第2話模擬戦決行 2
美味しい朝食を食べ終え、ユフィーラもテオルドが出る時間と併せて準備をしていたのだが。
「まあこの格好では駄目でしょうか。いつものローブも着てますし」
「もっとフードを深く」
「でもこれでは前が見えなくなりますし、見学そのものが見辛くなってしまいます」
「被っていても魔術で見えるようにする」
「ちょっと旦那様いい加減にしてくださいよ」
準備をして玄関前に降りてきたパミラがユフィーラ達のやり取りに苦笑しながら諌める。
「ユフィーラは旦那様しか見えていないんですから大丈夫ですよ」
「そういう驕りが窮地に立たされることもある」
「経験者だから凄い説得力あるよね」
珍しく髪の左側を複雑に編み込んでいるブラインがぼやく。
ある程度有能な魔術師になると、魔術で編み込みが出来て編み込んだ髪に魔力を貯めることができるらしい。要は装飾品のような役割をするということだ。
髪の長さは関係なく、転移の魔力量と同じで髪全体からの割合で魔力を貯める。
「テオ様、勘違いされているようですから言わせてもらいますが、私は皆さんの魔術師としての姿を見たいのであって、どこぞの男性をひっかけにいくわけではないのですよ」
「どこでそんな言葉を覚えた」
「もうどうしろっていうのよねー」
アビーが苦笑しながら肩を諌めている。
「要は主的にはユフィーラを魔術師団の男性陣、それと今日の模擬試合で見学にくるだろう輩の牽制といったところでしょうか」
ランドルンが新しいローブのフードの位置を治しながら言う。
今回模擬戦で魔術師団に赴くにあたって、テオルドは使用人全員に艶消しの黒にそれぞれの髪の色の刺繍を施したローブを贈った。
これはテオルド自らが、特殊魔術班専用のローブとして作ったものだ。
皆大層喜び、ジェスは蹲って咽び泣いていた。
「それもあるが、騎士団も来ると言っていた」
「何でそんなに広まっているんだかねぇ。たかだか元魔術師団同士の腕慣らしなのに」
ガダンが片側の口角を持ち上げながらにやっと笑う。右目尻の傷が助長され相変わらずの色気のある風貌だが、ちょっと強面な感じが新調したローブで僅かに治まっている。
「元精鋭揃いの皆さんですから。一目見たいと思う人は多いのではないでしょうか」
お見送り体勢のネミルが言い、先程到着し隣りに立っているイーゾも頷く。
「俺ですらここの七人の名前は聞いたことあるからな。手合わせしてみたいくらいだ」
「まあ。皆さん凄いのですねぇ。特殊魔術班一同に胸をひっくり返して自慢したいくらいです!」
「首元も止めて」
「主、それは流石に天気を願うぶら下がり人形のようになってしまいますが…」
「ははは!可愛いユフィーラがぶら下がるのはちょっとなぁ」
主命のジェスが止めるくらいなのだから、相当なのだろう。願掛けのぶら下がり人形状態になっているユフィーラを、ダンが笑いながらも止めてくれる。
「これでは、こんな奴がテオ様の妻なんてと言われてしまいかねません」
「問題ない」
「いやあるだろ、大いに」
「イーゾ、主様としては気が気じゃないんだよ」
「いや駄目だろ、これ」
「大丈夫大丈夫、見てな」
イーゾが訝しがるのをガダンは苦笑しながらも二人の方に目を向ける。
「わかりました、そこまでテオ様が仰るならばそうします。見目があまりよろしくない嫁なので、皆さんのお目汚しにならないように木の影から見守り見学することにしますね!」
「いや、そうではなく―――」
「テオ様、大丈夫です、無理しないでください。確かにテオ様は私を唯一と想ってくれていますが、それが見目でないことくらいはわかってます。だって、ここの皆さんは特級並みの魔術師だけでなく、見目も特級並み!中身も特級並み!毎日が目と心の保養!しかも主が国宝級のご尊顔のテオ様とくるなら、確かに私は願掛け天気人形レベルになるのです!」
「フィー。そういうことを言いたいん―――」
「みなまで言うな、ですよ。テオ様」
ユフィーラはテオルドの口元を人差し指で軽く押さえて慈愛の微笑みで返す。パミラ直伝である。
「テオ様の優しさは十分に理解してます。私は皆さんの魔術師としての姿が見られるならどこでもいいのでお任せしますね。それと一緒に居ることで何か言われてもあれなんで時間差で行きましょうか」
「いや、フィ――」
「いっそのことテオ様に強力な認識阻害をかけていただいた方が良いのかもしれません!お手数ですがお願いできますか?」
「…いや、そのままで良い。行こう」
「あら…かけなくていいのです?」
「ああ。勘違いされるくらいなら逆に自慢することに注力する」
「まあ、そんなこと天地がひっくり返ってもあるわけないでしょうに」
「わかったわかった。レノン達の所に行こう」
自分のことを全く理解していない最愛の妻をあやしながら、テオルドはユフィーラの手を取り玄関から出て行った。
「…ああなるのか」
「うん。ユフィーラは嫌味でも何でもなく素の状態で言っているし」
「そうそう。そのまま受け止めるからテオルド様的にはそうではないと言ったところで通用しなくなるのよね」
「嫉妬からだと説明したところで、そんなことあるわけがないとユフィーラは聞く耳を持ちませんからね」
「昔の名残で自己肯定感が低めだからねぇ」
「卑下しているわけじゃないんだけどね。自分が注目されると微塵も思っていないわけ」
イーゾが見たテオルドが退く姿は希少以外の何ものでもない。
それを難なく往なしているユフィーラこそある意味最強なのではないかと思うほどだ。
「じゃあ、俺らも行こうかねぇ。ネミル、留守番頼んだよ。昼食は保管魔術で出来立ての状態にしてあるから」
「ありがとうございます!イーゾが何より楽しみにしているんですよ」
「ネミル…!」
「嬉しいねぇ。お代わりも沢山あるから好きなだけ食べてくれ」
「ああ、感謝する。……もし残ったら持ち帰り…」
「はは!勿論。入れ物はネミルに準備してもらってくれ」
「っそうか!わかった。健闘を祈る」
「あはは。イーゾは本当にガダンさんのご飯が好きだなぁ」
他の皆もそれを見てほっこりしつつ、手を振りながら外へ出て行くのをネミル達は見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます