回想 行方不明
ベッドの下。カーテンの裏。台所の片隅。
家の中を歩き回りながら、俺はうっすらと既視感のようなものを覚えていた。
ベンが行方をくらませたのは、実はこれが初めてではない。
三年前、ちょうどこんな風に月の明るい夜だった。
俺が浅い眠りから目を覚ますと、やはり今日と同じように、ベンのベッドが空っぽになっていた。
さっと頭から血の気が引いたことを覚えている。俺は慌てて、隣で寝ていた母親を揺すり起こした。
二人で、家中をひっくり返すようにして探した。寒い外に出て、家の周囲や、井戸の辺りも探したけれど、ベンはどこにもいなかった。
明るくなってより広い範囲を探せるようになるまで、それ以上に俺たちにできることはなかった。
母親も気が気でなかっただろうに、努めて平気な様子で、俺を心配させまいと振舞ってくれた。
——当時の母親は、子どもの目から見ても明らかに疲れていた。イライラしていることも珍しくなかったし、言動が乱暴になることもよくあった。
それでもあの時、「きっと大丈夫だから」と言って抱きしめてくれた彼女は、真っ当な、頼もしい母親だった。
次の日の朝、ベンはひょっこりと町の入口から現れた。
見覚えのある五歳の子どもが一人で門から入ってきたことに驚いた門番が、急いで我が家に来て報告してくれたのだ。
彼が何事もなかったかのようにピンピンで帰ってきたことに俺と母親はひどく安心し、揃って胸を撫で下ろした。
これが、三年前の行方不明事件の顛末だ。
しかし——母親が失踪した今となっては、ああやって大丈夫と言って抱きしめてくれる誰かはいない。
ノアだって、いつでもそばにいてくれるわけじゃない。
俺の家族は、ベンだけだ。
ベンまでどこかに消えてしまったら、俺はどうすればいいのだろう。
何か参考になることがあるかもしれないと思い、三年前の記憶をたどる。
行方をくらませたベンが帰ってきたとき、俺たちは口々に、どこに行っていたのか、何をしていたのか尋ねた。しかし、彼の答えは支離滅裂で、真相は結局よく分からなかったのだ。
……いや、本当にそうだったか? 彼の言動には何のヒントもなかったか?
よく思い出せ…………
……そうだ。ベンはあの時、森がどうとか言ってはいなかっただろうか。
そう、確か「森に行ってきた」と本人は言っていた。
でも、五歳のベンが夜の間に森に行って、しかも無事に帰ってくるなんていう話が信じられなかった俺たちは、それを嘘か、何かの勘違いだと思ったのだ。
——ベンは、本当に森に行ったのではないだろうか。
三年前も、そして今日も。
そう思い立った俺は、居ても立ってもいられなくなり、家を出て門の方へ歩き出した。
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