第36話 それぞれの夜
真はあかねとつむぎのコテージを後にし、自分のコテージに帰った。
今できることは、猪野にもらったUSBメモリの解読だった。
パソコンを起動して早速解読の方を始めたのだが、早速開くためのパスワードに引っかかっていた。
——パスワードも解く一つになっているのか。相変わらず面倒な奴だ。
真は唇をかみしめて、嫌悪な顔を露骨に見せながら彼がパスワードに設定する文字を入れてみた。
ジャーナリスト、猪野亮、猪野、宮崎昌磨など色々入れていくのだが、全てダメだった。
「何が解いたらジャーナリストとして認めようだ」思わず、真は足を投げ出して壁に背を持たれた。
……そういえば、猪野が一番力を入れていた情報って何だろうか。
真は未解決事件に対して力を入れていた。とはいえ、それを解決できるには程遠い。しかし、少しでも被害者の人たちの役に立てればと思って綴った記事は過去の取り上げた雑誌を見たらわかる。
猪野はフリージャーナリストだ。彼はどこの出版社からも声を掛けられる。それは大量の情報を得ていているところが長けているからだ。
未解決事件もそうだし、マフィアや暴力団など危険なものの情報も知っている。芸能人の情報も知っていたりするのも真にとっては仰天していた。
——情報?
真はすぐにモニターに向かってパスワードに情報と打ち込んだ。
しかし、ヒットしなかった。
——いや、あのキザな奴だから。どうせ英語でインフォメーションとかのパスワードにしているに違いない。
真はインフォメーションのスペルを打ち込み、ダメもとでエンターを押すと、ロックが外れた。
思わず「えっ」と、声が出てしまった。慌てて周りを見る。誰もいない。
真は中のフォルダーに目を通した。そこには今日の参加者の真と猪野以外の参加者の名前が書かれていた。
——もしや、この一人ひとりに猪野が知っている情報が入っているのではないのか。
これは事件解決に繋がると、真の心は昂ぶり、取り合えずあかねをダブルクリックした。
すると、笹井あかねの年齢はいくつでしょう? と書かれていた。
——なんだ、このクイズ形式は。
真は猪野が自分にジャーナリストに認めるために、どうしてクイズにしたのが、よく分からなかった。
どうやら簡単に答えたくないらしい。
真はひたすら猪野のクイズに答えていた。
「よし、じゃあ、今日も寝るか」
寝間着姿に着替えていたつむぎに対して、あかねはパーカーにジーンズ姿だった。
「早く明日になればいいね」
つむぎはあかねに言った。
「まあね。明日になって夕方の船に乗れたら、この場もおさらばだ」
と、あかねはベッドで横になっているつむぎを一瞥して、戸締りの為窓やドアを開けて変質者がいないか確認した時だった。
ドアの下の隙間から一枚の紙が四つ折りで入れられてあった。
……何だろう。
何気にあかねは開けると、手書きで、こう書かれてあった。
誰にも言わないでください。僕犯人が分かりました。明日の六時に僕のコテージに来てください。そこで話をしますから。つむぎさんにも言わないでください。 真
「どうしたの? お姉ちゃん」
あかねが後ろを振り返ると、つむぎは何気にあかねの方向に目をやる。
「いや、何でもないよ。ほらほら、早く寝よう」
と、あかねはその紙をジーンズのポケットにねじ込むように入れて、彼女は床で寝そべっていた。
「ねえ、お姉ちゃん。帰ったら美味しいものでも食べよう」
その言葉と声が弱弱しく感じたあかねは、
「何、どうしたの。節約家のあんたらしくないじゃない」
「うん」つむぎは天井を見上げた。「何だか今回の旅行疲れちゃった。色々ありすぎて。でもね、真さんやお姉ちゃんの大切さが良く分かった二日間だった」
そう言われて、あかねは何となく目頭が熱くなった。
「な、何言ってんの。とにかくさ、帰ったら出前でもじゃんじゃん頼もう。ほら、あたしが埋蔵金取ったら真っ先に頼もうとした高級寿司のメニュー表あんじゃん。アレにしよう」
アレは高すぎる。もっと安いのにして。とでも言うかなと期待していたあかねだったがつむぎは、
「そうだね。お姉ちゃんが一番好きなもの頼んで良いよ」と言った。
「もう、歯切れが悪いね。もう寝るよ。おやすみ」
あかねはつむぎとは逆の方に顔を向けた。
つむぎはしばし考え事をしていた。
自分の本当の姉ではないあかねにも感謝をしているし、あかねが連れてきた助手の真も自分に好意があるのは何となく分かるが、でも優しい人で頼りになる人だなと痛感した。
このまま自分は大人になっても二人と一緒がいい。
そう、一緒にいて、わだかまりが一つもない穏やかな時間が好きなのだ。
いつしか、つむぎは目を閉じて眠りについた。
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