天才肌の疎遠な父子は美形写真家に撮られたいので今日もなかなか疎遠になれない

七海ポルカ

第1話【彼は偉大なる父】

 






「フォラントさん、【レイヴェン・フォルトゥナ賞】受賞、おめでとうございます!」






 カメラのフラッシュと共に声を掛けられて、【ALEXANDRITEアレクサンドライト】の限定モデルの発表イベント会場から出てきたジブリル・フォラントは立ち止まった。

 微笑む。


「ありがとう」


 すぐに行くよ、とマネージャーに手の仕草だけで示した。

 マネージャーが穏やかに一礼して場を離れる。取材陣がたちまちジブリルを囲んだが、彼は悠然とそこに立った。


「そちらの限定モデルも今回の受賞記念に作られたものとお聞きしましたが」

「うん。そうなんだ。インヴレアがとても受賞を喜んでくれてね。

 彼女には今までも幾つも限定モデルを作ってもらったけど、今回は特別に美しいね。

 レイヴェンは彼女にとっても大切な人だったから、ここには彼女の、彼への想いも込められているように感じるよ。

 ここにある三十個の金緑石きんりょくせきは、私の三十年に対しての労いも勿論込めてくれているのだろうけど、親友が亡くなってからの彼女にとっての三十年でもあるのかも。

 インヴレアが【アレキサンドライト】を最も愛するのは、変容する光、だけど失われない輝きであることなんだ。

 彼女は人の中にも宝石と同じ光を見ている。

 音楽の中にもね。

 音楽も古典無くしては美しさを語れないものだけど――古典が最も輝くのは、現代の光の中に当てられた時なんだ。

 古の時代に作られた音楽を、現代の人々、音楽家が、当時の人と同じ感動で結びつく時に、失えないものなのだということを一番感じるよ。

 三十年前、私が【フォルトゥナ】を獲った時、まだ早いのではないかという声も多かった。偉大な巨匠であったレイヴェンの名の価値を、貶めることになるのではないかとね。

 最もそう言っていたのは、レイヴェンを真摯に愛する人たちだったんだよ。真摯な愛ほど、人間を臆病にさせ、人を攻撃的にさせるものでもある。

 でもその中で、一番受賞を喜んでくれたのはインヴレアだった。

 彼女に迷いは一切なかったよ。

 大切な親友の名を冠した権威ある賞を、二十一歳の子供が獲っても、彼女だけが私の目を見て、貴方は受賞に相応しい音楽家だと言ってくれたんだ。

 だから二度目のトロフィーは彼女に捧げたよ。あの時掛けてくれた優しい言葉に対してのお礼だ」


 最初は色めきだってジブリルを囲んで来た取材陣は、少し威勢を失った空気になった。

 行儀よく、左右の会社と足並みを揃えたのだ。



「レイヴェン・フォルトゥナ氏と、貴方にも、思い出がありますか?」



「亡くなる二年前に初めて会ったよ。その時もインヴレアが彼の自宅に連れて行ってくれたんだ。

 彼女が私のことは以前から話していたようだったから、顔を見るなり『君が噂の偉大な音楽家君か』って笑われたね。

 夏のバカンスの、自宅で過ごせる数少ない三日間、ウィーンの自宅で家族と一緒に過ごさせてもらった。

 三日間、街を散策したり、釣りをしたりハイキングをしたり、サイクリングをしたり、子供みたいな遊びに付き合わされた。

 後日談だが、インヴレアは怒ってたよ。

 彼女は音楽家同士で交流を深めて欲しかったと言ってたから。

 でもレイは私にヴァイオリンもピアノも弾かせてくれなかった。

 私は聞きたくないんだと思っていたよ。

 彼のキャリアの偉大さを考えれば、それは当たり前にも思えたから、私は気にしなかった。童心に久しぶりに戻れた楽しい、三日間だったしね。

 三日目の晩に、明日帰る挨拶をしに行ったら、初めてヴァイオリンを弾いて欲しいと言われたんだ。

 君の一番好きな曲を、と。

 弾き終わると次は私の好きな曲を弾いて欲しいと言われて、

 

 ――それで気に入ってもらえた。


 自分の好きな曲も、

 他人の好きな曲も弾き方が分かっている、君はもうプロの音楽家なんだねって」



 偉大なピアニストで、ヴァイオリニスト、そして指揮者であるレイヴェン・フォルトゥナとの思い出に、ゴシップの気配を追いかけてここまでやって来た取材陣は、一瞬浄化されたような顔になって頷いている。

「その年のクリスマスはレイが体調を崩していたから、幾つか公演を休まなくてはいけなくて、自宅療養をしていたから。

 クリスマスに音楽が無いなんて地獄だと、来て欲しいと呼ばれたから自宅に行ったよ。

 他の友人の音楽家たちも招いて、彼の自宅のホールで、彼の為に弾いた。

 翌年のクリスマス公演に招待してもらって、一緒にオケで弾けたのは最後の素晴らしい思い出になったね。

 彼にとって最後のクリスマスを、音楽家として一緒に過ごせた。

 こんなに光栄で幸せなことはない」

 ほう……、と取材陣から吐息が零れたので、ジブリルはくすくす、と笑う。



「――とはいえ、君たちが獲って欲しかった賞とはちょっと違ったかな?」



 ジブリル・フォラントがカメラに見せていた腕時計を袖に隠し、ラフな感じで下ろすと言われた取材陣の方がびっくりした顔をした。

「い、いえそんな……!」

 慌てて首を振り、お互い顔を見合わせてから、彼らは吹き出してしまった。

 自分たちの顔に書かれていたのだと、自覚があったからだ。

 彼らはこの数年、ジブリルとトロイの史上初【ジャックマール・デュエフ賞】の親子受賞を狙って追い続けているのである。

 だが音楽界において、特にクラシックに限定したものの中では、【レイヴェン・フォルトゥナ賞】は近現代に創立された賞の中では最高峰の権威がある。


 トロイ・メドウは確かに総合音楽とダンスアーティストを生業としているが、ジブリルはクラシックの才能だ。


 どちらが彼にとって意味があるなど、明らかである。


 ジブリルは三十年前、二十一歳の史上最年少でこのフォルトゥナ賞を受賞した。

 彼が当時獲得したトロフィーの中で、無論、最も輝かしい栄光であり、この受賞が世界にジブリル・フォラントという名を知らしめた一番最初のきっかけだったと言える。

 それから三十年、彼はクラシック界の頂点に上り詰め、今や巨匠と呼ばれるまでになった。

 フォルトゥナ賞を二度、受賞したのは史上三人目の快挙で、まさに巨匠としての立場を確固たるものにしたと言える。しかしそれでもなお、彼はまだ五十を越えたばかりだ。

 これからのクラシック界に対する貢献もまだまだ計り知れない。


 一昨年、十年ぶりの世界ツアーを一年間という規模で盛大に成功させた彼は、世界ツアーの中でもオーケストラとの共演に意欲を見せていた為、噂ではどこかの街のオーケストラの常任指揮者になり、しばらくは演奏者ではなく、コンダクターとしての仕事に集中するのではないかとも言われていたし、単純に、世界ツアーを一つの区切りとして考え、また何か大きなプロジェクトに取り掛かるのではないかとも噂されている。

 

 パパラッチが追っているのは勿論、彼が受賞した賞の価値より、これからのプロジェクトにおいて誰とパートナーを組むのか、ということだった。


「受賞には、一昨年の世界ツアーの成功も深く関わっていると思われますが……」

「クラシック界において、個人の演奏家が一年のうちに行う公演の最大動員数を大幅に更新されました」


「うん。どの国でも、温かく、熱気を持って迎えてもらったよ。

 初公演を行った国も十二カ国ある。

 だが、私の演奏におけるアプローチは、国によって大きく変えるということは基本的にはない。その国で愛される音楽に敬意は示すけれど、特別なことは何もしていないよ。それでも多くのファンと感動を共感できた。

 素晴らしい感動は国境という壁をものともしない。

 私自身、とても素晴らしい経験が出来たね」


「昨年はその総括的な年になりましたか?」

「そうだね。少しゆっくりさせてもらったかな」

「これからの活動について、何か考えておられることはありますか?」

 ジブリルは腕を組んで軽く、壁に寄り掛かった。

 袖からアレキサンドライトの華やかな輝きが覗く。

「今、君たちに話してあげられるようなものはないけれど、考えていることは幾つかあるよ」

 インタビュアーたちの表情が色めき立つ。

「少しお話しいただけないでしょうか……?」

「会社にも関わることだからダメ。」

 ざわ、と彼らは驚いた。

 会社の名が出ることは予想していなかったからだ。

「それはあの、……、独立なども含んで、のことでしょうか?」

「話せる状況になったら、勿論話すよ。

 けれど今は内情は話せない。曖昧なことを話すと色んな人に迷惑をかけるからね。

 ただ一つ言っておくと、さっき話した通りインヴレアと私には深い絆がある。

 彼女に会社を任されている人たちも、みんな私の大切な友人だ。

 永遠にそれは変わらない。

 変わらない私たちなら変容して、もっと新しい輝きを作り上げて行けるのではないかと思っているよ。

 少し、新しいことがしたいね」

 ジブリルが微笑むと、記者たちの気配は益々ざわめいた。



「あ――、新しい、活動と言えば……。

 息子さんも最近、新しい活動に視野を広げておられますね」



 終始ジブリル・フォラントの穏やかなペースに飲み込まれていた記者たちが、くさびをようやく打ち込んだ記者に「それだ!」という顔をして乗っかって来た。

「テレビの活動だね。見たよ。配信してくれると、時間のある時に見れるから有り難いね」

 ジブリルはふっ、と笑った。

 彼が機嫌を損ねた様子が全く無かったので、インタビュアーたちは俄然勇気とやる気が出てきた。

「ご覧になりました?」

「うちの社長が旅番組が好きでね。オフィスでもよく流れてる。だから私も旅番組はよく見るよ。でも彼らの番組はとても面白い旅番組だね。名所や絶景でトロイが歌ったり踊ったりするのもいいアイディアだよ。

 楽しいだろうね。その場所に合わせて、自分の曲から選ぶというのは」

 うんうん、と記者たちが頷いている。

「トロイさん以外の出演者もご存じですか?」

「もちろん。彼らはそれぞれ個性があって面白いね。オーケストラの楽器のように、明確な個性がある。その個性が色々な所で発揮されてる」


「出演者の一人であるアルノー・イーシャさんとは、巨匠もツアーで一緒になったと思いますが、あの番組では違う印象など感じられますか?」


「そうだね。同年代の人とやり取りしていて、時々素の表情が見える。とても生き生きしていて魅力的だね」

 ジブリルが微笑むと、女性インタビュアーが目を輝かせて前のめりになって出て来る。

「番組が始まる前、トロイ・メドウとアルノー・イーシャの共演はかなり話題になりました。

 噂では貴方も世界ツアー後の活動に、引き続きイーシャさんをディレクターの一人として起用したいと思っていらしたそうですが、何か彼とそのことで話はされたのでしょうか?」

「そうだね。それはよく言われる。けれど、一言言っておくと、世界ツアー後にアルノー君の起用を巡って【FINAL DIPAファイナルディーパ】と揉めたというのは単なる噂。事実じゃない。

 でも私がツアー後の活動に彼を起用したかったのは本当だ。ツアーに帯同してくれた彼がいた方が編集にしても、仕事がやりやすいしね。声を掛けたけど、テレビの仕事の話が先に決まっていたんだ。

 元々世界ツアーが終わるまでの契約だったから仕方ない。残念だけれど」

「息子さんとイーシャさんが五年前に共演なさっていたことをご存知でしたか?」

 それも何度も聞かれる、とジブリルは笑った。


「知ってたよ。【華国かこく】の水の祭典の時だね」


「その後、共演はなかったですが、一部報道によると契約上の問題が派生し、その時の【FINAL DIPA】側の対応にイーシャさんが不信感を持っていたとの情報もありますが……」

「会社同士のことはさすがに私にも分からないよ」

「話題作りの為に、DIPAディーパ側が、世界ツアー後のイーシャさんの仕事を押さえたとも言われています。

 貴方との仕事の後に、トロイ・メドウと組ませることで、相当なインパクトがあると」

 さすがにジブリルが手で制して笑い声を出した。


「うん。ちょっと待って。

 君たちは何だか、私とトロイがアルノー君を取り合っててほしいみたいだけれど……」


 指摘されて、記者たちが分かりやすく目を泳がす。

「アルノー君と仕事をしたいのは何も私とトロイだけじゃない。他のアスリートや音楽家だって彼と仕事をしたがってる。彼は本当に売れっ子なんだよ。

 多少の名声があるからと言って、私ばかりが彼を独占するのはフェアじゃない。

 それにアルノー君は好奇心でいっぱいだ。

 この世の色んなことを撮りたがってる。

 彼と世界ツアー直後に仕事が出来なかったのは残念だよ。だからといって彼らのテレビ番組を妬んだりしない。彼らの番組のファンだよ。いつも楽しく見てる。君たちの中にだって番組のファンはいるだろう? 二人ともとても楽しそうに仕事をしてる。

 そんなひどいわだかまりが彼らにあったとしたら、あんな風には楽しそうに出来ないんじゃないかな。

 トロイは私の息子だし、アルノー君は私も彼の写真のファンだ。二人が楽しそうなのはとても嬉しいことだよ」


「それは仕事の面でのことですよね?」


 この場には様々なメディアの記者たちが集まっていたが、言いくるめられそうになったところを臆せず切り返して来たのは過激な芸能人のゴシップ記事を追っている会社の記者だった。

 女の記者だったが、ずばっ、と言い返して来る。


「想いを寄せる一人の男性としては、どうでしょう?」


 この会社よりも品のいい記事を心掛けている雑誌の記者たちは少しぎょっとしたようだった。

 ジブリル・フォラントは確かに、音楽界に数多いる気難しい巨匠とは異なり、親しみやすい空気を出してはくれる。

 だからといって、何でもかんでも聞いていいかというわけではない。

【レイヴェン・フォルトゥナ賞】は音楽に造詣の深い国ではこれを授与された音楽家を王宮に招待し、勲章を与える慣習があるほどの賞なのだ。



「想いを寄せる一人としては、羨ましいね」



 一瞬凍り付きそうになった場が、ジブリルの笑顔に華やいだ。


「それはそうだよ。私もアルノー君と色々な場所を歩いてみたい」


 ジブリル・フォラントの名は、トロイ側の陣ではもはやNGワードのようにされていて、どうしてもしつこく彼のことを質問する記者は実際、何社か取材拒否をされている。

 対するジブリルは真逆で、彼はアルノー・イーシャへの想いを一切隠さなかった。

 トロイについても応対は同じで、何を聞いても快く答えてくれる。

 あまりに答えてくれるので、逆にどこから切り込めばいいのか、漠然としてしまうという反面もある。

 ただ、これにははっきりとアルノーへのアプローチを聞けたことで、女性記者たちが特に嬉しそうに小さく拍手しながら更に前のめりになった。

 彼女達は床に膝が付くのもお構いなしに低姿勢に構えてジブリルから話を聞き出そうとする。

「番組ではトロイさんとアルノーさんの仲睦まじい様子も見どころになっていますが……どうですか、お父様の立場から、……微笑ましいでしょうか?」

「そうだね。微笑ましいね。私は水の祭典の特典映像も見たことあるから、二人が仲がいいことは知っていたけど。確かに、私と一緒にいる時とはアルノー君はああいう表情はしないかな」

 うんうん、と彼女達は頷いた。


 これだこれだ。

 視聴者はこういうヒリヒリした、内角擦れ擦れの遣り取りを見たがるのだ。


「でもああいう少し幼い表情をするアルノー君もとても魅力的だね」


 きゃーっ、と女性記者たちはまるで自分たちがそんな言葉を巨匠から掛けられたかのように喜んでいる。

「ジブリルさんとアルノーさん、そしてトロイさんとアルノーさんはそれぞれ仲がよろしいようですが、三人で会ってお話しなさったことなどはあるのでしょうか……?」


 ジブリルは昨年一年は世界ツアー後のメディアへの露出をかなり制限して、作曲や指揮者としての仕事に集中し、あとは会社と契約関係にあるメディアとの取材しかほぼ受けていなかったので、さすがにこんなに下世話な質問は並ばなかった。

 今回の【ALEXANDRITEアレキサンドライト】のイベントも会場内にはきちんと契約関係にある取材陣が入り、パパラッチは出て来るところを狙って待っていた訳である。

 一年通じてジブリルのことは追っていたが、アルノーとのショットはあまり撮れず、彼らはどうなっているのだろうというマスコミ、ネットの好奇心が爆発寸前になっていた。


 ちなみに同じ質問をトロイにすると、ネットでは番組を通して『グフィさん』の愛称で呼ばれるようになったマネージャーのグリフィス・エレーラがきりりと厳しい表情で、セキュリティに叩き出して下さいときつめのチェックをするので、向こうではちっともジブリルのことを聞けないのだ。


「三人でまだ会ったことはないよ」

「お、お会いになる予定などあるのでしょうか?」

「予定は無いけど、食事でもする機会があったら楽しそうだね」


 ジブリルはにこりと笑う。

 彼は何でも気さくに答えてくれるが、その答えがすべて真実とは限らない。

 上手く躱されて、うー、と女性記者たちはお預けを食らった犬みたいな顔になった。

 ジブリルとトロイが複雑な父子関係にあることはすでにメディアにも何となくバレているのだが、アルノーをきっかけにこの二人が表舞台でもっと派手に遣り合ってくれまいか、などというパパラッチの思惑を、DIPA側は完全なる拒絶で封じ、ジブリル側は悠然とした応対で躱す。

 いっそアルノー・イーシャの所に突撃してやろうかな、と焦れた気配を見せる取材陣にジブリルが気付いた。



「きみたち。」



 彼は口許に笑みを浮かべた。

「この手の質問をアルノー君の所にしに行っちゃあ駄目だよ?」

 お見通しだった。


「私はこの通り、どんな質問にも答えてる。

 だけど静寂を重んじるアルノー君の世界には敬意を払ってもらわなければ。悪戯にそれを壊そうとする人がいるなら、さすがに黙っていられないなあ」


 穏やかな口ぶりでも、天下の【ZODIAC INVREAゾディアック・インヴレア】の企業エンブレムを背景に、ジブリルが「黙っていられない」などと口にすると、パパラッチたちの背筋は自然とひんやりとした。


「でも、私が側にいる時は構わないよ。どうしても撮りたい人はこのあとついてくればいい」

「えっ⁉」

「これからウルビーノホテルで会うからね」

「でででデートですか⁉」

「はは。そうだといいね。だけど仕事の話だよ。でも心は浮かれるね。受賞のお祝いはしてもらおうかな」

 ジブリルは輝く腕時計を、ごく自然な仕草で見遣った。

「そろそろ行かないと遅れてしまう。大好きな人に対して遅刻はいけない。じゃあ、失礼するよ」

 にこやかに会釈をすると、彼は優雅に去っていった。

 同じく、にこやかな顔で手を振ってフラッシュと拍手で彼を見送った直後、記者たちは突然殺気立った。


「アルノー・イーシャが来る! ツーショット撮るわよ‼」

「もう一台カメラ手配しろ!」

「あの巨匠なら絶対見せ場を作ってくれるはずだ!」

「トロイといる時より際どい写真を撮れ!」




 いそげーっ! と彼らは軍隊が出動していくように駆け出して行った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る