透明結晶で無双する~苦労して手に入れた能力はガラスの破片を手から出すだけの能力でした~

バールのようなもの

1話 耐性つき無職のジリ貧ライフ

 肌寒い冷気が蔓延し、人々を暑い姿に変える冬という現象が始まってはや数億年。定期的に訪れるものなので今年から数えればもう五ヶ月だ。

 そしてそんな冷気がより一層強まる暗闇の時間。そう、夜を俺、外似崎とにざき幻徳げんとくはかなり薄い服装で歩いていた。

「冷えるなぁ....」

 大学を中退し、ふよふよと職を探し、なんだかんだで職が見つからず、そこらへんの朝顔やあじさい、猫じゃらしを食べ、野草と謎の毒耐性をつけ始め流離いの無職となってから約三年。大学に受かり勢いで家を飛び出したはいいが、その後のゴタゴタでどうにもなくなった。

 貯金だけでなんとか家賃と食費は賄えているが、正直アルバイトをしないと厳しいところだ。

 

 いまは何をしているかというとそこら辺の草を探して歩いているところだ。

 長年こんな生活をしているせいで、あじさいに含まれる毒程度はどうにかなる耐性を手に入れてはいるのでどの草でも食えるのだが、どうせなら美味しい草を食べたい。

 というわけでそこら辺にアケビなどが生えていないかなと思いつつ歩いている次第だ。

 ドクダミも食べれないわけではないが、苦いのはあまり好きじゃない。極論、アケビやよもぎも苦いのだが、ドクダミには一応毒があるというのも考慮してほしい。


「うーん。どこにもないなぁ」

  未だに野草は見つからない。

 もう諦めて帰ろうとした瞬間、目に写った。

 赤い実が。そう、それは町中ではなかなか見かけない甘い野草のトップとも言って良いくらいの野草。

 そう、野イチゴだ。

 なかなか見かけることはないし、野イチゴはかなりの確率で群生しているため、結構な量取れると思う。

 なので俺は、そちらの方へ歩いていった。


 野イチゴの下へたどり着き、予想通り群生した野イチゴの最前列の一つを摘み取る。

「いただきます」

 そしてそれを口の中へ放り込む。

 うん。やはりうまい。

 ついでに葉っぱも適当にもぎ取り、口に放り込む

「むっしゃむっしゃまずぅっ!!!」

 想像以上に野イチゴの葉っぱはまずかった

「かにのたべられないところみたいなあじがする....」

 思わずこう呟くほどに。

 しかし、予想外はそれだけでは終わらなかった。

「うおぅ!?」

 体が光だした。たとえここが先進的な国の首都の郊外とはいえ圧倒的人外変体の予兆みたいな光り方はしないはずだ。

 そのまま俺の意識は漂白されて行き、ついに意識は途切れた


_____________________________________

 パリンという音ともに意識が回復していく。

 どこだこ....

 目を開けるとそこは、現代ではおおよそありえない牧歌的な風景が広がっていた。

 具体的には、草草草、一個飛ばして草。

 ついでとばかりに木もある。

 よく見たけど見たことのない異世界のような風景だった。

 そこら辺にはモンスターらしきものも見える

 .......

「うっそだろおい.....」

 狼のような見た目をしたモンスター。その目は確実に俺を捉え、獲物としてみている。

 残念ながら俺には毒耐性があっても過剰な痛みに対する耐性はない。

 要するに痛いのは嫌だということ。

 そしてもう一つ。背中向けたら死ぬ。そんな気配がビンビンしている。

 状態は俺とモンスターで熱心に見つめ合っている様子。

 状態だけ聞くと、ときめき☆トゥンクって感じだが、実際は相手からの一歩的な、らぶらぶ♡ハングリーって感じである。

 あ、ちなみに捕食対象的な意味で。


 狼はついに耐えきれなくなったのか、俺に向かって飛びついてくる。

 それは犬のように可愛いものではない。確実に仕留めるという意気込みをビリビリと感じる死の気配。

 人は、そんな死に対して、突発的なものなら抵抗を試みる。

 それは、一般的な生に満ち溢れた今の俺なら。

 

 というわけで、腕を顔の前にかざす。

 衝撃に備え、目をつむる。

 次の瞬間、激しい痛みが俺を襲う、かのように思われたが、それは杞憂に終わった。

 目を開けると、なぜか狼が仮装寸前の状態なのだ。有体に言えば死亡。

 ガラスが額に突き刺さり、目の前で死亡。俺の心は流離の無職時代でも見たことない光景に多少はダメージを負った。

 どうやら少しはタフだと思っていたが実際はそこまでだったようだ。猟友会の免許を取ろうとか考えなくてよかったと本気で安堵した。


「このガラス…」

 どっからきたんだ?

 疑問が一つ。

 このガラスの在処である。

 近所の野球少年が飛ばしたホームランボールが立派な日本庭園のガラスを割った破片が飛んできたと考えれば特筆すべきことはないのだが、残念ながらこの付近に日本家屋おろか家一軒、いや、人っこ一人見つからない。

 と、なると、俺が生み出したと考えるのが普通か。


 そうと仮定付ければ早速実験。

 ちょうどタンパク質に飢えていたところなので、この肉塊。わかりやすく言えば先ほどの狼を切り出すようなガラスを生み出せるよう念じてみる。

「お?」

 すると頭の奥でパリンと音が鳴り、持ち手が滑らかで怪我をせず、しっかり刃のついたガラスの破片が生み出された。

 もはやここまでくるとガラスの破片とは言い難いが、さっき聞こえたパリンという音がきっとどこかでガラスが割れた音なのだろうからこれは破片なのだ。

 

 極論と暴論を振りかざし、論理とはおおよそ言えない方法で生み出されたガラスの破片のナイフを持ち、肉を解体し始める。

  肉食動物の肉はまずいとよく聞くが、実際どうなのだろう。

 あんまり匂うわけではないので美味しいといいなと思いながら解体していく。

 元々、俺のじいちゃんがワイルドダンディーで日本のジョン・ウィックばりな性格と体質をしていたせいで、よく肉の解体とかはしていた。そのため

「ふいー。なんとか終わったな」

 ものの30分ほどで解体は完了した。しかし一つ問題が。

「流石に生じゃ食えないな……」

 いくら毒耐性と飯まず耐性を持っていようと、生肉は食えない。というか食いたくない。これはもはや現代っ子のはぐれものの意地みたいなのだ。

 

 と、いうわけで。そこらへんにあったつたでぐるぐる巻きにして、前世においてよもぎなどの保存性の強かった雑草を食って確かめ肉を包み、携帯しておくことにした。

 どうせここが異世界なら近くに街くらいあるだろ。採掘とクラフトのゲームじゃあるまいし。

 というわけで、森を歩いていく。

 そこで俺の野生センサーが過敏に反応。何か近くにいる。

 そもそも、俺の野生センサー自体、現代社会で培ったものに過ぎないので、そんな俺でも気付けるくらいの大きな存在というわけだ。

 まあそもそも、そこにいるという気配だけでビンビン伝わる大物感なのだが......。


 さまざまな思いが脳を駆け回る、しかし大いなる存在、いやこの場合はでっかい爬虫類というべきか。そう、ドラゴンは待ってくれなかった。

「おいおいおい...」

 赤い巨躯に、硬そうな鱗。何よりドラゴンを象徴するとも言える一対の大きな翼。

 大いなる牙と爪は間違いなく俺を捉えていて、戦わなければ生き残れないということを主張するようだった。

 何が言いたいのかというと、絶体絶命のピンチということだ。

 一歩間違えれば、絶対に、絶命する。

「―――ッ!!」

 大地を揺るがす強者の咆哮。

 自らが強者であるということを証明するかのように俺へ向かって突進してくる。

 ただの単純な直進ではあったが、それが避けられるかどうかはまた別。


「ガラスでいいから、盾としてっ」

 手のひらを向け、自分がしるもっとも耐衝撃に強いガラスを生成する。

 大きさも俺の体より大きく、盾となるようなものだ。

「ぐっ..!」

 そのガラスでドラゴンの衝撃を真正面から受け止める

 バキッと衝撃に耐えきれず、ガラスは粉々になったが、盾の役割は全うした。

「いまならっ」

 すぐさまガラスを生成し、鋭く尖った破片を数十個ドラゴンに打ち込む。

 全弾命中し。すこしだけ隙ができる。

 その間になんとか距離をを取ることに成功した。

 

 だが、それが限界。ドラゴンも回復し、こちらをより一層強く睨み、爪を振り下ろす。

 何がなんだかわからない中生成した剣で、いなしなんとかやり切る。

 だが相手も生物。しかも四足歩行。

 爪は2つ以上あるのだ。

「そっちもか!」

 立て続けに振り下ろされた爪は正確無比に俺に振られる。

 

 間一髪。ガラスでなんとか防いだ俺は、反撃を仕掛ける。

 全力で走り、跳ぶ。そして

「ここだっ!」

 ドラゴンの胴にガラスで保護した拳を打ちつける。

 うすうす感じていたが、戦闘しているときの俺は、いつもより力が強い。それが魔法的なものなのかなんなのかはわからないが、それを使うに越したことはないだろう。

 ドラゴンにもダメージはあったようで、痛みへの絶叫と、俺への怒りで俺を弾き飛ばした。


「うぐっ」

 木にぶつかり止まった俺は、先の衝撃で頭から血を流しながらも、立ち上がる。

 もう一発食らわせれば、倒せる。

 そういや、爬虫類の肉は食べたことなかったな......


 ドラゴンも動き出す。

 そして。

「最悪だ.....」

 空へ舞った。口元に光が集る。視線は俺を捉えたまま。

 すぐさま、ガラスを何枚も薄いもの、熱いものと交互に複数枚展開する。

 展開し終わると同時に俺に向けて、光の集合体が俺めがけて放たれた


____________________________________

「本当ですか!?」

 救急団シリチマ本部、の負傷者回収係係長室内にて、一人の少女が部下と思わしき人物から報告を受けていた。

 銀髪のショートヘアに整った顔立ち、白衣を衣服のようにした制服を着込んだ彼女は立ち上がり。

「その男性は、ドラゴンと一人で戦っていたとのことですが......」

 彼女は少し考え

「行きましょう。そこには救急を待つ負傷がいるはずです。ならば私が行かない道理はない。」

 彼女は廊下を歩いていき、一つの機械に乗り込む。

 軍用の救急車というべき姿を持つその機械は、エンジンもなしに起動する。

「しかし、森は道が....」

「?そのためにこの車があるのでしょう?。道は切り開けばいいのです」

 部下の声を両断し、フルスピードで駆けて行った

_____________________________________

 なんとか生きてたな......

 目を開けると。一切の木々がなくなり、更地同然になった森林とも言い難い光景が広がっていた。

 体中のあちこちが痛い。ガラスのお陰ですぐには死なないだろうが、それでも限界がある。

 現に、左半身は常に激痛が走っている。

 だが、俺にはまだ立ち上がる理由がある。


「そういや、まだ一度も爬虫類の肉とか食ったこと無いんだよな......。」

 少しづつ立ち上がり、同時に右腕だけに集中し、ガラスを組み合わせ構築を始める。

「お前。俺をここまでにしたんなら、食われる覚悟があるんだよな?」

 獲物をまっすぐに見据える。

 そして右腕には、ガラスが集まり続ける。

 痛い。左なんて肌が血が噴き出る程度で済んでいるのが奇跡だ。


「覚悟しろよ」

 眼の前の獲物は、また羽ばたこうとするが、先程の一撃が聞いたのか、羽ばたくことすらできない


 できた

 右腕には、ロボットの片腕を模した巨腕が完成していた。

 子供の頃に考えた最強のロボットの右腕だ。

 いくら素の力が強化されようと、この大きさのガラスを保持する力は俺にはない。

 だから、今持つ意識の半分を構成するガラス一つ一つに向け、操ることで保持している。

 撃てるのは一回が限界。が、それで十分


 俺の覚悟と敵意が獲物に伝わったか、後ずさる

「喰らえっ」

 ガラスを総動員し、その余力と慣性で走る

「これお前を今から食らうものの力だっ」

 巨腕を、ガラスを、拳を。

 全身全霊を、全力でぶつける


「プリズム・フィスト!!1」


 拳は獲物にぶつかり弾け、獲物の肉体を半分消滅させた。

 無論、獲物は絶命。


 そして、俺の右腕もガラスが刺さりまくったおかげで左腕以上の損傷だ。

 獲物に近づき肉を狩る。

「っはぁ....」


 流石にくらくらしてきたな......

 そこで俺の意識は途絶した

 

 

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