第2話:閉ざされた想い

 頭が痛い。弥生ちゃんと日番谷君の話を聞いてから放課後になるまでずっと頭が痛かった。それに今日は何だか変だ。知らない何かが流れるし、何度も何度も何かを思い出そうとしている誰かがいる。なのに、それが何なのかが分からない。


「痛っ!」


 そんな事をずっと考えていたからだろう、日番谷君が目の前にいたのに、気づかずにぶつかってしまい、尻もちを付いた。


「大丈夫か!? すまん、俺が避けるべきだった」

「う、ううん。私がボーとしてただけだから」

「ほんとに大丈夫か?」


 そう言って、日番谷君は私に手を伸ばす。その光景をみた瞬間、再び鈍い頭痛と何かが再生される。


──怪我、痛い? 大丈夫だ。どんな事があっても俺がずっと傍に居続けるから


 そう言って、私に手を差し伸べる知ってるけど、知らない誰かの映像が流れる。


 どうしてだろう。貴方のその声が、その仕草が、その表情が、私の何かを呼び覚まそうとしている。……けど、何かが足りない。そんな感覚だ。


「本当に、大丈夫よ」

「……そうか。東条さんも気を付けてな」

「────」

「どうかしたか?」

「う、ううん。あの、何か用事でもあるの?」

「毎年の恒例行事があるだけだ。…………デート、嫌なら、きちんと断った方がいい」

「え?」


 突然、彼からそんなことを呟かれた。そもそも何で私が駒田先輩とデートする事を知っているんだろう。


「あの手のタイプは諦めが悪い。下手に構うのが1番危険だ。だから、はっきりと言うべきだ。もう声をかけるな、とな」

「え。で、でも……」

「安心しろ。ああいうタイプはそれだけで手が出せなくなる。自分の印象を大切にしているからな。それじゃ……」


 それだけ言って、彼は帰っていった。普段そんなにしゃべる機会がないから驚いたし、まさかアドバイスまでもらうだなんて思いもしなかった。……確かに今まではっきりと構わないでと言っていなかった気がする。


(……何でだろう)


 彼の言葉を聞いた途端、心が熱くなった。まるで彼から勇気をもらったかのような感覚だ。そして、足元に何かが落ちている事に気が付いた。


「日番谷君の、生徒、手帳?」


 恐らく、さっきぶつかった時だ。どうしよう、返さないと行けないけど、連絡先を知らない。弥生ちゃんは部活でもういないし、どうすれば……。


(……少し、覗いてもいいよね?)


 申しわけないけど、彼の生徒手帳を覗く事にした。住所が載っているだろうし、上手く行けば電話番号が書いてあると思ったからだ。


(…………え?)


 だけど、そんな思惑は彼の生徒手帳を開いた途端、消え去った。何故なら──。


「ここにいたか、東条。早く行こうぜ!」

「……私、用事を思い出したから帰ります! それと、迷惑だからもう話しかけないで下さい!!」

「え? ちょ、待ってくれ! 東条!!」


 駒田先輩の事なんてどうだっていい! 私は直ぐにでも確かめないといけない事が出来た。どうしてかは分からない。だけど、そこに行けと私の中の誰かが叫んでいる。




(頭が痛い……)


 走ってる間もずっと頭が痛い。同時にまたしても知らない何かが再生される。




──怖いよ、※※君……


──大丈夫だ、絶対に成功する。だから安心して手術を受けろ。


──そっちじゃないよ! だって、成功したら忘れちゃうかもしれないんだよ!? その中には※※君がいるかもしれない。それが嫌なの! 怖いの……


──安心しろ、ナギ。……例え忘れても、ずっと傍にいる。俺がずっと見守るから。だって俺は──




「痛っーーーーー!」


 今までにないくらい頭が痛い。でも行かないと……。そんな思いに駆られ、私は頭を押さつつフラフラになりながらも何とか自分の家に着いた。


「あら、早かったね。……って、渚どうしたの!?」

「話し、かけないで……」


 私はフラフラになりながも、自室に入る。そして、例の12桁の番号で施錠された箱を手にし番号を入力する。理由なんてない。だけど、この番号で開くと言う根拠のない自信だけはある。


(……お願いだから開いて欲しい)


 そんな思いが通じたのか、カチャリと施錠が外れる。


「開いた……」


 私は恐る恐る中身を確認すると、1枚の紙と押し花、それとが入っていた。


「これは、キキョウ? それに鍵と手紙だ……」


 手紙を読む前に私はひとまず鍵から確認してみることにした。


(多分、あの開かずの部屋の鍵、だよね……)


 フラフラになりながも例の部屋の前まで行き、鍵穴に入れて回してみると、カチャリと鍵が開いた。


「やっぱり……」


 そうして中に入ってみると、そこはぬいぐるみとかが沢山ある可愛い女の子の部屋だった。


(でも、私には姉妹はいない。なら、ここは私の昔の部屋?)


 どうしてそんな事すら覚えてないんだろうか。それから部屋を少し散策してみると、ベッドに写真立てがあったので見てみる。そこには小学生くらいの女の子と男の子が2人仲良く手を繋いでいる写真だった。


「夢の中にいた私だ。……じゃあこの子が?」


 ようやく会えた夢の中で登場したその男の子はとても明るい笑顔で、そんな私は少し照れているのか、顔が赤かった。でも2人ともとても幸せそうな笑顔だった。


 ふと、夢の中の記憶が再生され、靄がかかっていた男の子の顔が鮮明に見えるようになった。その顔はとても眩しく、何故か私の胸の奥が暖かくなる。


(……違う。これも大切だけど、もっと大切なものがある筈だ)


 そして私は握っている手紙に目を向ける。誰が書いたのかは分からない。だけど、これを読まなければならない。そんな衝動に駆られ、私は手紙を開き読み始める。


「……………………っ!? ……あ、あぁああぁ、あぐっ、う、うぅぅ、ぐすっ」


 読んだ瞬間、その場で膝が崩れ、涙が溢れだした。それは確かに私の心を貫いた。



──例え忘れても、永久の愛を君に



 たった1文しか書かれていないのに、涙が止まらない。誰が書いたのか分からないのに、確かに私はその人の事を知っている。他でもない私の心が。忘れちゃいけない。忘れちゃいけなかった。


(会いたい。顔も知らない貴方に会いたい)


 まだ、頭は痛い。涙も止まらない。それでも会わなくてはいけない。多分それで全部が揃うから。私は急いで下に降りて──。


「お母さん! あの人は、……君は今、何処にいるのっ!!!」

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