第10話 魔王の威厳とは

 ゴンザレス王国に行く数ヶ月前のある日、俺はセントドグマ復旧作業の視察をするため、セントドグマの首都『アルカンディア』の街道を1人で歩いていた。


「あっ、魔王様!」

「魔王様、見回りご苦労様です!」

「すぐ建物を復旧させて、いい国だなって思えるところにします! 待ってて下さいね、魔王様〜!」


 アルカンディアで作業する人々は俺を見て魔王と呼びながらも、恐れることは無く、逆に親しみを持って魔王、魔王と呼んでくれていたのだった。


 そんな人々に俺はガラにも無く手を振っていた。

 目立ちたいタイプでは無かったが、みんなから好かれているというのは気分も良く、魔王様と言って笑顔を向けてくる人たちを無下に扱うことは出来なかったのだ。


 今俺が歩いてるセントドグマという場所は、元々違う国として存在していた。

 それを俺と仲間で一度滅亡させ、もう一度違う国、セントドグマとして国民たちに再建してもらっているところなのだ。


 セントドグマの国民は前の国からここにいた者や他国から移住して来た者が半々。

 俺たちが壊してしまった建物を、ほとんどの国民が日々文句を言わずに直してくれているのだ。


 国民の中には俺のやり方に異議を唱える者も少なからずいるが、俺はそんな声を無視するのでは無く、しっかり聞くことを心がけている。


「おう、魔王様じゃねーか! 今日はどうしたよ?」


 俺は歩いていると1人の男から声をかけられる。


「あっ、ザイナックさん。こんにちは」

「おっ、俺のこと覚えててくれたのかい、嬉しいね。魔王様ってのは国の住人全員覚えてるもんなのか?」

「覚えようとはしてますよ。でもまだ全然です。数が多すぎてみんなは覚えられないですね。ザイナックさんは特別ですかね」

「特別って……良い意味じゃ無いよな?」

「まぁ、無いですね」

「言ってくれるぜ! ガハハハハ」


 銀の鎧を身にまとった大男、ザイナックは俺の冗談に大笑いする。


 国民を皆覚えている訳では無いが、ザイナックに関してはちゃんと覚えていた。というか忘れる方が難しいのだ。


 ザイナックは元々ここに住んでいた者で、国軍の隊長をしていた男なのである。

 俺たちとの戦いに国を守るため参加していたザイナックは、一度捕虜になるが、事が落ち着いたところで解放してやったのだ。


 捕虜の半数が他国に亡命する中、ザイナックはここに残り、世界安全支配機構に対してずっと支配反対と言って抗議活動をしていた。

 それを俺は力でねじ伏せるのでは無く、ザイナックたちと対話してきたのだ。話を聞き、何が不満か、どうすればいいかをずっと話し合った結果、俺とザイナックは落とし所を決め、新しく作るセントドグマという国を豊かにすると約束したことで、今は復興に協力してくれているのだ。


「忘れる訳無いですよ。ザイナックさんは魔王に喧嘩を売る勇気のある、数少ない兵士なんですから!」

「忘れてくれよ、そんなこと。悪かったって。あと、敬語は辞めてくれないか。アンタはこの国の王なんだからもっと偉そうにしててくれや。さん付けされるのは……なんか気まずいんだよ!」


 俺が皮肉混じりの冗談を続けていると、ザイナックはよしてくれと言い、そして敬語で話すことに物申す。


「年上の人に敬語を使うのは当たり前だと思いますが、変ですか?」

「変だ! アンタはこの国を統治する王様、そんで今の俺はこの国の一市民。王様なんだからもっと偉そうにしててくれよ!」


 ザイナックはトールとずっと喋っていて分かったことだが、トールは魔王と呼ばれるほど強いというだけで、実はただのやさしいまともな青年だというのに気づいていた。

 トールを国の王様と認めてしまったザイナックからすると、そのかしこまる姿は見てて違和感しかなかったのだ。


「まぁ、そういうところに惹かれたってのもあるんだろうけどな。とにかく俺に敬語はいらん! これからも国のために働いてくれれば少しは偉そうにしてていいんだよ、魔王様!」


 ザイナックはそう言って俺の背中を叩き、邪魔したなと言いながらこの場を去って行った。


 確かにザイナックの言う通り、魔王ってのはもっと威厳があった方がいいのかと思い、俺は少し他人の前では背筋を伸ばし、ピシッとすることを決めるのであった。


 威厳のある王にならなくちゃと決めた矢先、俺は歩いているとすごく魅力的なお店の前に辿り着いてしまった。


「こ、ここは!?」


 きらびやかネオンの装飾が目立つ看板。

 扉を出入りするガラの悪そうな人たち。

 そして扉が開かれるたびに漏れ出る騒音とタバコの匂い。


 復興作業が進んでいる中、俺が昔から大好きなお店、カジノが既に開店していたのだ!


「金……金、金……おっ、マジか! 結構持って来てるじゃん、俺!」


 俺はポケットの中をまさぐり、自分の所持金を確認する。すると世界安全支配機構が発行しているお金『ブルム』を、俺は2万ブルム所持していたのだ。


 100ブルムあればリンゴが1個買える。2万ブルムは結構な金持ちだと思うことだろう。

 でも俺の目の前にある店では、その大金が数倍になって返ってくることもあれば、それが一瞬で無くなることもある。

 中には生死の境を彷徨さまようハメになる客も出てくるという、カジノは非常に危険なお店なんだ。


 それでも、見つけてしまったからには戦いに行かねばなるまい!

 大丈夫、世界は俺を中心に回ってるはず!

 俺の宇宙コスモを見せつけてやるぜ!!


 トールが威厳を持たねばと思ったのも束の間。札束を握りしめ、猫背でカジノの中へと入って行くのであった。

 

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