悪い人達だったのかは分からないけど、領主の命令には逆らえないんだから、戦力は減らせるうちに減らしておくに限るわ」
そう言われてしまったら、何も言えない。
甘い考えだったのは俺の方か。
チラッと後ろを見る。
ザザさん達はさっきまで固まっていたのが嘘みたいにシャネル様という高貴な方の自分たちを想う発言に感動して涙を流していた。
「あんた達は館の中から領主が逃げないようにこの屋敷の周りを囲んでおきなさい。私とアルスとナナミで中に行くから」
「わ、分かった……です! 是非俺たちに任せてくれ……です!」
ザザさんの返事と共に兵士の人達はシャネル様の命令通り屋敷を囲むように動き出してくれていた。
「行くわよ、2人とも」
ナナミと一瞬だけ顔を見合せてから、俺たちはシャネル様の後を追った。
シャネル様が扉に近づいていく。
ノック……をするのかと思いきや、そのまま風の魔法で扉を吹き飛ばしていた。
……あれは、いいのか?
ま、まぁ領主が街の住民を見捨てて逃げたと最初に聞いた時からシャネル様は割と怒ってたし、仕方ない……のか?
突然のことに唖然としているメイドさんの姿を見ると、可哀想になってくるけど……恨むのなら自分のところの雇い主を恨んでくれってやつか。
……まさかメイドさんを見る初めての機会がこんなことになるとはな。
後任の貴族様が送られてくるだろうから、あんまり屋敷を壊さない方が良いと思うんだけど……ま、シャネル様が向こうに抵抗されたから、とでも言えば平気なのか。
ここの領主が悪い。シャネル様は悪くない。これでいいな。うん。
「な、なんだ!? 何の音だ!?」
用心棒……ではなさそうだな。平民の俺がパッと見で分かるくらいに高そうな服を着ているし、でっぷりと太っている。
考えるまでもなく、領主様本人かその血筋の者だろう。
こんなところにいるくらいだしな。
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