平和主義者の最強魔王は嫌々世界を回してる〜こっち来ないで、勘違い転生者たち〜

執筆のゴシ

第1話 魔王なんて呼ばないで

「トール様、大変です! つい先程連絡が入ったのですが、バラムに新しい『勇者』が召喚されました!」


 薄暗い部屋の中、1人で優雅ゆうがにお茶を飲んでた俺は唐突とうとつにそんなことを告げられる。

 

 勇者が召喚された。

 この報告を受けたのはこれで何度目だ?

 ゆっくりしていたというのに鬱陶うっとうしい。

 はぁ〜、またダルそうだな。


 一度姿勢を正し、そして男に尋ねる。


「場所は?」

「ゴンザレス王国です!」

「ゴンザレス王国か……なるほどな」


 男に場所を聞いてみる。だがゴンザレス王国など聞いたこと無い。

 どの辺りの国なんだ、そこは?


 詳しい位置を聞きたいが、俺にも立場というものがある。

 自分の無知さを他人に知られるというのは恥ずかしいことだ。

 知らないなんて聞ける訳も無く、俺は「なるほど」と返答する。


 この言葉にはよく助けられる。

 なるほど、ホント便利な言葉だ。

 そう言っておけば、分かってる感出るよな。

 俺の威厳を保つのには必要不可欠。


「ラミタスは居るか?」

「ラミタス様ですか。たしか任務中なので、城には当分の間は戻らないはずですが」

「な……なるほどな」


 そうだ、ラミタスに任務言い渡したの俺だったわ。

 そりゃ、居ないはずだ。すっかり忘れてた。

 相手が勇者ならラミタスに任せるのが1番いいと思ったんだけど。

 ラミタスが居ないとなると次は……。


 新しく出現した勇者の対応を誰に頼もうかと考えていた。

 すると、考えていた内の1人がちょうどタイミング良く部屋に入って来る。


「トール様、お取り込み中すいません。『天使』の件が終わったのでご報告に参りました」

「おお、よく来たなサリナ。俺もお前に話がある。あぁ、すまないが2人で話がしたい。君、悪いが席を外してくれないか?」


 俺がそう言うと、報告に来た男は即座に部屋から出て行く。

 男が出て行くのをちゃんと確認し、俺はピンと伸ばした背中をいつもの猫背に戻す。


「ふぅ、疲れた〜。もうヤダ、この仕事!」


 サリナと2人きりの空間ならいいだろと、気を張ってた俺は素のキャラに戻る。

 親しいヤツ以外には、こんなダルそうにしてるとこ見せられないもんな。


「大変ね、『魔王』ってのも。大丈夫?」


 サリナはクスクス笑いながら、俺の体調を気にしてくれる。


 俺、トール・フォン・ブルムは現在『魔王』をしている。

 そう、絵本などに登場する架空の存在である、あの魔王だ。

 読んだ本などによって、思い浮かべる魔王の姿形ってのは人それぞれだと思うが、俺はそのどれにも当てはまらない自信がある。


 だって俺、人間だもん!


 5年前まで普通に学生やってたんだよ。

 医者になりたくて平日は学校通って勉強。

 休みの日は「試験の追試代払えないな〜」とか言いながら趣味でパチンコ打ってた。

 魔王って呼ばれる理由が全く思いつかないほど普通の、いや、ちょっとダメ寄りの人間だったんだよ。


 そんな俺が『あること』をキッカケに強大な力を手にし、そして世界の約半分を支配することになったんだ。

 いや、厳密に言うなら支配せざるを得なくなったが正しいか。

 サラッと言ってるが、これが結構大変だったんだよな。

 ただの学生って立場から急に世界を敵に回すことになったんだから。


 やりたかった訳じゃ無い。

 世界を支配とか、普通にヤバいじゃんって思うもん。

 でもホント、俺にもいろいろ事情があったんだよ。


 それなのにみんなして俺のこと魔王様、魔王様って呼んでさ。

 正直辞めて欲しい、魔王って呼ぶの。

 化け物扱いされてる気分になるんだよ。

 はぁ、しんどい。ただの学生に戻れるなら戻りたい。


「魔王キツい。代わってよ、サリナ〜」


 俺は誰かの上に立つような人間じゃ無い。

 サリナだったらもっと上手く世界を回せるんじゃないかと思ってしまう。


 俺の直属の部下であるサリナ・マーテルは魔王がトップにいる会社『世界安全支配機構』で役員をしている。

 俺たちが今いる国『セントドグマ』とは別の国で政治家をやっていたサリナには、主に法律作成業務をやってもらっている。

 サリナがいるおかげで、今の世界はまとまりを見せてきたと言っても過言じゃない。

 

 サリナが魔王をやってくれると言うなら、俺は喜んで魔王の座を渡す。

 指導者としても任せられるし、俺なんかよりも人気者になれるはずだ。


 なめらかな金髪セミロング。

 エメラルドのような緑の澄んだ瞳。

 細い体についた豊満な胸。

 純白のレースをまとったかのような白くて美しい素肌。

 32歳であるサリナだが、20歳に見えますねと他人から言われてても、俺は驚かない。

 

 23歳にもなって未だ彼女が出来たことの無い、パッとしない見た目の俺なんかより、人前に立つ魅力ありありなんだよな、サリナって。


「あら、私がやっていいの? ……やっぱり辞めとくわ。魔王って暗殺とかされそうだし」


 サリナは魔王になるのを拒む。


 暗殺とか、怖いことを言うなよ。

 てかそれ、リアルタイムで起こりそうなことなんだよな。


「また異世界から勇者が転生したんだとさ」

「あらま」


 あらま、じゃねーよ。

 他人事みたいに言いやがって。

 大変そうね〜みたいな顔してやがる。

 ……よし、今回はサリナを連れて行こう。

 コイツにも俺の苦労を味合わせてやる。


 サリナの態度には少しムカついた。

 俺は勇者が召喚されたというゴンザレス王国に行くことを伝え、そこにサリナも同行してもらうことにした。


「話し合いで解決出来ればいいけど、今回はどうなの?」

「うーん、今回勇者が相手ってことは……多分戦うことになると思う」

「えー、私戦闘苦手なのに。ラミタスとかに言ってよ」


 勇者と戦闘になるかもと聞いて、サリナは行きたくないと駄々だだをこねる。


 俺だって行きたくは無いよ。ゆっくりお茶してたい。

 でも、これが俺たちの仕事。

 お前も社員だろ、文句言うなよ。


「今ここにはお前しか頼れるヤツ居ないの! 魔王命令! つべこべ言わず行く。はい、準備して!」

「それずるーい!」


 俺は魔王権限を使って、サリナを強制的にゴンザレス王国へ連れて行くことにした。


 サリナはほっぺたをふくらませ、「パワハラも法律に入れないとダメね!」とか言いながら部屋を出て行く。

 おいおい、魔王を法律で裁くとか辞めてくれよな。


 サリナが部屋を出て行った後、俺は手慣れた手つきでパッキング作業に入った。

 もう、今まで何回これをやったことか。


 異世界から召喚された勇者か。

 話の通じるヤツだといいんだけど。

 でも何故か勇者系のヤツって話が通じないことの方が多いんだよな。

 まぁ、俺が魔王って呼ばれてるのも理由ではあるんだけど。


「魔王って言われながら、世界を安全に支配する会社の社長って何だよ! あ〜あ、他の魔王現れねーかな! 魔王も異世界から転生してこいやー!」


 異世界転生者を俺たちの住む世界『バラム』に送り込んでくるどこかの誰かに向かって、俺は1人、自室で叫ぶのであった。

 

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