Evil Bullet

夏蜜柑

第1話 魔弾の射手と女子高生の邂逅

 十一月は昼下がり、廃墟のように寂れたテナントビルの一室。


 きらきらと光を反射し埃が舞い、ラジオ代わりのテレビでは工場の爆発事故について流れている。


 そんな部屋に男が二人。


 一人はソファの上で毛布に包まった白いシャツと黒のパンツを着た顔色の悪い男、もう一人はデスクでパソコンを弄るストライプ柄のシャツにサスペンダーを付けたベージュのパンツを履いた眼鏡をかけた男。

 眼鏡の男、赤城秀吉あかぎしゅうきちが体調の悪そうな相棒に声をかける。


「克己、大丈夫かい?」


「大丈夫、ただの貧血だ……」


 そう答える男、青月克己あおつきかつみはそのように決して大丈夫そうでない真っ青な顔色である。

 昨日、血を抜き過ぎたせいで今日は貧血気味だ。


 鉄分とビタミンC、動物性たんぱく質の摂取と睡眠である程度は動けるだろうが、派手に動けば貧血による酸欠で足元をすくわれる可能性が高くなる荒事はしたくない。よって事務所は定休日である。


 しかし、そんな中で階段から足音が聞こえてきた。


 店に来る客は選べないもので特に職員の関係者ともなれば定休日も関係なしにやってくる。


 このテナントビルの所有者にはこの探偵事務所以外のテナントを入れないようにしている。


 よってこのテナントビルに来る人間はイコールこの事務所を目的にやってくる。さらに言えば看板も出していないというかオンラインでの依頼を受けていないため、テナントの所有者及び、その肉親、さもなくば……敵襲。


「シューキチ隠れてろ」


 肌身離さず持っている愛銃ベレッタM9手を掛ける。

 足音は一つ、足音を殺す術はいくらでもあるだろうあるだろう。通常の弾倉から黒い弾丸が詰まった弾倉に入れ替える。

 安全装置を外し、薬室に弾を込める。


 克己が扉の隣に足音なく辿り着くと足音が扉の前にたどり着くとノックされた。


「兄さん!居るんでしょ!」


「女?」


「勝子だ……!」


 赤城勝子は秀吉の義理の妹。


 秀吉これだけ動揺してるってことはまず本物だろうと結論付ける。


 しかし、赤城家は暴力団系のやばい家柄だがこの事務所がその情報網や一般の探偵、興信所に見つけられるとは考えられない。裏の連中にしても同じ。


 シューキチの野郎、妹にこの住所教えてやがったな……?


 克己が秀吉に視線を向けると秀吉はパソコンで何かの処理を速攻終わらせて机の下に隠れてしまった。


「入るよ!」


 そう言って徐に扉が開かれる。


 入ってくるとまず、少女は銃を持った克己の姿が目に入った。


「キャー!」


 悲鳴が上がった瞬間に飛び出て後ろの確認すると、そこには赤褐色のロングヘアにお嬢様私立高校の制服を着た少女が尻もちをついている姿しかなかった。


 安全装置を下ろし、薬室から弾を抜いて弾丸を撃てないようにする。


「敵影なし……歓迎はしないがシューキチに用があるんだろう?入るといい」


「じゅ、銃!?」


「あーこれ?珍しくもないだろう。それとも見たことないのか?溺愛されてるな」


 手を差し伸べるが勝子は手を取らない。


「入るなら入ってくれ、出入りされるのも迷惑だが、それ以上に事務所の前に居られると迷惑なんだよお嬢さん?」

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