第18話

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 ――匣庭はこにわ高校オルタナティ部、初代部長の市島姫姫です。よろしくお願いします。そこ、日吉笑うな!

 二年生三名、一年生三名の計六名の部員で、学校から正式に創部許可が下りました。顧問は曽我井先生が担当してくれることになりました。

 部室はここ、を使います。ここは元々管理者オペレーターであるZが、この世界の拠点として使っていた部屋です。見ての通り前の世界から持ち込まれた物が大量に置いてあるので、転移者以外近づくことができません。

 オルタナティ部の部室としてぴったりでしょ?

 一年生、狐につままれたみたいな顔してるね。『オルタナティ部ってなに? どういうこと?」みたいな。

 今からそれを説明します。その前に、この世界のことについて簡単にお話しするね。あくまで、わたしがわかっていることだけ。


 この世界は、前の世界の代替えとして選ばれた世界なの。宇宙にはたくさんの異なる世界が重なり合って存在していて、わたしたちがよく知る世界と近いもの、遠いもの、それぞれのいくつかの重要な世界が、誰かの手によって守られている。

 どうしてかって? 知らない……って言ってしまったらそれまでなんだけど、特定の文明を守るためだと言われてるの。

 もっともこれは、ある管理者オペレーターから聞いた話で、誰が、何の目的で、どんな基準で膨大な世界の中から特定の世界を選んで守っているのかまでは、その管理者も知らされていなかったの。

 私の姉、市島魅后みこは中学二年生の時、前の世界の管理者オペレーターに任命されたんだ。拒否権もあったらしいけど、それでも姉は自ら管理者になる道を選んだ。世界を管理する権限が姉に託されたってわけ。

 別に神様になったわけじゃないよ。ただ、時間や空間の制約から解放される能力を手に入れたってだけ。観測して、ほんのちょっとだけ介入する。姉が任されたのは、地味だけど重要な役目だったんだよ。

 管理者が世界にどれぐらいいるのか……正確な数はわからない。私が知っているのは四、五人だけど、それは前の世界の話だから、この世界に彼らがやって来てるのかどうかよく知らない。


 だいたいの話は姉の魅后……管理者オペレーター・Zから聞いた。なんでも教えてくれたよ。守秘義務があるわけじゃないらしくて、なりたての頃は周りの友人にもみんな話してたらしいんだけど、当然誰が信じてくれるわけでもなく。姉は孤立した。ついでに、妹であるわたしも『自称・管理者の妹』だからとからかわれて孤立したよ。

 そんな話はどうでもいいや。とにかく居場所がなくなった姉は、元の世界のすぐ近くに存在していた世界、つまりこの世界に遊び場を作った。

 それが、ここ――と呼ばれる教室。ごく少数の信用できる者だけがここに招かれたの。


 いろいろあって――本当にそうとしか言えない――いろいろな不幸が重なって、いろいろなミスが重なって、前の世界の崩壊が確定した。もちろん姉だけじゃない、多くの管理者は回避しようとあらゆる手を尽くしたよ。

 でも、ダメだったんだ。すべての生き物が消え去る未来へと突き進むのを、食い止められなかった。

 姉たち管理者は――こういうケースが過去どのぐらいあったのかは知らないけれど――、存在する者を可能な限り、別の世界に転移させることだけだった。

 ここは前の世界から枝分かれした、比較的近い世界だったから、個々の存在の座標のようなものは保たれていたんだ。

 それで、ここにいるみんなは、今の世界に元々いた自分と、前の世界にいた自分が合わさった形で、新しい存在として生まれ変わったってわけ。

 二つの記憶が融合して、差が小さい者ほど、融合したことにさえ気づかない。ほとんどはそうで、わたしたち六人が例外ってだけ。だけど微妙には、ここは違う世界なんだよ。前の世界の記憶を持たない者も、いつか急にかもしれない。

 転移者というより、二つの世界を自覚するの方が正しい言い方かも。


 この学校は、旧校舎に管理者オペレーター・Zのがあったことで、特異点になっているの。だけど遊び場なんていうものが存在していたことは、ほとんど誰にも知られていない。

 わたしたちは学校側からの要請で、新たな転移者を保護してサポートする役割を命じられていたんだけど――って、これもわたしが管理者の妹だからって理由でしかなくてさ。転移者同士でコミュニティを作ることが目的なんだけど、特異点の話もあるからおおっぴらにはやって欲しくないんだって。

 それで、新しく部活を始めることにしました。それがオルタナティ部、日本語だと代替部ってとこ。代替えの世界で転移者のお悩みを聞いて解決します、みたいな。

 どう? ちょっとアニメみたいな、ラノベみたいな、漫画みたいな青春っぽい感じがしない?


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