第5話 だらしのない男
城から出た勇者
「ねえ、次ここのお店行かない?」
「お、いいな! いいもん売ってそうじゃん!」
良い女が出来て優越感に浸っているのか、それとも周りが勇者様と崇めてくるので調子に乗っている様だ。こいつ等のイチャイチャしている様子を見せつけられて真面目な男、シュメル・オルレアンは気が立っていた。
「おい、時折カイ《ときおりかい》殿、もう買い物はいいのではないか? 早く魔王討伐に赴かねば……」
シュメル・オルレアンの言葉は残念ながら、アデリナという女の魔法の前に消えて行ってしまった。勇者様はモテキ到来と思っているのだろう。
「今夜はもう疲れたから宿に泊まって休みましょ!」
「おう、もう夜も遅いしな……、シュメルだったよな、明日からちゃんと討伐に向かうからさ! な、なあ、カリーナもし良かったら……俺の部屋に……」
「だーめ、ちゃんと一人一部屋よ!」
そう言ってカリーナは自分の部屋に入った。カイよ、流石に誘うのは早すぎるぞ! カイはこれでかなり落ち込んでしまったようだ。しかし一人ずつ部屋を用意したって贅沢な奴らだ、どんだけ旅立ち前に国王に貰ったんだか……
「カイ殿、そのように浪費していてはこの先……」
どうやら危機感をもっているまともな奴がいるシュメルだ。
勿論、彼の言葉なんて今のカイには届いていない。
朝の明るさが加速度を増して広がる、広場を駆け巡る子供たちのはしゃいだ声がやかましいくらい聞こえてくる。子供たちは、今この世界が魔王の影響で大変だという事を感じさせないくらい元気だ。その元気をこの勇者様にも開けてあげたいくらいに
勇者様はダラダラと呑気にベットから起きた所だ。もう既に旅の支度を済ませているシュメルとアデリナは外で待っている。あともう1人、カリーナは何処か買い物に行ってしまった様だ。
だらしない勇者様に、決して馴染もうとしない森人、自己中心的な魔法使い、そんな彼らに真面目なシュメルは半ば愛想を尽かしている。まだ一日しか経っていないのに……
「おい、ロード! おい、聞いているのか!」
起きて身支度をしていたカイが俺にいきなり怒鳴って来た。
一体何事か、おれは落ち着いた物腰でカイに聞くと、彼はどうやら国王から頂いた金を失くしてしまったらしい。
まったく何をやってんだか……
呆れてしまった。「昨夜、寝ぼけてそこら辺に放り投げてしまったんじゃないのか? よく探したらどうだ?」と、アドバイスするとこいつは「お前が盗んだんじゃないのか?!」と疑ってきやがる!
確かに俺は外から飛んでこの部屋に入ることは出来るが、そんなコソ泥の様な事はしない。俺が否定すると、「じゃあ証拠をだしてくれ」と小学生みたいなことをにかしてくる。確かに証拠もアリバイもないが、これまで親切にこの世界の事を教えてやったのに、この態度はあんまりだ。
カイは納得しないままこの宿を出た、すると丁度買い物に行っていた魔法使いのカリーナが帰って来た。
「おまたせ~、あら? どうしたのカイ?」
「おい聞いてくれよ、俺が国王様から貰った金がどっか行っちまって……」
カイはカリーナに伝えた、もちろんシュメルとアデリナも聞いている。シュメルはありえないと言っている顔をした。アデリナはマジかと額に手を当てて呆れている。そんな彼らに「すまん」と一言だけ言って謝るカイに、カリーナが申し訳なさそうにパーティメンバーに伝える。
「あれ? カイが昨日の夜、私にお金預けるって言ってくれたんだけど……」
三人はポカンとした。数秒後、あっそうだったと思い出す勇者様。
そう、昨日の夜、酔ったカイは「明日買い物に行くから一度お金を私に預けてくれない?」とカリーナに言われ、彼女に国王から頂いた金を預けたのだ。
全く勘弁してくれ、
てか、初めての酒なのに記憶が無くなるほど飲んだのかコイツは、二日酔いになっていないのは若さの力か……。
「悪いみんな、俺のせいだったわ!」
軽いノリで謝って来るカイにシュメルの怒りのボルテージが一気に上がった。
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