第7話:パートナーとしての適性審査

「つまり、あなたを私のパートナーにするかどうか、冷静に判断する必要があります」


結菜が静かにそう告げると、目の前の陽向はまるで理解が追いつかない、と言わんばかりにポカンと口を開けた。


「……え?」

「ですので、即座に交際という形を取るのは不可能です」

「え、いやいや待ってください、お姉さん、今のって要するに保留ってことですよね?」

「正確には、あなたの適性を確認するための期間を設けるという話です」

「うっわ、恋愛に審査期間ってあるんですか!? そんなの聞いたことない!」

「私は弁護士ですので」

「いやいや、法律関係なくないですか!?」


陽向が必死に抗議するが、結菜は淡々と続ける。


「パートナーとしての資質を評価せずに交際を始めるのは、無計画に契約を結ぶようなものです。私は不確実なリスクは避ける主義ですので、あなたが適格かどうか、慎重に判断する必要があります」

「そ、そんなの……!」


陽向はしばらく口を開けたり閉じたりしていたが、ふと何かを思いついたように言った。


「じゃあ、それってデートってことじゃないですか!」

「いいえ、あくまで適性確認のためのプロセスです」

「いやいや、僕が言ってること間違ってます? だって、お姉さんとご飯行ったり、お出かけしたりするんですよね?」

「ええ。適性を見極めるには、共に時間を過ごし、価値観の相違や協調性を確認するのが合理的です」

「映画とか見たり?」

「共有する体験を増やすことで、判断材料を集める意図があります」

「いや、それデートですよね!?」


陽向が身を乗り出して詰め寄るが、結菜は平然とした顔でスルーする。


「ルールを決めます」

「ルール……?」

「まず、恋愛感情を交えないこと。これは評価基準を公平に保つための措置です」

「……いやいやいや、それ絶対無理じゃないですか!?」

「もしこの条件を守れないなら、あなたの冷静な判断力に問題があると言わざるを得ません」

「うぐっ……!」


陽向は苦悶の表情を浮かべる。


「次に、会う頻度は週に一度まで。無計画な接触は、効果的な判断を妨げる要因になりえます」

「計画的に会うって、そんなの仕事みたいじゃないですか……!」

「さらに、あなたは理に適った行動を取ること。無駄なサプライズや、意味のない感情的なアプローチは禁止です」

「そんなの俺じゃなくなるじゃないですか!!」

「なら、この審査はここで終了ですね」

「わーーー!! ちょっと待ってください!!」


陽向が両手をバタバタさせながら叫ぶ。


「でも結局、具体的に何をすればいいんですか?」

「簡単です」


結菜は淡々と続ける。


「まず、私との会話において、論理的な思考を重視すること。たとえば、何かを提案する際には明確な根拠を提示してください」

「えっ、めちゃくちゃ難しくないですか!?」

「そして、共同作業を通じて、互いの価値観の適合性を確認します。たとえば、一緒に料理をする、計画的な外出をするなど」

「一緒にご飯作るとか、普通にカップルのアクティビティじゃないですか!?」

「さらに、レジャー活動を通じて、感情に頼らない相性の分析を行います。例えば、映画を見てその感想を論理的に話し合う」

「いやいや、それって結局デートじゃないですか!!」


陽向が思わず叫ぶと、結菜は小さく息をついて、静かに言った。


「あなたがそれをデートと認識するかどうかは、あなたの自由です」

「ええぇぇ~~~!!?」

「私は、ただ合理的に最適な方法を選んでいるだけです」


陽向は頭を抱えながら、悶絶するように呻いた。


「いや、ほんと、何が違うんですか!?」

「プロセスの目的です」

「目的……?」

「通常のデートは、交際の過程として行われます。しかし、これは評価のためのプロセスです」

「うわぁぁ、やっぱり仕事みたいだぁ!!」


陽向は絶望したようにテーブルに突っ伏した。

しかし——


「でも!」


次の瞬間、バッと顔を上げ、力強く拳を握る。


「やります!! 俺、絶対この審査クリアします!!」

「……意外と前向きですね」

「だって、お姉さんとデートできるなら、それだけで嬉しいんですよ!」

「だから、デートではありません」

「いや、もうどっちでもいいですよ! とにかく会えるんだから!!」


結菜はため息をついた。

(……本当にこの男は、根拠がない)


しかし、そんな無根拠な情熱が、ほんのわずかに面白いと思ってしまった自分がいるのも事実だった。

(論理的ではないですね)


自分の思考にそうツッコミを入れながら、結菜はカップを置いた。


「では、次に会う日を決めましょう」


陽向の目がキラキラと輝いた。


「はいっ!! もちろん、すぐにでも!!」

「来週です」

「ええ~~~~~~!!!」


陽向の絶叫が、カフェの静かな空間に響き渡った。

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