第47話 説得

 ソーニャたちは騎士団本部にて、副団長であるオーセ・ヴィクセルと会っていた。オーセは肩までの長さの銀髪に、やや吊り気味の紫の目を持つ長身の美女で、きつい性格の傑物として知られていた。ヨルゲンをよく補佐し、彼の優秀な副官として活躍していた彼女は、今は臨時団長を務めている。ソーニャも騎士であった時、何回か会話を交わしたことはあるが、取っつきにくい人間という印象だった。


 オーセは半壊した騎士団の応接室で、優雅に紅茶を飲みながら、ローテーブルを挟んで向かい合うソーニャとユリウスに話しかける。フレドリカとライラ、ヴェロニカ、ヨルディスは、応接室の壁際の椅子に座っていた。


「よくのこのこと出てきたものね。というか、生きてたのね、魔女さん、偽聖女様。お仲間も増えているみたいじゃない。本当ならこの場で首を刎ねられても文句は言えないわよ、貴方たち。でも私はそこまで短慮ではないから、話ぐらいは聞くわ。とはいえこちらも忙しいの。何か弁解したいことがあるなら、なるべく手短にお願いね」


 そう話すオーセの腰には、レイピアが吊り下げられている。何か彼女の逆鱗に触れるようなことを言えば、すぐさま斬られる可能性があった。対してこちらは丸腰である。応接室に入る前に武器を取り上げられたのだ。


 ソーニャは一つ咳払いをすると、まっすぐにオーセの目を見て話し始める。


「では、単刀直入に申し上げる。騎士団に力を貸していただきたいのだ」


 オーセは片眉を上げた。


「どういうこと? あなたたち、何をするつもりなの?」

「無論、ラストヴァリアへの反抗だ。貴殿たちとて、このまま祖国が敵国に侵食されていくのを黙って見ているのは本意ではないのではないか?」

「……」


 オーセは腕を組んで、ソーニャを軽く睨んだ。その凄みのある視線に射すくめられそうになったものの、ソーニャは負けじと彼女を見返す。


「私とて、かつてはこの騎士団の一員だった。祖国エルイーネを思う気持ちは、誰よりも強いと自負していた。そしてそれは、騎士団から放逐された今でも変わりはない。……聖光教に裏切られた者同士、手を取り合わないか?」


 ユリウスも口を開く。


「そうっすよ、臨時団長さん。ま、騙してた側の俺が言うのもなんですけど、聖光教はマジでクソな宗教だったんです。教会の嘘がバレた、というか俺がバラした以上、聖光教の正統性は完全に否定されて、もうソーニャは異端者じゃなくなりました。むしろ彼女こそが、エルイーネ建国の民の子孫であり、正統な支配者っす。ソーニャも俺も、純粋に国を思う、憂国の徒です。それはあんたらも同じでしょ? それとも、あんたらはこの国がラストヴァリアに乗っ取られていいと思ってんすか?」


 しばらくの間、沈黙が場を支配した。しかし、何を思ったのか、オーセが突然笑い出した。


「なっ、何がおかしいのだ!? 私もユリウス殿も、何も妙なことは言っていないぞ!」

「おい、落ち着け、ソーニャ。まずは臨時団長さんの話を聞こう」


 思わず席を立ったソーニャを、ユリウスがたしなめる。オーセはひとしきり笑った後、改めてソーニャたちに向き直った。


「騎士団が異形の魔女たちと手を組むなんて、前代未聞だわ。ねえ、魔女さん。貴女の先祖がこの国を建国したって話だったわね。何か証拠はあるの?」

「それは……」


 ソーニャが口ごもると、すかさずフレドリカがオーセに近寄ってきた。


「あら、レーヴ家のご令嬢。何か言いたいことでも?」

「ええ。まずはこちらをご覧ください」


 そう言うとフレドリカは、ポシェットから折りたたまれた紙を何枚も取り出した。オーセはそれらに目を通す。読んでいくうちに、彼女の顔が強張っていった。ややあって、オーセは険しい目をフレドリカに向ける。


「ご令嬢、ここに書いてあることは本当なの?」

「はい。魔女の里に行って調査した結果です。考古学的観点から推測するに、リーアス神による創造物とされているものは、全てがかつてこの地で繁栄した魔女の……彼女たち自身は自らのことを『浄者』と呼んでいましたが、ともかくその文明による産物であると考えるのが妥当だと結論づけました」

「そう……」


 オーセは調査報告書をフレドリカに返すと、指を組んで思案にふけり始めた。数分後、彼女はおもむろに口を開いた。


「私は、まだ貴方たちを全面的に信用したわけじゃないわ。だけど、聖光教が人々を欺いてきたのは事実だからね。それに、今、大司教様は行方をくらましているわ。こんな国の非常時だというのに、説明責任を放棄したのかもしれない。聖光教に対する人々の信用は急落している。ユリア様、じゃなくてユリウスさん。貴方たち聖職者の罪は重いわよ。どんな事情があったのか知らないけど、みんなを騙していたんだから」


 ユリウスはニヤリと笑って答える。


「わーってますよぉ。だから俺は、落ち着いたら、甘んじて罰を受けるつもりっす。でも今は、国の中で仲間割れしてる場合じゃないっすから。団結してラストヴァリアに立ち向かうべきでしょ」

「もし仮に私たち騎士団が貴方たちに味方したとして、勝算はどれぐらいあるのかしら?」


 オーセの問いに対して、ソーニャはごくりと唾を飲んだ。正直なところ、ラストヴァリア全体の戦力も未知数な上、ソーニャ自身の力もまだ完全には覚醒していない。エルイーネ人は魔法を使えないため、ラストヴァリアに対しては劣勢であることに変わりはない。ソーニャが戸惑っていると、不意に部屋の戸が激しくノックされた。


「入っていいわよ。どうしたの?」


 オーセが言うと、すぐに戸が開き、一人の騎士が顔を出した。


「臨時団長! 頭に角を生やした者たちが詰めかけています! その数およそ三十人! ソーニャ様の援護に来たとか申しております! どうしますか、追い返しますか!?」

「……とりあえず待たせておいて。もうすぐ終わるから」


 騎士はかしこまりました、と答え、退出した。オーセは再びソーニャたちの方を見る。


「貴方たちのお仲間が来たみたいね。それだけ魔法とやらを使える者がいるなら、それなりに戦力になるはずだわ。……協力の話、前向きに考えましょう。ただし、企てが失敗した時は、貴方たちにも責任をきっちり取ってもらうわ。それでいいかしら?」

「……ああ、もちろんだとも。ご厚意に感謝する」


 ソーニャは深く頭を下げた。ユリウスもそれに倣う。すると、すぐにオーセがぱんと手を叩いた。


「さあ、そうと決まったなら、早速騎士団のみんなに説明しなくちゃね。ほら、行くわよ」


 オーセに促され、ソーニャたちは応接室を出て、集会所へと向かった。

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