卒論

@Amanoru

第1話 現実

かみさま、お時間いいですか。いいよ。僕は最近になって、己が今も過去も幸せだということが分かったのです。そうなんだ。それが分かった今でも、僕はなぜか反抗期なんです。どうしてそう思うの? 今日言われたんです。あんな優しい両親にどうしてそんな冷たくできるのと。あれが普段なんです、僕はあれでも精一杯応答しています。両親は優しいの? はい。考える間があったようだけど。母親は、僕、姉、両者に愛を与えてくれていると感じます。給食費を払い、学費を払い、家事を全て引き受け、教育を行い、育て、または僕らの将来のために200万円貯金をし、それぞれに渡す用意もできているそうです。父親は? 父親は、、僕らは父方の祖母と父親、母、僕、姉で暮らしています。父方の祖父はもういませんが地獄に落ちたと聞いています。祖母もおそらく地獄に行くでしょう、そんな人柄です。父親はそんな両者の間にできた子ですから、およそ良い人とは言えません。僕らを産んだ責任だけは果たそうと、毎日6時半から18時、遅い時は21時頃まで働いてくれています。回りくどいね。彼は優しいの? 僕はいいえだと思います。どうして。僕は人が人に優しくする行為を気の迷い、気狂いだと思っています。何か行動をして、あなたって優しいのね。と見た人の気持ちを打つのは、自己犠牲が美しいからです。自己犠牲を自ずから発動するというのは、生物として狂っています。理性による社会の所為だね。それで、理由は? 僕の父親からはその自己犠牲が感じられません。そのようだね。父親は置いておいて母親に対して冷たい態度を取るのはなぜ? 子供として言い訳をすると、素直になれないからです。何度か素直になったことはあります。一時的に。その時は母親を泣かせてしまいました。それは君に原因があったの? はい。本意を言葉に変えると人に影響を与えてしまいますから。それをその頃は知らなかったんです。なるほど。知恵により判断すると、それは反抗期じゃないよ。そうですか。君は自己憐憫に苛まれているだけ。そうなのでしょうか。そうだよ。父親の毎日の労働は実に自己犠牲、君の言う優しさそのものだよ。君はそれに感謝はしても優しさを見い出せないんだ。それは君が彼のことを大嫌いだからなんだろうね。そうですね。では僕は、僕の父親は優しい、のですね。心底嫌っているようだね。なにか非道い扱いを受けたの? いえ、今も過去も虐待は受けていません。僕は基本従順だったので。良い人ではないと言ったね。はい、父は社会的、身体的、主観的に己より劣っていると判断した人に強情っ張りで、時に哀憐を抱く人です。それに、心が強くありません。己が責められるとすぐに精神を病んでしまいます。父は弱者なんです。現に僕が成長しつつある今、怒鳴られることがパタリと無くなりました。母に対しては未だ亭主関白で意固地です。気持ち悪いね。ええ、時に。人間らしいよ。かみさま。なんだい。僕は親不孝者でしょうか。違う。君は己と向き合いすぎる性分なだけ。だから悩みが絶えないのでしょうか。そうだよ。その一つ一つに答えを差すのが君の人生だ。そうですか。迷うことは無い、日常は楽しい? はい、楽しいです。ほら、楽しめている。自己憐憫の為せるワザだね。話したいことはそれだけ? はい、また聞いていただきたいです。それは人と環境に準じて。はい。


話が終わったので彼女の帰りを待つ。5秒程で彼女の意識は戻りその目を開く。そして一言、「水筒」

この行為はこれで4回目。その彼女の声の歪さや命を乞うように僕を見る焦点の合っていない眼差しがそろそろ僕の心に永遠の疵を刻みそうだ。その後無言のまま夕焼け小焼け。

窓の外からカエルの声。いよいよその時になったら、誰か僕に救いをください。拝啓、地球再生後の知的生命体の皆々様。今のところ僕らに覚悟はありません。もし何も未来が変わることがなかったら、僕らの責任です。申し訳ない。それでは、また明日を生きてください。草々不一。海野 一心。

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