第16話 調べごと、そして

セイラは呆然としながら目の前の鉄の塊を見上げていた




「な、なんですか、これ…」




「飛行機です。」




「ヒコーキ…」




「正確には自家用小型ジェット【BAE Jetstream 31/41】になります」




「えなに、セイラちゃん飛行機も知らないわけ??どこで生きてたの?古代??」




困惑した様子でクレイグがセイラを見やるがセイラはそれどころではなかった。


車すら知らなかったのだ、それなのにこんな大きな鉄の塊が空を飛ぶのだと話されても信じることなどできなかった。




「飛ぶんですか???これが???」




頭いっぱいにハテナを浮かべているセイラを呆れた顔をしながらクレイグがジェットに押し込み、自身もぴょい、と飛び乗る

すでに乗っていたウェインがやっとか、と言わんばかりに不機嫌な態度でそれぞれの座席を指差す




「さっさとしろ。寝るところだったぞ。」




「ひい…すみません…」




ワタワタと準備をしているセイラにクレイグがシートベルトの付け方を教えていると操縦席からシトリーが顔を覗かせる




「それでは今から向かいます。皆様、しっかり捕まっていてくださいね??」




そういうと彼女は操縦席へと戻る。…そして、ゆっくりと動き出すジェットにセイラはただひたすら震え、隣に座るクレイグの腕に捕まることしかできなかった。











数十分後


ジェット機は静かに街の少し遠くに着陸する


ヨタヨタと顔色の悪いまま歩くセイラを追い越すようにウェインとクレイグはジェット機から降りるとセイラに視線を向ける




「酔ったの?三半規管弱くね??」




「全く…情けない姿だな」




「う、うう…すみましぇん…うっ、ぷ」




しばらくぶりの地面を足で堪能していたセイラを置いておいたままウェインはシトリーに声をかける




「これの監視は任せる。」




「かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」




ツンツンとセイラを突いていたクレイグも突くことに飽きたのか頭の後ろで手を組みながらのそのそと村の方へ歩き出す




「おい、いつまでそこにいる気だ。おいていくぞ。」




生まれたての子鹿のようなセイラを一瞥しながらウェインも村へと歩いていく




「ま、待ってくださいよお!!」




慌てて千鳥足のままセイラもその後を追いかけていく


街まではすぐそこであったが、セイラにとっては吐き気との闘いであったため、随分と長い道のりのように感じていた、が、なんとか二人の後を追いかけていく


セイラがたどり着いた時には二人はすでに街の中へと入って行ったのか、入り口に二人の姿はなかった。




「ど、どこ行っちゃったんですかあ…!!」




シン、と静まり返った不気味な街を恐々と進んでいたセイラは数十メートル先に二人の姿を見つけるとホッと安心したように肩の力を抜く




「よかったあ…」




慌てて二人に駆け寄ったセイラは立っていた二人に声をかけようとして、二人の前に立っている小さな少年に目を奪われた。




「こ、子供!?!?」




ボロボロの服に大きな鎌を持った少年…そしてその前に立っている男二人、あまりにも犯罪の最中のような現場にセイラは慌てて二人を押し退け、少年の前にひざまづいた




「この村の生き残りの子??服、ボロボロじゃない!!怪我は?どこかぶつけたりしてない??」




慌てて捲し立てるセイラに少年は呆気にとられたような顔をしていたがへにゃ、とその柔らかそうな眉を下げるとセイラを見つめ口を開いた




「怖かったあ…」




うるうると瞳を潤ませ震える少年の姿にセイラは自身の村にいた弟たちを思い出し胸を痛める…そして男二人を指差し




「ダメじゃないですか!!こんなに怖がってる子を前にして突っ立ってるだけだなんて!!見損ないました!!」




少年を自身の腕の中に収め、キャンキャンと怒鳴る…すると二人は顔を見合わせた後呆れた顔で少年を見やる




「セイラちゃんからかって楽しい~?ドゥちゃあん」




「セイラ、そいつはこちら側の人間だぞ」




「………へ??」




自分の服をギュッと握りしめていたはずの少年に顔を向けると彼は潤ませていた目と顔をスンッとさせるとセイラを押し退け、つまらなさそうに口を開いた




「あーあ、つまんないの…せっかくバカなやつからかってたのに」




はあ、とため息をつくとセイラを指差した




「ウェイン、こんなバカなやつ契約相手にしたの??変わってるね。」




まるで昔からの顔見知りのように話す少年…ドゥをぽかんとしながら見ていたセイラにクレイグが声をかける。




「こいつも”狂信者”だよ。俺様達と同類。」




「お前と同類にしないでよ」




嫌そうな顔でクレイグに吐き捨てるドゥにセイラはようやく止まっていた頭を働かせた




「えっと??つまり??」




「この子供はお前よりも先輩だ。今回の街に来ていた天使と聖職者も全てこいつが始末したようだな…つまらん。」




はあ、とため息をついたウェインがドゥを指差しながら答えるとそこでようやくセイラはこの少年に揶揄われていたのだと理解し、恥ずかしそうに頭を抱えたのだった

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