冴えない私が輝く星と出会った

雪見遥

第1章 冴えない私と輝く彼女

第1話 私の世界

 私の世界をひと言で表すなら、それは――「平凡」だ。


 平凡な容姿、平凡な成績、平凡な家庭。特別な才能もなければ、誰かの目を引くような特徴もない。つまり、私は人混みに紛れてしまえば誰にも気づかれないような、そんなタイプの人間だ。


 佐藤遥、16歳。この街にあるごく普通の高校に通う一年生。物心ついた頃から、私の毎日は特に波風も立たずに過ぎてきた。朝起きて、学校に行って、帰ってくる。休みの日は家族や友達と出かけたり、家にこもってライトノベルを読んだりゲームをしたり。


 こんな生活が嫌いなわけじゃない。ただ、時々……何かが足りない気がする。


 強く憧れる夢も、心から目指したい目標も、特にない。未来のことを考えようとすると、頭の中に霧のような真っ白な空間が広がる。たぶんそれは、私が未来に期待することを知らないからだ。


 でも、私がどれだけ真剣に将来を考えたところで、大した選択肢なんてないのかもしれない。自分の能力や成績を考えれば、流れに任せて生きるしかない。それなら、無駄に悩む時間なんていらない。


 そんなことをぼんやりと考えているうちに、ふと視線がスマホの画面に落ちた――。


「やばっ、遅刻する!」


 思考を急いでかき集めて、私は足を速めて学校へ向かった。


 ***


 なんとか教室に滑り込んだ瞬間、元気いっぱいの声が私を迎えた。


「おはよー、遥!」


 声の主は山田黒羽。小学校からの付き合いで、数少ない私が気を許して話せる友達の一人だ。


「夏休みの宿題、終わった?」


 ニコニコ笑いながらも、どこか企んでいるような表情。今日は夏休み明けの初登校日、きっと私に助けを求めるつもりだ。


「だいたい……終わったかな」


 私は軽くため息をつきながら答える。昨夜ギリギリまで粘った甲斐があった。


「よかった〜! ちょっと見せて〜」


「やっぱりまだ何にもやってなかったんでしょ!」


 私は彼女を睨む。


「夏休み中、ずっとサボってた?」


 黒羽は頭をかいて、照れたように笑った。


「アニメの新番組が忙しくってさ〜」


「アニメ見てるのはあなただけじゃないんだけど。私も見てたけど、ちゃんと宿題は終わらせたよ」


「まぁまぁ、堅いこと言わないで〜。遥だ〜い好き!」


 私は呆れながらも、ノートを彼女に差し出す。


 そのとき、教室の外から賑やかな声が聞こえてきた。廊下が一気に騒がしくなる。


 無意識に顔を上げると、女の子たちが輪になって誰かを囲んでいた。その中心にいるのは――神崎星奈だった。


 黒髪は陽の光に照らされて柔らかく輝き、小さなヘアピンが揺れている。笑顔は優しくて、それでいて周囲を惹きつける強さを持っていた。


 彼女は容姿も成績も性格も完璧で、まさに理想の女の子。その人気は、入学当初からぐんぐん上昇して、今では校内で知らない人はいないくらい。


「ほら、あれ神崎さんだよ。相変わらず人気すごいな〜」


 と黒羽はノートに目を落としながら呟いた。


 私は小さくため息をついて答える。


「人のこと気にしてる場合? 早く写さないと、先生来るよ」


「はいはい〜……」


 私にとって、神崎星奈はまるでステージの上でスポットライトを浴びている存在。私はその光を、遠くから見上げているだけの一観客だ。


 彼女はあんなに輝いていて、みんなに好かれていて、いつでも自然体で周囲と接することができる。一方の私は、いつも教室の隅で目立たないように過ごしてきた。彼女が笑うたびに、私は自分の平凡さを余計に実感する。


 でも時々、こんなことを考えてしまう。もし、私が彼女みたいに自信に満ちていて、誰とでも自然に話せたら、どんな気分なんだろう?


 すぐに私は苦笑して、その考えを頭から振り払った。私と彼女は、住んでいる世界が違うんだ。


 ――この日常は、ずっと変わらないと思っていた。

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