韓国脱出 2025
飛鳥竜二
第1話 再び韓国へ
※本作品は「韓国脱出 修正版」の続編です。まだ読んでない方は、まずそちらを読んでみてください。
かつての韓国脱出から20年ほど経過し、ソウル日本人学校も移転していた。以前は、漢江(ハンガン)以南にあったので、避難所としての使命を果たしていたが、今は漢江以北のワールドカップサッカー場近くの住宅地に移転していた。よって、避難所としての意味合いはない。それで漢江以南に避難所を設置する必要があり、南の城南(ソンナム)市にある古い体育館を日本人会が買い取り、そこを避難所とすることにした。
所有は日本人会だが、名称は日本国大使館研修所とした。その方があたりさわりがないからである。問題は、この施設の利用と運営である。そこで日本人会が目をつけたのは、退職して間もない会田である。以前の韓国脱出の際に、会田が果たした役割は日本人会安全委員会の伝説として言い伝えられていた。
それで会田は単身でソウルにやってきた。身分は大使館嘱託職員。いわば現地採用の大使館職員である。
赴任当日、日本人会会長と安全委員会委員長と会い、今後の方針が伝えられた。いざという時のために準備をしておかなければならない。その後、大使とも会うことがあった。
「会田さん、以前の韓国脱出のことは聞いています。今はヨン政権になり、北の国とは緊張関係になっています。いつまたあれが起きるかもしれない。その時のためにあなたのお仕事は重要です。よろしくお願いします」
と言葉を受けた。全権大使の言葉だからとても重い。会田は引き締まる思いがした。
会田の仕事が始まった。まずは、体育館としての利用ができるようにした。最初に会員制のジムを設置した。2Fギャラリーに健康器具を置いた。韓国の公園には健康器具が設置されており、韓国人は有料の施設には興味を示さない。それでいいと思っている。体育館はいわば擬装である。たまに日本人グループがバスケットやフットサルをしにやってくる。これも擬装のうちである。地下室には2000人分の避難物資が備蓄されている。事務室の控え室には強力無線機がある。アンテナは屋上の小屋に隠されている。いざという時には小屋の屋根をあけて使えるようになっている。問題は会田の寝泊まりする場所である。日本人会は近くのマンションを用意してくれていたが、いざという時にはすぐに駆け付けなければならない。それに家族がいるわけではないので、地下室の一角にプレハブでベッドルームを作ってもらった。ふだんは事務室で過ごし、寝る時だけそこにいくパターンである。工事はすべて日本人の手で行った。安全委員会のメンバーには建築関係のプロもいる。
次に、手配したのは避難方法の確保である。幸いなことに、日本人学校の通学バスは城南市のバス会社を利用している。この会社と交渉し、いざという時には10台が使えるように契約した。ドライバーの確保も同様である。協力者として名簿登載するということで、安全委員会のメンバーが面接をして採用している。身元がしっかりしていて、反日感情がないことが重要であった。もちろん日本人会からそれ相応の手当が支給されている。以前のように、いざという時に逃げてしまうドライバーでは意味がない。
バスの次は、船と鉄道の手配である。本来ならば西海岸の方が近いのだが、大渋滞が予想される。それで渋滞が少ない東海岸に行くことを考えた。距離はおよそ100km。往復4時間の距離である。バス10台が2往復すれば1000人を運ぶことができる。以前、日本人会でアンケートをとった時に、日本人会の避難経路を使うと答えたのは1000人ほどだった。それ以外の日本人は自力で避難するか解答なしだった。かつては1万人以上の日本人がいたが、今は駐在員も少なくなっている。そこで計画段階では1000人を想定して行っている。
東海岸の港には100人程度の船をチャーターできる仕組みを作った。各港に2艘ずつ配置している。100kmほど離れた港に運び、そこで乗り換える。4回乗り換えることで対馬まで行ける。この方法で1日あれば1000人を日本まで運ぶことができるのである。
セカンドシステムで、鉄道システムの利用も計画した。これも東海岸の鉄道を利用することにした。KGVの路線はたくさんの避難者であふれると思ったからである。それで貨物列車が多い東海岸の鉄道利用を思いついたのである。だが、客車と運転士の確保がなかなかうまくいかなかった。確保できたのは貨物車と退職した運転士であった。ただ鉄道の運行につけいる必要があり、そこが難点だった。
サードシステムは飛行機である。城南市には南ソウル飛行場がある。以前の韓国脱出の際に救援機がとんできた飛行場である。そこに10人乗りのセスナ機を2機チャーターできるようにした。これで釜山空港を往復すれば2時間で40人。10時間で200人。24時間で480人を輸送できるのである。ただし、空港が使えればという条件がついている。敵のミサイルがとんでくれば、このシステムは使えない。
それと実働部隊の確保を行った。安全委員会のメンバーはもちろんだが、各事業所の独身スタッフにいざという時に避難所の運営ができるように登録をしてもらった。年に4回、レクリェーション大会を兼ねて、登録者に避難所にきてもらい、いざという時のための研修会を行っていた。午前中はニュースポーツ体験会をして午後は避難所運営のシミュレーションを行ったのである。ランチだけでなく、夕食はお酒をまじえて楽しいものとなっていた。この時にお土産を渡すのが恒例になっている。実は避難物資で有効期限がもうじききれるものがあり、それを入れ替える作業がつきものである。2000人分の袋をあけてピックアップしなければならないので、会田一人だけではつらい作業である。入れ替え作業のお駄賃で有効期限間近の避難物資がお土産となるのである。それと会田の以前の韓国脱出の話は皆の興味の的だった。施設設備会社社長がトイレに閉じ込められて忘れられてしまった話は笑いをさそっていた。
実働部隊のメンバーは主に漢江以南の居住者を募った。紛争時はやはり漢江の橋がネックとなる。そこでいざという時には江南区(カンナムク)や蚕室(チャムシル)に住む日本人が頼りだった。かつての日本人街であるヨンサン区イチョン洞には日本人は少なくなり、今はワールドカップサッカー場近くのマッポ区に日本人が集中している。日本人学校に近いということもあるが、新しいマンションが多くて住みやすいからである。大きなショッピングセンターも魅力的な地域だ。
近年、新しい地下鉄が整備されて漢江以北に住んでいても、城南市にくることはできる。地下鉄は漢江の下をくぐっているので、橋を越えなくてもすむ。ただし、ミサイルがとんできたら地下鉄は動かなくなる。地下鉄の駅そのものがシェルターになるからである。避難するなら迅速な対応が必要である。
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