第29話

『文化祭まであと33日』


 ゴールデンウィークが終わって1週間後、中間テストが始まった。試験1週間前は部活動が禁止となるため、試験期間開け、久しぶりに部室に行ってみると、黒板には大きな文字でこう書かれていた。


 2年の先輩たちは明日まで試験らしいため、今日は1年のみの個人錬となる。部室一番乗りかと思いきや、すでに越智が練習を始めていた。越智の演奏は、連休前とは比べ物にならないほどよくなっている。連休中にしっかり練習したのだろう。去年の吹コン前の仕上がりにはあと一歩って感じか。


「……マーチングどうだった?」


 いつもなら練習中に誰かが近くを通っても全く反応しない越智だが、今回はめずらしく練習を中断して、話しかけてきた。意外な行動に戸惑いながら反応する。


「え、まあ、そこそこ? やっぱ歩きながら吹くって、難しいもんよ」

「……そっか」


 案の定、反応は薄い。


「越智は、調子、だいぶ戻った?」


 沈黙に耐えきれなくなって、思いついた言葉を口にする。


「……そう、聴こえる?」


 あ、これ、失礼だったか。


「ごめん」

「?」


 首をかしげる越智。あれ?


「ふたりとも早いねー! 今日からがんばろー!」

「試験お疲れ様」


 桂さんと相原さんだ。2組のふたりは、一緒に行動することが多い。試験が終わった開放感からか、桂さんの声はいつもより高いし、黒ぶち眼鏡をかけた相原さんの表情は柔らかい。


「ふたりともお疲れ。その様子、試験、手応えあったみたいじゃん」

「私は全然だけど、沙月はすごいよ~。たぶん、学年1位だと思う!」

「ちょっと、優菜!」

「えー何で? 沙月、入学式の時も新入生代表でスピーチしてたじゃん! あれ、入試で一番成績が良かった人がやるって先輩に聞いたよ」


 全然記憶ない。ずっと佐伯に話しかけられてた。


「も~。どの先輩から聞いたの?」


 相原さんは不満げだ。誰にも知られたくなかったらしい。


「皆実先輩だよ? ちなみに、去年の新入生代表は千代先輩だったらしい!」

「え、宍戸先輩って頭いいの!? あんな格好なのに!」

「河野君、それは失礼だよ」


 相原さんに諫められた。


 越智は話に興味がないのか、隣でロングトーンを始める。


「あ、練習中だったね、ごめんね、礼乃ちゃん!」

「……!?」


 桂さんのナチュラルな下の名前呼びに動揺したらしく、越智のロングトーンは音程がぶれ始めて、どこぞの蛇使いの笛のような音を出し始めた。本当に、分かりやすいのか、分かりにくいのか分からない性格。


「邪魔しちゃ悪いし、私たちも練習、行くね! じゃ、またね~!」

「また~!」


 ふたりは去っていく。


「礼乃ちゃん」


 あえて聞こえるようにつぶやいてみたら、越智はリードから口を話して、じっと見つめてくる。


「……ごめんって」


 基本的に無反応で無表情だけど、意外と表現豊かだった。

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