第19話 元木の付きまとい
真は帰り道、かなり警戒していた。もちろん何者かがこの島に潜んでいることも考慮したし、元木のことだって、もしかしたら彼女が猪野を殺害したなんてこともあり得る。
彼はポケットに手を突っ込んだ。そこにはあの覚醒する日本酒が栄養ドリンクの瓶に入ってある。これを飲めばものの数分から頭が冴えて、度胸も強くなる。
「しかし、アレはどう見ても他殺だよね。血が固まっていることからすると、すぐではないことは確かだわ」
「そうですね……」
真が素っ気ない返事をすると、元木は真の方を見た。
「何、文句ある気?」
と、彼女は睨んだ。
「いや、そんなことはないですよ」
真が狼狽して謙遜すると、彼女はクスクスと笑った。
「大丈夫よ。私はそんなこと言わないから。今、笹井あかねの真似をしたのよ。あの子は魅力がないからね。でも……」
と、彼女は手を使って髪をなびかせて、真の耳元でささやいた。
「私は美人だし、あなたとだったらピッタリ……だ・か・ら」
吐息混じりに伝える元木に、思わず真は離れて距離を置いた。
「止めてください。元木さん、飲みすぎですよ」
元木は懐中電灯を真の顔に当てた。すると、照れている真の姿を見て今度は豪快に笑った。
「あはははは、本当にあなたって可愛いね。好きになっちゃう。どう、ここでキスしてみる?」
シラフなのか、酔っぱらっているのか定かではないが、とにかく真はこの女性と二人でいたくはなかった。
ポケットからビンを一本手に取って、ビンの蓋を回し、目を閉じて一気に飲み干した。
喉を伝っていく日本酒は鳩尾で一気に熱くなる。それもそのはず、この日本酒は度数がきついのだ。この前の島での事件もかなりべろべろに酔っぱらってしまい、何度か気分が悪くなってしまった。
「何飲んだの? 精力剤?」
その言葉に思わず先程の日本酒を吹き出しそうになった。
「……ち、違いますよ。栄養ドリンクみたいなもんです」
「じゃあ、精力剤じゃない。今夜に掛けて飲んだんだね。是非とも私を選んでね」
そう言いながら、彼女は真の腕を組もうとする。
「ちょっと止めてください」
真は即座に手を放して、早歩きで大コテージに向かっていった。
元木はその真の後ろ姿を見ながら、徐々に口角を上げてニヤッと笑っていた。
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