第5話 魔弾の射手の相棒と家族
午前二時四十二分、秀吉が赤城家に到着した。
自身が現場に出ることなど異例の事態で秀吉に緊張が走る。
自実家ではあるが大学に行ってからただの一度も帰っていないせいか、インターホンを押す指が重い。
「ふぅ~……よし!」
一度深呼吸して覚悟を決めるとインターホンを押した。
インターホンは家の中にだけ音が届くシステムなのか秀吉には聞こえない。
「はい」
数分待つとインターホンから声が聞こえる。
その声は自身の実母の声だった。
「僕だよ。母さん。秀吉」
「秀吉……今、開けるね」
そう言って秀吉は待つことになる。
一分ほどすると門が開かれ、そこには割烹着を着た女性が立っていた。
「秀吉……!」
「母さん……久しぶり」
そう言うと母は秀吉に抱き着く。
「偶には連絡くらいしなさい!」
「ごめんよ……でも時間がないんだ。義父さんと勝子はどこ?」
「どっちも自分の部屋にいるはずだけど、橙矢さんに用事があるの?」
「ああ、というか赤城家にとって重要な用事があるんだ」
「そう、じゃあ居間で待っていて」
そう言って母は秀吉を中へと招いた。
秀吉が玄関に入ると熏島が姿を現した。
深夜だというのにスーツと髪をしっかりと決めたとてつもなく違和感のある姿をしていた。
「あら、熏島さん。こんな時間にどうかなさいましたか?」
「そちらの方は?」
そう言って秀吉の方を指さす。
母は嬉々として秀吉のことを紹介する。
「私の息子、赤城秀吉です。橙矢さんや勝子さんとは血の繋がりはありませんが名実ともに赤城家の長男です……秀吉。こちらは熏島圭吾さん。今、橙矢さんの補佐と勝子さんの護衛をしているの」
母が互いの紹介をすると秀吉は熏島に握手を求める。
「父と妹がお世話になっています。秀吉です。よろしく」
「熏島です。よろしく」
快く手を取ると母に挨拶してから何処かへ行ってしまった。
「熏島さんってこの家に常駐してるの?」
「ええ、そうよ」
克己の予想は当たっていたな……やはり熏島は家族から信用を勝ち取っている。
この後すぐに待っている義父説得の壁になりそうだ。
秀吉が今に通されると母は父を呼びに行き、五分もしない内に襖が開いた。
そこには寝間着を着た初老の男が立っていた。
秀吉は一度立ち上がるとその男と向き合う。
「久しぶり、義父さん」
「ふん、非常識なことだ」
眉間にしわを寄せ、非常に不機嫌なことが窺い知れる。
「それで用とはなんだ」
義父の赤城橙矢は秀吉とは無駄な話をしない。
その気質は今の秀吉にとっては都合がいい。
自身が来たことによって、襲撃の時間が少し遅れている可能性もあるが説得して連れ出すのは早いに越したことはないからだ。
「単刀直入に言うけど、今この家にはスパイが入り込んで勝子とこの家で作っている『魔弾』を狙っている」
「ほう……」
橙矢は不敵に笑うと話を続けさせる。
「『魔弾』の方は既にその多くを外の組織に横流ししていて、勝子の方は今晩襲撃を掛けて奪うつもりなんだ!」
「それで?」
「僕と一緒に逃げてほしい。勝子と母さんも連れて」
「先に、スパイとは誰のことだ?」
「熏島圭吾」
橙矢は秀吉を真っ直ぐと見据える。
秀吉も目を逸らさず橙矢に向き合う。
二人の間に緊張と静寂が走る。
数秒見つめ合うと橙矢がため息をつく。
「はぁ……どうやら本当らしいな」
「じゃあ……!」
「だが、それがどうした?『魔弾』はまだある。我らが『魔弾』は防御不能の赤き魔弾!襲撃の一度や二度、詮無い話だ」
「……!」
「だが、その情報には価値があったぞ……秘蔵の『魔弾』でも取りに行くとしよう」
そう言って立ち上がって、廊下へ出て行こうとすると扉が開かれる。
「それには及びません」
そこには木箱を小脇に抱えたスーツ姿の男が居た。
「熏島!」
秀吉は自身の腕時計を確認する。
午前三時きっかり。
秀吉の来訪というイレギュラーは考慮するに値しないということか、あるいは関係者は殺しておいた方が楽というリスクヘッジか秀吉には見当がつかない。
「手が早いな……熏島よ」
そう言うや否や懐から銃を抜き出して熏島に向ける。
瞬間、右手でスライドを引かれ弾丸が排莢される。銃を持った右手をそのまま肘で持ち上げ、懐に入ると強い踏み込みと共に背中から当たると橙矢は軽く吹き飛んだ。
「な……」
「コルトM1911か……名銃も『魔弾』も撃てなきゃ意味ないんだぜ」
最初の礼節と厳格を重んじるような印象とは異なる軽薄な口調でそう言うと奪い取った銃を一瞬にして分解する。
「悪いな橙矢さん、こっちが本職なんだ」
橙矢に吐き捨てるようにそう言うと今度は秀吉の方に向き直った。
「惜しかったね……あと一時間いや、三十分早く行動出来てたら、常駐してる連中始末しきる前に橙矢さん説得して襲撃に備えられたかもだ」
熏島はポケットから折り畳みナイフを出すと秀吉の首筋に押し当てられる。
「く……」
「暴れないでくれよ?止血するの面倒だし、気絶させた人間を抱えるのって案外辛いからな」
熏島は無表情で顔を近づける。
「さて……君はどうやって、私がスパイであることを知ったのかな?」
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