エルフ姫を助ける為に聖女は杖を振り上げる〜母さんそれは盛りすぎだよ〜

リーシャ

前編復讐はいつでも請け負うよ?

「お願いします!お願いします!我が国を救ってください!聖女様っ」


先ほどからヤケに声がキンキン聞こえる。

私のそばには凄く美人な人が一人いる。

エルフ姫かな?

なーんてね。


「この世界で一番美しい女をお渡しいたします」


お腹捩れそう。


渡すと言われた私は馬鹿らしいことに辟易した。

え?

喜ぶと思ったのか?

誰がよろこぶってんだ。


「み、ミカ」


エルフっ娘が私の名を呼ぶ。


うーん、分かってたけど改めて見ると私のエルフは可愛い。

ああ、間違えた。


「私が救う」


「「おお!」」


喜ぶこの国の人たちに嘲りの瞳だけを向ける。



「のは、父だけでええええす!バアアアカアアア!!」



手に現れる杖を振り上げて、叫び声を上げつつこの国の相手に向けてお別れの呪文を唱える。


「あーはっはっはああ!バイバアアイっ、ゴーウィング!故郷!そして、最後の審判!」


エルフっ娘を抱き寄せて私達を飲み込む魔法陣。



「父の分も言ったげる!ざまあああ!」


言い終えるのと、二人を召喚と逆に地球へ送るのは同時だった。


瞬きの間に私とエルフの女は私の部屋に居た。


抱き寄せていたエルフを離して向かい合う。


「おかえり!私のお父さん!」


エルフの女に向けて笑みを向ける。

女エルフはみるみると目を開き、はくはくと口を開く。


「わ、私が、父だってわかるのか?」


「うん。向こうの世界に渡るときにTSして聖女召喚に生贄として差し出されたのは知ってる」


「な、なんでだ」


父が驚くのが分かる。


「お父さん、私はねお父さんが向こうの世界に行くまでは死ぬまで秘密にしようと思っていた秘密があるんだ」


エルフとして生まれて女になった男が娘を見て泣く。


「秘密?」


「うん。私にはね異世界で暮らしていた過去があるの。前世の記憶ってやつ。そこでは孤独な魔女。寂しい人生ではないけど、やっぱり人肌恋しいってのはあった。家族が欲しかった」


娘の秘密。

しかし、エルフになった父にとって、そこまで驚くようなことではない。

父からしても、前世はこの子の父、今世はエルフなのだ。


「そうか」


「おりょりょ。びっくりするかと思ったけど、冷静だね。まあ、それもそうだよね」


お父さんも大変だったんだもんね。


父は娘に言われて大変だったのだと頷く。


「今の人生ではお父さんとお母さんが居て、私がどれだけ嬉しかったと思う?2人を全力で幸せにするぞって、生まれたときに決意した」


それは、父たるエルフも子供が生まれたときに抱いた感情だった。

思わず同じだなと笑う。


「お父さん、探すのに時間かかってごめんね。エルフ歴10年くらい?でも平気!お父さんは元に戻すというか、流石に一度この世から切り離されてしまってるから、元の身体ではないけど、所謂クローンを予め作っておいた。お母さんと12歳差だったよね?お母さんと同じ年齢にしておいたから、母さん踊り狂うよ!今から私わくわくしてきた」


「アニメの名言出た」


「出てないよ。お父さんアニメの名言に毎回例えるの癖みたいだけど、殆ど名言に掠ってないよ。いつか言いたかったけどいう機会無くなったから今いうよ本当」


「え!?そうなのか?というか、お母さんは私のこと受け入れるのか」


「美女エルフとして向こうに生まれ変わった父さんを取り返しに行くって言ったら、そうなの?じゃあお父さん用に可愛い服を揃えておくわね、って言ってたよ」


「でも、え?父さんを元の姿に戻してくれるんじゃないのか?」


「魂までは変えられないから、その身体からは切り離せない。でも、切り替え可能だよ。流石に私も魂を体に移し替えるのは無理だからあくまで父さん用に作った身体を上から上書きするのが私に出来る最上位のやり方。ごめんね。魂は人にどうにか出来る領域じゃない」


「あ、いや、あの理不尽フレンドリーファイヤーな世界から連れ出してくれただけでもう十分だ」


「もし、エルフから戻らなかったら家族でユーツーバーやる計画をお母さんが立ててたから、お父さんは気兼ねなく生活できたよ」


「父さん出汁にする予定だったのか」


涙目のまま、ジョークに笑う。

これっぽっちもジョークを述べてないけれど、笑った。


「大丈夫だ。私はボカロPだったから」


「ボカロ、P?」


本気で知らない顔を受け、父の方がカウンターダメージが多大に入った。


「い、いや、忘れてくれ。ああ、で、えーっと、なんの話だったかな」


「そうそう。父奪還計画は私がなんとか探し出して、この世界から誘拐される予定だった子と立場を交換して、召喚地に着地したわけ。向こうの女神を脅し、ないし、オハナシアイをして本来なら難しい事をやった。お父さんはすでにあちらの世界に居る住人だから地球に移動させるのは難しいってふざけた真似言うから、コネを使ったの」


「そうか。でも地球人を異世界に召喚したよな」


「そう!そこなんだよ!矛盾」


娘は魔法陣を描き始める。


「女神を脅しつけ、もとい理詰めして今まで召喚してきた人達の人生を元に戻させて、めが、いや、まあその人の綺麗綺麗なお顔を福笑いみたいにさせて、綺麗なお髪を二度と見られない髪型にさせて、お父さんを通せる様に道を引かせたの☆」


最後に星マークをつけて、女はピースサインする。


「次やったらTSさせて奴隷人生歩ませる予定だよ。お父さんもなにか復讐したかったら、八つ当たり代行するよぉ?」


魔女は爽やかな顔で父から少し離れ、魔法陣を光らせる。


「さてさて、父の体をかぶせるから、ちょっと待て待てウェイトタイムだよー!そ、お、れ!」


最後のセリフはもう18の娘に許されるギリギリの声音なのだろう。


うちの娘はかわいいなぁ。

光る前に男は目を閉じた。

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