第3話 不安だとしても

『藤先輩、少しお時間よろしいですか?』

『おん?どした改まってw』

『電話。』


私は今、きっと冷静じゃない。

誰かと話すべきでも、ましてやこんななんの関係もない先輩に強引に電話をねだるべきでもない。

でも、ただきついものがあった。


『いいよ。』

霞たちは?とも、なんで?とも聞かずにただ受け入れてくれた先輩の厚意に今は

甘えてしまいたかった。




『ーはいはい〜もしもーし』

「…もしもし、お疲れ様です、」

『そちらこそ?』

「あぁ、どうも」

『で、どした』

ここからの私は本当に止まらなかった。自分でも何を言ってるのか、何が言いたいのかわからない、取り止めのない話を藤先輩はずっと相槌を打ちながら聞いていてくれた。


「F高校、C判定で…周りはみんな頑張れば届くって言ってくれるし、私も頑張りたいと思ってはいるんです。それに、ここで引き下がったら自分に負けているような気がして、、」


そうだ。

私はきっと、プライドが強すぎる。

そのプライドの強さに私の弱い心が追いつかなくなって、辛くなるんだ。


「もしここで引き下がっても、きっとみんな何も言わずに大丈夫だって言ってくれる。でも、そう考えちゃったら、、じゃあ、今の私は、」


なんのために頑張ってるんだろう。

一つレベルを下げてしまえばこんなに頑張らなくてもいいかもしれない

今の志望校に大したこだわりがあるわけでもない


もし、落ちたら、

その考えが過ぎるたびに怖くなる。


周りだけ伸びていって、だんだん、置いてかれちゃうみたいで、

きっと、焦っているんだ。


そんなことを吐き切ったのち、私は先輩に何をぶちまけているんだろうと整理し切れない頭の中で思った。


『…まず、深呼吸しよう。』

「、へ?」

『頼むから、とりあえず一旦休憩しな。』

「い、いや、こうやって悩んでる時間があったら勉強を…」

『本当に疲れ溜まってそうに見える。』

「で、も!!」


『杏。』

「え」



この時、私は初めて藤先輩から’’小鳥遊’’ではなく’’杏’’と呼ばれた。

その声は、ひどく優しくて、わがままばっかいってる子供をあやすかのような少し呆れの混ざった、でも、心にスッとしみる声だった。


『いったかわかんないけど、俺ほんとはI高校入りたかったんじゃなくてY高行きたかったんよ。』

「え、Y高ってI高校より偏差値低い公立ですよね、?」

『親の母校で。がち死ぬ気で勉強した。本当は、悠也たちと同じとこ行きたくてY高目指してたんだけどね。』

「私と、同じ、、」

『そうだよ。杏と同じ。でも、勉強頑張って俺はI高入った。俺ができたんだから、杏にできないわけがないのよ』

「でも。怖いです。」

『余計なこと考えなくていいと思うよ。全然。みんな今は杏と同じこと思いながら頑張ってるんだ。』

「…」

『杏ならいける…けどその前に』

「?」

『マジで。心配するから。一回落ち着け。』

「あ、え?あ、はい。」


こんなストレートに心配してくれていた先輩とその言葉に少し心が軽くなった。


『不安だとしても、まず自分を大事にしてほしい。』

「…すいません、ありがとうございます。」


この頃からなのかもしれない。私が藤先輩を意識し始めたのは。

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