Part11:「渡河作戦」
自衛隊のこの作戦地域での進行、掌握率は60%を完了しつつあった。
AからGまでの七つに区分けしたエリアの内、A~Dの四エリア。その内にある町村を確保制圧。
そしてそこから継続される作戦行程の内で、差し掛かりぶつかったのは。その作戦地域の中間地点を大きく隔てる大河だ。
敵、帝国軍は当初こそ。その快進撃をあと少しでチェックメイトという所で挫き掬われ、一時的に混乱混乱から崩れる様子を見せたものの。
間もなく立ち直りを見せ、組織的な後退を開始。
今はその大河の向こうまで引き、強固な防御態勢を整えているとの観測報告が入っている。
それを破り、さらに押すべく。自衛隊によりこれより開始されるのは、渡河作戦だ。
帝国軍のいくつもの火砲火力の照準下にある大河を、命懸けで越え。そして対岸で防御態勢を整え待ち構える帝国軍部隊を、排除無力化しなければならない。
すでに、その初動は開始されていた。
幸いに、激流という程のものではないが、それなりに速い流れを見せる大河。
その内を、渡河作戦の先鋒を務めて渡り進むは。外域作戦団 普通科戦闘群、その第3普通科中隊の面々だ。
彼等は、普通科戦闘群に先日に増強編成されたばかりの、戦闘上陸中隊の水陸両用車に。AAV7、及び94式水際地雷敷設装置から派生した水陸両用車に。
今のこの時のような事態を想定し、わざわざ水陸機動団から無理を言って増強応援に寄越してもらった、その各車に分乗して。
波に揺られつつも進んでいた。
「――ハァッ、マジか」
そんな渡河の最中のAAV7及び水陸両用車の隊形の、内一輛のAAV7。
その車上で、開いた天井扉より身を乗り出している一等陸士――名を
大河を越えた向こう、戦闘上陸中隊の進路正面に見えるは、川岸に沿って伸びて聳える小高い崖の壁。
合わせて言えばその崖の上は、後退した帝国軍によって陣地が構築。急造りだが要塞化され。
さらにその奥には、敵の重迫撃砲部隊が配置展開したことが、自衛隊側の航空偵察によって確認されていた。
そしてその内の、重迫撃砲の確保無力化こそが。第3普通科中隊に割り当てられた任務であった。
その伝えられている敵情報と、その敵が実際に篭る向こうの崖を。
これより自分等が踏み込み、攻略しなければならないその光景を見て。
骨が折れる思いを感じて、零れた彗ヰの一声であった。
「年寄りみたいを声を出すな」
そんな彗ヰに、尖りながらも呆れた声でそんな言葉が掛かる。
AAV7の車上。彗ヰの前隣で同じく対岸を観測する、彗ヰの分隊長である二等陸曹からの呆れつっこむ声だ。
「あんなん前にしたら、老けるの早くもなりますわ」
しかしそれに悪びれずに淡々としつつも、皮肉を込めた言葉でまた返す彗ヰ。
「――ぬぉッ!?」
そんなやり取りを割って阻む様に。彼等の乗るAAV7のすぐ真横で、鈍い爆音と水飛沫が上がったのは直後。
そしてそれは一つに留まらず、それを皮切りに戦闘上陸中隊の周囲近くで、いくつも巻き起こり始めた。
「近づいてきたぞッ」
少し身構えつつも、車内の指揮下分隊の各員に張り上げ知らせる二曹。
始まったそれらが示す通り、隊は敵の砲撃の射程範囲に進入したのだ。
「手厚い事だッ」
次には、またも近くで着弾の鈍い音と水飛沫が上がり。さらには散発的だが、対岸より敵の銃火も届き掠め始めている。
そんなそれぞれを聞き感じつつ、彗ヰは皮肉気に零す。
――ガァンッ、と。鈍くも一際大きな衝撃音が、近くで上がったのは直後。
「ッォ――お隣がッ!」
見れば、隣近くを進行していた一両のAAV7が、降り注いだ砲撃に被弾。少なく見ても中破し、行動不能に陥った様子がそこにあった。
「救助は後続に任せろッ。すでに目と鼻の先だ、前の敵に意識を向けろッ!」
「ッ!」
しかし、二曹はすぐにそう伝え命じる声を張り上げる。
その言葉の通り、敵の待ち構える対岸はすぐそこまで迫り。向こうには小高い崖際が、しかし巨大なそれかと錯覚を覚えるまでに、堂々と横たわり聳えている。
それを前に、無意識に彗ヰは歯を食いしばる。
「間もなく着上陸ーッ!」
乗車するAAV7の、車長の告げる声。
そして間もなく、戦闘上陸中隊のAAV7各車は波打ち際を割り。ウォータージェットから推進の役割を交代したキャタピラで、岸を踏んでダイナミックに上陸。
さらに続くように水陸両用車も上陸。
水陸両用車にあっては岸の柔い地面に車輪を取られ、擱座する車輛も少なからず見受けられるが。それで構わぬと言うように、各車は次々にそのまま岸に乗り上げる。
――そして瞬間。いくつもの火薬の炸裂音が、そして「射ち放ち」の音が響き上がった。
唸ったのは、水陸両用車の各車に搭載されていた、旧式MATの発射機思わせる箱型の装置。
そのそれぞれから次々に撃ち出されたのは、簡単な構造のロケット。それらは縄梯子を繋ぎ引っ張り、崖の上を目指して瞬く間に飛び上がった。
それらは過去の大戦中の上陸戦に倣い、高所への進出のために突貫で用意された装置であった。
「降車ァッ!行け行け行けェッ!」
その射出の結果がどうなったか、それはひとまず後回しと言うように。分隊長の二曹は車上で指示の声を張り上げる。
それに呼応してAAV7に搭乗していた分隊各員は。
開き降ろされた後部ランプドアを踏んで、岸へと駆け降り。二曹に彗ヰ等の数名にあっては、車上よりそのまま飛び降り、岸に足を着く事を果たした。
「麓まで行け、行けェッ!」
しかし、もちろん安堵の時には早すぎる。
各隊各車の着上陸を、待ち構えていたのように始まったのは。頭上崖上を取っている帝国陸軍擲弾兵部隊の、機関銃銃火に各銃器の射撃攻撃だ。
晒され、浴びせられるそれらに顔を顰めつつも、しかし狼狽える事は無く。
彗ヰに二曹始め、着上陸を果たした第3中隊の隊員等は。崖の麓を目指して銃火の雨霰の内を駆け抜ける。
「ッ!」
その最中、真上を轟音を立てて飛行体が飛び抜ける。
空自のF-2Aだ。
そして崖上より爆音が響き、微かに爆炎が零れ見える。
上陸隊を支援するための支援爆撃が。もちろん敵の防空砲火がある中を、しかし決死で敢行されたそれが。崖上で見事に炸裂したようだ。
「っとぉッ!」
「ッ」
第3普通科中隊は決して無傷、無被害とはいかなかったが。
しかし航空支援や、AAV7始め各車の撃ち上げる火力支援の甲斐あって。
多くの小隊分隊、隊員等は。上から比較的死角となっている、崖の麓への辿り着くことに成功した。
「各個応戦しろッ、落とされる手榴弾を見逃すなッ!」
側方向こうでは彗ヰ等の小隊長が、指示と警告の声を張り上げている。
それをしかし聞くまでも無いと、各分隊に各員はそれぞれの火器で、崖の上に向けて撃ち上げ応戦攻撃を開始。
崖上からは、機関銃などの設置火器の射角が取れないため。擲弾兵たちがまた決心のそれで身を乗り出し、各個銃火を撃ち降ろし浴びせてくる。
「――よし、この梯子はうまいこと引っかかったな」
そんな銃火の応酬が行われる中。
二曹は崖の上に鍵爪によって引っ掛かり、確かに崖上へと昇る手段となった縄梯子を、強く引っ張り確認している。
流石に全てとはいかなかったが、射ち込まれた伸ばされた縄梯子のおよそ半数以上は。崖上にうまく引っ掛かり、崖を上る手段となってくれた。
「そいつぁよかったッ」
その事実に彗ヰは、ここに留まらなくて良いということを歓迎する半分。
しかしこれより決死の崖登りから、敵と戦わなければならない事実に。骨が折れると言った様子をまた半分見せながらも。
瞬間。ボトリと振り落ちて来た帝国軍擲弾兵の手榴弾を。しかし片手間のように、すかさず拾って向こうの誰も居ない方向に放り捨てる。
「よし、上がるぞッ」
その放り捨てた手榴弾の爆発爆音を向こう聞きながら。しかしそれに負けぬ張り上げ声で二曹は発する。
「班長、一番乗りもらっていいですかッ?」
そこへ彗ヰが進言し、名乗りを上げる。
自らが最初、先陣を切って縄梯子を登り、崖上を目指すことを申し出るものだ。
「後から泣き言を言うなよッ?」
「当然」
二曹は忠告の言葉を真っ先に寄越すが。彗ヰはもちろんと言うように、それにすぐ様返す。
「よし、任せる――他は援護しろッ」
それを受け、二曹は今はそれ以上の長々とした問答は無用と。
彗ヰの背中をバシと叩き、縄梯子の端を渡して任せ。周りの他の分隊員に告げる。
そして、分隊各員の援護射撃が苛烈に始まった中を。彗ヰは縄梯子を登り始めた。
「ッ――ッぉ!」
下からは無数の味方からの援護射撃が上がり。上からは敵の身を乗り出しての決死の妨害攻撃が降り注ぐ。
決して怖くないわけは無い、しかし臆すことこそ一番の愚と。彗ヰは確かな、しかし素早い動作で縄梯子を登っていく。
「――……ぅぁぁあっ!」
「ッ!」
途中、味方自衛隊側からの射ち上げに射貫かれた帝国兵が、崖上より脚を滑らせ。叫び声を上げながら、彗ヰの背後間近を掠めて落下して行った。
「ッー」
それに少し気分の悪いものを覚えながらも、彗ヰは縄梯子を登り続ける。
時間はそう掛からずに間もなく、崖の頂上が見え。彗ヰは背負っていた自身の火器――7.62mm対人狙撃銃 G28E2を、負い紐を利用して下げて手元に控える。
彗ヰの本来の役割は選抜射手(マークスマン)だが。この異世界に来てからの立て続く戦闘状況の都合から、前哨狙撃員(スカウトスナイパー)の役割も簡易・応急的に担うようになっていた。
愛用の得物を用意し、いよいよ崖上に乗り込むべく身構える彗ヰ。
「ッ!」
ヌ――と。真上、崖際の影よりまた、しかし巨大な人影が覗いたのはその時。
それはオークの帝国擲弾兵のもの。その手には帝国軍の小銃が構えられ、こちらを狙っている。
そして次には、甲高い発砲音が響いた――
「――ぁ……」
軍配は――彗ヰに上がった。
ちょうど控え、真上に向けていたG28を彗ヰは咄嗟に撃ち放ち。それが敵のオーク擲弾兵の発砲を認める前に、その彼を撃ち抜き仕留めたのだ。
相手のオーク兵は、次にはぐらりとその巨体を崩し、崖から脚を滑らせ。
先程に落下して行った敵兵と同様に。しかし今度は悲鳴も何も上げずに、彗ヰの近くを掠めて落下して行った。
「――悪いなッ」
敵ではあっても、痛ましい光景。しかし、都度都度に感傷には浸っていられない。
彗ヰは縄梯子の残りを手早く登り切り、程なくして崖の頂上に手を駆けた――
――――――――――
読んでの通り、諸オック岬の戦いです。
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