第11話 意外と弱気な所もあるんです
ラミーナの部屋に戻ると、彼女は椅子に腰掛け、屋敷から持ってきていた本を読み込んでいた。これまでの彼女の魔術研究の過程を書き記している本らしい。
レジスの姿に気付いたラミーナが顔を上げる。
「あ、お帰りなさい。レジス」
「ああ」
レジスが机の上に袋を置く。
「この中に買った物全部入れてある。それと……」
反対の手に持っていた紙袋も机に置いた。
「食い物だ。朝から何も食べていないだろう? 適当に食べてくれ」
「おぉー! ありがとうございます! 気が利きますね」
ラミーナはすぐに紙袋を開けて、中身を覗き込んだ。その中からサンドイッチを一つつまみ上げる。
部屋の隅でダガーと拳銃を外しながらレジスがラミーナの方に振り返った。
「で、下準備の方はどうだ?」
「ふぇえ。おはへはまへ、よふにはほわひほうへふ(おかげさまで、夜には終わりそうです)」
「食いながら喋るな」
サンドイッチを口いっぱいに頬張っていたラミーナがゴクンと飲み込んで、軽く咳払いをして続ける。
「レジスが買ってきてくれた魔石で、用意しようとしていた物は全部揃えられますね」
「そうか。それと、こんな物も手に入れた」
「何ですか?」
レジスは懐から、さっき追いかけてきた王国兵士から奪った石のような魔道具を取り出した。
「これを奴らから奪った。俺達の魔力を感知する魔道具だ」
「えぇ!? 兵隊さんに見つかったんですか!?」
「ああ。だが倒したから問題ない」
「ちょ、ちょっと見せてください」
レジスから受け取り、その石を覗き込むラミーナ。そしてレジスの方に目を向ける。
「やっぱり私達の魔力が近付くと反応するようになっていますね。分かるのは距離だけで、方向までは分からないみたいですね。思った通りです」
「どのくらいの距離まで感知できる?」
「そうですね……恐らく100メートルほどじゃないですかね?」
「100メートルか……」
半径100メートルの範囲しか分からないのなら、人混みに紛れていれば何とかやり過ごせそうだ。さっき見つかったのはちょっと運が悪かっただけと思うことにしよう。
その石を見ながらラミーナが更に続ける。
「んー、やっぱりこれの用途は追跡というより警告用の魔道具ですね」
「警告用?」
「はい。この魔道具は魔力を探すというより、近付いてきた魔力に反応して使用者に警告するという用途が正しい使い方なんじゃないでしょうか? まあ、作った人間がこれ以上の精度の物を作れなかっただけ……という可能性もありますけど。方向まで感知するようにするには格段に難易度が上がりますし」
「なるほど……」
「でも、これで一つ合点のいく事が分かりました」
石から目を離し、ラミーナがレジスに笑顔を向ける。
「レジスはこの街に来て、すぐに兵隊さんに声を掛けられたって言ってたじゃないですか?」
「ああ。そうだ。それが?」
「恐らく、この魔道具を街の外壁に沿って、複数設置していたんじゃないでしょうか?」
「……それで奴らは俺が街の何処から入って来たか分かったってことか」
「そうですそうです」
「何の為に?」
「そこまでは私には分かりません。けど、私の魔力が街に入ってきては都合の悪い事でもあったんじゃないですか?
「その包囲網にお前と魔力因子が似ている俺が引っ掛かったということか」
「はい。そんな気がします」
「けどあいつらはメルトスピアの事も知っていたぞ?」
「ん〜……それは……何ででしょうね? まあでもそれは仕掛けた本人に会った時に聞けばいいんじゃないですか? 近々会う予定ですし」
「誰か分かっているのか?」
「誰か、までは分かりません。ですが、間違いなく
「つまり魔女狩りをする為には結界を破る必要がある。その結界はメルトスピアで破ることが出来る……そこまで分かっていたということだな」
「ほうへふ、ほうへふ(そうです、そうです)」
「だから食いながら喋るな」
サンドイッチを咀嚼していたラミーナがゴクンと飲み込むと動きを止める。
「どうした? 喉でも詰まらせたか?」
考え込んだラミーナが眉根を寄せる。そしてぶつぶつと呟きだした。
「そうなると……メルトスピアの定着条件を知っていた……? いや、逆? メルトスピアから私の魔力因子を知ったと考えるのが自然か……」
「どうした?」
「いえ、ちょっと気になったもので……」
ラミーナの側に来たレジスが机の紙袋からサンドイッチを取り出して頬張った。
「あれ?レジスも食べてなかったんですか?」
「ああ」
「言ってくれれば、先に選ばせてあげたのに」
「構わん。大丈夫だ」
机に置かれた魔石や魔道具を手で弄りながら、ラミーナがレジスの顔を覗き込む。
「私の方はまだ準備に時間がかかってしまいますが、レジスはこの後どうしますか?」
「そうだな……侯爵の屋敷への侵入は夜だろ? だったら一度侯爵の屋敷を昼間のうちに見ておこうと思う。もしその時にあの娘が出入りしていれば、そいつは侯爵の娘と見て間違いないだろう」
「そうですね。でもくれぐれも気を付けてください。町の外壁に感知する魔道具を設置した疑いがありますから、屋敷にも設置してあると思っていいと思います」
「ああ、分かっている」
レジスはそう言うと、さっき下ろしたばかりのダガーと拳銃を持ち上げる。ラミーナはそれを見ながら申し訳なさそうに呼びかける。
「それと……今のうちに伝えておきたいんですが……」
「ん? 何だ?」
「屋敷に侵入する時は私の昏睡魔法で忍び込めるはず……です。けど、向こうも対策を講じている場合があります」
「ふむ……そうなのか」
「はい。”見せる”魔法というは意外と簡単に防げたりするんです。まあ、他にも眠らせる魔法はあるんですが……」
「ふむ……で?」
「私はメルトスピアのような直接攻撃魔法は使えません。それだけは覚えておいてください」
「なるほど……じゃあ、もし相手を眠らせられなかったら、お前を護らないといけないわけだな」
「……はい。奥の手がないわけではないんですけど…………私を……護ってくれますか?」
ふぅと息を吐き出したレジスがラミーナを見つめる。ラミーナは椅子に座ったまま捨てられた小動物のような目でレジスを見上げる。
まったく……魔女という生き物は分からない。昨日は俺の為に何でもするなんて言っていたと思ったら、今は乙女のように弱々しい目をしている。
それが魔女と呼ばれる所以かもしれないが……。
「ああ。お前が居ないとエビラバエには行けないからな。とりあえずは……護る」
ラミーナが安心したような、残念そうな不思議な表情を浮かべる。そして頭を下げた。
「よろしくお願いします。私が必ずレジスをエビラバエに連れていきますから」
「分かった。よろしく頼む」
レジスは振り返ると、扉に向かって歩き出した。
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