無限リセマラ 〜理想のスキルを求めて何億回も転生していたら神を超えていた件〜
あまつか ゆら
第1話 泥まみれの人生
この世界の住人は、生まれながらにして神から一つのスキルを授かる。
そのスキルの価値が、そのまま人生の価値を決める――スキル至上主義の世界だ。
剣の才を持つ者は剣士に、魔法の才を持つ者は魔術師に、商才を持つ者は商人に。
皆、それぞれが与えられた才能に沿った道を進む。
しかし――誰もが羨むような強スキルを得られるとは限らない。
俺の名前はアレン。
超大陸「アフラ」の端、山裾にある小さな村で生まれ育った。ここでは王都からの情報も乏しく、近くにある“ゾロ山脈”を越えた先の「魔大陸アリマン」なんて、遠い異世界の話みたいなもの。
――それでも、村に生まれた誰もが期待をかけられる瞬間があった。すなわち“スキル付与”だ。
だが俺の場合、与えられたのは【泥はね】という、どうしようもないスキルだった。
「歩くと泥が飛び散る」という、まるで罰のような能力。
村では皆、スキルを確認してからその子の“将来”を想像する。剣の才や魔法の才なら大歓迎、家業を手伝うだけの小さなスキルでもそこそこ受け入れられる。だけど俺は――
「泥を撒き散らすだけ」
たったそれだけのスキルでは、周囲がどういう反応をするかは火を見るより明らかだった。
俺のスキルが発覚したのは三歳の頃だ。
当時はまだ幼く、みんなが走り回るのに混ざって遊んでいただけ。
ある日、かけっこの途中で、俺の足元から泥が勢いよく跳ねた。
「うわっ、アレンの周り、泥だらけだ!」
「ははっ、なんだそれ、面白いな!」
最初は子ども同士の悪ふざけの範疇だった。奇妙だが、誰もそこまで深刻に考えていなかったんだ。
けれど、泥は想像以上に飛び散る。遊び相手たちの服を汚すだけでなく、家の壁や道行く大人たちにも飛んでいく。
「ちょっ、お前のせいで服が泥まみれじゃねぇか!」
「汚ねぇ! 近寄るなよ!!」
笑いはすぐに怒声へ変わり、俺はその日から村の子たちから遠巻きにされるようになった。
家に帰れば、母さんが落ちきらない泥汚れにため息をついていたし、父さんは俺のことをじろりと見るだけ。慰めの言葉なんて無かった。
「……どうして、こんなスキルなのかしらね」
母さんのぽつりとした嘆きは、子ども心にも重たかった。
十歳を迎える頃には、周囲の子供たちは自分のスキルを活かして村の仕事を手伝うようになった。鍛冶屋に弟子入りする者、畑を任される者、行商に同行する者――。皆、少しずつ将来の道を見据え始める。
俺も負けじと、何か手伝えることはないか探し回った。だが結果はいつも同じだ。
「アレン、悪いが畑が泥まみれになっちまう」
「鍛冶場の床が汚れて作業にならないんだよ」
どこへ行っても、拒絶の言葉を浴びせられる。せめて靴に泥が付かないように工夫もしたが、泥はねのスキルはそんな程度で制御できるものではなかった。
家の中でも、俺がいるだけで空気が重くなるのを肌で感じていた。
父さんは口数が減り、母さんは苦しげに俯いてばかり。そんな日々は、俺が十五を迎えたある日、決定的な言葉で終わりを告げた。
「アレン、お前はもう家を出ろ」
父さんが静かに放ったその言葉は、俺の人生の終わりでもあり、新しい地獄の始まりでもあった。
「お前がここにいても、誰の得にもならない。自分の力で生きていけ」
母さんは何も言わず、ただ俯いて涙を流していた。
家族にすら見捨てられた――と実感した時、俺はもうどうしようもないくらい自分を呪った。
村を出た俺に行く宛などあるはずもなかった。
スキルが何よりも重要視されるこの世界で、【泥はね】ごときに生きる場所なんてあるわけがない。
仕方なく、俺は王都のスラムへと流れ着いた。
ここは、超大陸アフラの心臓とも呼ばれる王都の裏側。表向きは商人と貴族が行き交い華やかな都市だが、その影には俺のように社会からこぼれ落ちた人間や、犯罪者ばかりがうごめいている。
俺はここで、落ちている食べ物を拾い、時には盗みを働きながらなんとか数年を生き延びた。だが、それもいつまでも続くわけじゃない。
「おい、新顔だな。俺たちのシマを荒らす気か?」
ある日、スラムのゴロツキたちに囲まれた。暇つぶしに“遊び相手”が欲しいだけだろう。
彼らは何かにつけて俺を殴り、蹴り、嘲笑い、その場を盛り上げる。
「おら、もっと抵抗しろよ。死んじまったらつまんねぇだろうが!」
「くくっ、この泥っぷり! まさにクソスキルの見本だな!」
痛みより、悔しさが募る。
どうして俺だけが、こんな目に遭わなきゃいけない?
神様だか創造主だか知らないが、どうしてこんなくだらないスキルを与えたんだ?
答えは出ない。出るはずがない。
殴られ、蹴られ、意識が遠のいていく。もう、どうでもよかった。
(……なんのために生まれてきたんだろうな、俺)
そんな考えがよぎった刹那、身体の力が抜け、視界が闇に沈んだ。
次に意識が戻ったとき、見覚えのある――いや、見覚えの“あるような”古い天井があった。
だが、すぐに自分が赤ん坊になっていることに気づき、混乱する。
「……え?」
さっきまで確かに、スラムでリンチに遭って死んだはずだ。
それが、今は赤ん坊の身体。脳内に響く不可解な声が聞こえる。
『スキル付与――【薪割り】』
またしても、どうしようもないスキルだ。
しかし、問題はそこじゃない。
(なんで……生きてるんだ? どうしてまた、最初から……?)
脳内をめぐる疑問。答えは誰も教えてくれない。
だけど、俺は確かに新たな人生を始めてしまっている――同じ世界なのに。
こうして、俺の終わらない人生が始まった。
まだ誰も知らない。俺が幾度も死を繰り返すことになることも、やがてこの世界を震撼させるほどの存在に“成り上がる”ことも。
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