[総ルビ]異世界辺境村スモーレルでスローライフ

15. ペークヒェ町

●15. ペークヒェ町（まち）

　三日間（みっかかん）馬車（ばしゃ）で移動（いどう）した先（さき）は、ペークヒェ町（まち）だった。日本人（にほんじん）にはちょっと変（へん）な名前（なまえ）だな発音（はつおん）しにくいなと思（おも）いつつ、そんなもんかとも思（おも）う。

　よくある定番（ていばん）の城壁（じょうへき）のようなものは無（な）いようだ。

　町（まち）の周（まわ）りは全部（ぜんぶ）畑（はたけ）地帯（ちたい）。町（まち）の部分（ぶぶん）は水堀（みずぼり）と土塁（どるい）で囲（かこ）われていて、一応（いちおう）防御力（ぼうぎょりょく）はそこそこありそうだ。

　土塁（どるい）ってのは土（つち）の壁（かべ）というか小山（こやま）みたいに盛（も）り土（つち）してあるだけのやつのこと。

　入口（いりぐち）の場所（ばしょ）だけには石造（いしづく）りの城門（じょうもん）があり跳（は）ね橋（ばし）が架（か）かっていて、警備（けいび）の兵士（へいし）が槍（やり）を持（も）って立（た）っていた。

　入市（にゅうし）税（ぜい）のようなものもなく、すんなり中（なか）に入（はい）ることができた。

　この町（まち）の税金（ぜいきん）制度（せいど）はどうなってるんだろう。

　聞（き）いてみると領内（りょうない）は通行（つうこう）自由（じゆう）らしい。他領（たりょう）までいくと関税（かんぜい）のようなものがあるようだった。

　ただそれも基本（きほん）は丼勘定（どんぶりかんじょう）で馬車（ばしゃ）一台（いちだい）いくら、人（ひと）何人（なんにん）でいくらだそうだ。

　個々（ここ）の商品（しょうひん）だと面倒（めんどう）だし覚（おぼ）えられないし計算（けいさん）もできないと言（い）われ、さらにアイテムボックスや魔法（まほう）袋（ぶくろ）があったら誤魔化（ごまか）せると言（い）われれば確（たし）かにと納得（なっとく）した。

　アイテムボックス、初（はじ）めて聞（き）いた。俺（おれ）以外（いがい）、実在（じつざい）していたか、と感心（かんしん）した。

　門（もん）の中（なか）は目抜（めぬ）き通（どお）りがあり、露店（ろてん）が出（で）ている。

　少（すこ）し進（すす）むと広場（ひろば）がありそこも露店（ろてん）で埋（う）まっている。

　朝市（あさいち）は終（お）わっているようだけど、普通（ふつう）に市場（いちば）は開（ひら）いていた。ここでは一日中（いちにちじゅう）ものの売（う）り買（か）いがされているようだ。

　今日（きょう）はここに一泊（いっぱく）していく。

　まずは商会（しょうかい）で商品（しょうひん）の売（う）り買（か）いを見学（けんがく）した。

　特筆（とくひつ）することはないけど、何（なん）となく勉強（べんきょう）になった気（き）がする。

　はははは。難（むずか）しいことはよく分（わ）かんね。

　まだ時間（じかん）があったので外（そと）の露店（ろてん）を見（み）て回（まわ）る。

「らっしゃいらっしゃい、今日（きょう）はゴボウが安（やす）いよ」

　ふむ。ゴボウかと、置（お）いてある商品（しょうひん）を見（み）てマールラ語（ご）を覚（おぼ）えていく。

　ゴボウはだめだ。

　栽培（さいばい）するには地面（じめん）を深（ふか）くまで耕（たがや）す必要（ひつよう）がある。うちの畑（はたけ）はそこまで深（ふか）く耕（たがや）していなくて、下（した）のほうは石（いし）ばっかりだと思（おも）う。

　そこまでして育（そだ）てるのは大変（たいへん）なのでパスしようか。

　いや、まぁあるならあるで料理（りょうり）のレパートリーが増（ふ）えるし、短（みじか）いのになるけど試（ため）しに栽培（さいばい）してもいいかもしれないと思（おも）いなおす。

　ゴボウを十本（じゅっぽん）ぐらい買（か）って、背中（せなか）のリュックにいれる風（ふう）に装（よそお）ってアイテムボックスにしまった。

　ところで、ゴボウってどうやって増（ふ）えるの？

　ゴボウ買（か）ったけど、切（き）って千切（ちぎ）って植（う）えれば増（ふ）えるのかね。

　現代（げんだい）の地球（ちきゅう）では、多（おお）くの品種（ひんしゅ）が1F（いちえふ）種（しゅ）、じゃないかな、えっとF1（えふいち）種（しゅ）という雑種（ざっしゅ）でできている。

　品種（ひんしゅ）なのでもちろん開発者（かいはつしゃ）がいて、そして農家（のうか）などは種（しゅ）を購入（こうにゅう）しているんだよね。

　それで交雑種（こうざつしゅ）の品種（ひんしゅ）は、種（たね）を付（つ）けても同（おな）じ品質（ひんしつ）のものが来年（らいねん）は育（そだ）たないので、普通（ふつう）は来年（らいねん）も種（たね）を購入（こうにゅう）する。

　こうして品種（ひんしゅ）を作（つく）る人（ひと）たちにもお金（かね）が回（まわ）って、うまいこといってるんだけども。

　そうなると農家（のうか）では品種（ひんしゅ）によっては来年（らいねん）の種蒔（たねま）き用（よう）に種（たね）を取（と）らなかったりするので、そういうノウハウというか話題（わだい）もあんまりなくなってきて、よく分（わ）からなくなっちゃうわけですよ。

　でゴボウの種（たね）はよく分（わ）からん。まぁしかたがない買（か）ったゴボウを植（う）えてみよう。

　芽（め）が出（で）て花（はな）が咲（さ）いて、種（たね）ができたら儲（もう）け物（もの）だ。

　この辺（へん）は異世界（いせかい）では、F1（えふいち）種（しゅ）ではないはずなので、種（たね）ができるなら大丈夫（だいじょうぶ）だろう。

　他（ほか）の種類（しゅるい）も同様（どうよう）。一度（いちど）手（て）に入（はい）れたら毎年（まいとし）作（つく）れるとうれしい。貧乏性（びんぼうしょう）なので。

　そもそもの話（はなし）、露店（ろてん）の人（ひと）に、ゴボウを育（そだ）てたいから種（たね）は無（な）いか聞（き）けばいいのかもしれない。

　あんまりいい顔（かお）はしないかもしれないけど、種（たね）を売（う）るのだって商売（しょうばい）だろう、たぶん。

　今度（こんど）なんか欲（ほ）しいときには聞（き）いてみよう。

　色々（いろいろ）なものを売（う）っている。基本的（きほんてき）には買取（かいとり）露店（ろてん）はほとんど無（な）いみたいだ。

　買取（かいとり）は顔（かお）なじみで元々（もともと）付（つ）き合（あ）いがあるとかそういう人（ひと）なのだろう。

　町（まち）だから野菜（やさい）屋（や）とかがあって、そこにみんなが売（う）りに行（い）けばいいと思（おも）うんだけど、そうでもないらしいな。

　店（みせ）は少（すこ）し離（はな）れた場所（ばしょ）から商人（しょうにん）が買（か）い付（つ）けてきたものとか、そういうのが多（おお）いみたい。

　町（まち）で一泊（いっぱく）したら活動（かつどう）もそこそこに、次（つぎ）の村（むら）へ行（い）き、町（まち）から三日（みっか）目（め）、ついにマーリング辺境（へんきょう）伯（はく）のいるマーリング町（まち）に到着（とうちゃく）した。