第21話 「真実」
「フレドリカさん。あんた、ソーニャが魔女として断罪されて、処刑されかけたこと、知らねえのか?」
ユリウスの問いに、フレドリカは淡々と答える。
「ええ、知らなかったわ。そんなことになる前に、私は王都を出たもの。ソーニャさん、前にあなたと禁書を読んだでしょう? 私、あれを読み進めたんだけど、驚きの事実が明らかになったのよ。まあ、あくまであの本によれば、ってことなんだけどね。それを知って、いても立ってもいられなくなって、家を飛び出したのよ。今頃実家では、私を探して大騒ぎになってるかもしれないけど、そんなの知ったことじゃないわ」
「そう、だったのか。ところで、驚きの事実、とは……?」
「この国はかつて、魔女が支配していたんだってことよ。この国では自然崇拝が広く行われていて、超自然的な力を操る魔女たちが、祭祀を司っていたらしいの。そこに侵略者がやって来て、魔女たちを排斥した。具体的には、大量虐殺を行ったの。抵抗した者だけでなく、投降した者も皆、容赦なく殺したらしいわ。そういう魔女たちの亡骸の上に築かれたのが、今のエルイーネ王国ってわけ」
「……!」
ソーニャは目を見開き、口を両手で覆った。それが本当のことならば、今までソーニャが真実だと信じて疑わなかったエルイーネ王国の歴史は、勝者によって都合良く書き換えられたものだということになる。固まったソーニャを横目に、フレドリカは話を続ける。
「魔女たちを殲滅してエルイーネを建国した人たちは、自分たちの行いを正当化するために、聖光教っていう宗教を作り上げて、魔女っていう存在を歴史から抹殺した。……それがどうして今更、魔女というものを明るみに出して、人々の前で大々的に処刑しようとしたのかは分からないけど」
「つーことはよぉ、それが本当なら、やっぱ神なんざいねえっつうことになるよな。ほら見ろ、ソーニャ。俺の言ってたことは正しかったんだよ」
ユリウスは得意げな顔で、ソーニャを見た。しかし、彼女は握りしめた拳をわなわなと震わせている。
「ん、どうした? ソーニャ。青い顔して」
「……私が本当に魔女の血を引いているのならば、聖光教は、偽りの宗教であっただけではなく、私の……私の先祖の敵であったということになるのか……?」
ユリウスとフレドリカは顔を見合わせた。そして、ソーニャに向き直る。
「……そうだな。あんたにとっちゃ酷なことかもしれねえが」
「まだ、本に書いてあったことが全て本当かは分からないけどね」
「……」
ソーニャはがっくりとうなだれた。重い空気を変えようとしたのか、ユリウスがフレドリカに話題を振った。
「ところでよぉ、フレドリカさん。この里には結界が張ってあったらしいが、あんた、いったいどうやってここに入ったんだ?」
「たまたまこの近くを通る魔女の一人を見かけてね。訳を話して、入れてもらったの。最初はなかなか信用してもらえなかったけど、私に根負けしたみたいで、最終的には渋々通してくれたわ」
「へえ。あんたの真実への探究心は、並大抵のもんじゃねえみてえだな。感心するぜ」
「お褒めに与り光栄だわ、聖女様。でも、あなたって本当に口が悪いのね」
「へっ、余計なお世話だよ」
そんなやり取りをしつつ、ユリウスはソーニャの背に手を当てた。
「ソーニャ。……ショックだろうな。今まで信じてきたもんに、ことごとく裏切られたんだからよ。その気持ち、よく分かる……とか、軽率に言う気はねえ。これはあんた本人にしか分かんねえと思うからな。だが、今はとりあえず、長老の家に行こうぜ。そこで、また新しく、なんか分かるかもしんねえからさ」
「……ああ。分かった、行こう……」
「え、長老の家に行こうとしてるの? 遺跡の調査はもういいわけ?」
「まあ、ざっくり見たしな。それに、古語が分かるフレドリカさんの方が適任だと思うし。そもそもそれが目的で歩いてきて、その途中でこの遺跡を見つけたんだ」
「そうだったのね。……長老、ね。私も会ったんだけど、ちょっと癖の強い人だから、気をつけてね」
フレドリカは意味ありげに目配せした。ユリウスは少し首を傾げたが、すぐに笑みを浮かべた。
「おう、忠告ありがとな。じゃ、ソーニャ。行くぞ」
「……分かった」
ソーニャは先を行くユリウスに従った。その途中で振り返り、フレドリカに向かって軽く手を振る。
「では、フレドリカ殿。また会おう」
「ええ。私は私で調査を進めておくわ」
フレドリカに別れを告げ、ソーニャとユリウスは遺跡を後にし、再び長老の家までの道を歩み始めた。
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