ドラゴンから光るコアが!

 見る間にその巨体が溶けるように消滅し、代わりに光る球体が出現した。

 水晶のような塊が、宙に浮かんだまま静止している。


「あ、あれもしかして、ダンジョンコア?」


 ダンジョンコア。冒険者なら誰もが知る“ダンジョンの心臓”。

 基本的にはダンジョンの最深部に据え付けられていて、そこに到達した冒険者あるいはパーティがこのコアを通してギルドに名前を登録できる。


 それがダンジョンの攻略証明になり、報酬がもらえたり、名誉を得られたりするって仕組みだ。

 完全にギルドの管理下に置かれたシステムのひとつ。


 だから、そもそもモンスターからコアが出てくるなんて聞いたことがない。


「...いや、こんなところにあるわけ...」

 思わず近づき、手を伸ばしてみる。

 指先が触れた瞬間、コアが淡く発光して、何かが直接語りかけてくるような感覚があった。


『――あなたをマスターとして承認します』

 やわらかい声が響いた気がした。


「え……?」


「...?」

 ユズハは今起こったことを認識できなかったらしい。


「名前、登録しないんですか?ほら、ギルドに載れば、超有名になれますよ!」


「……だからそんな気分じゃないんだ。名前登録とか、有名になるとか……勘弁して」

 ダンジョンコアといえば、討伐したパーティがギルドに報告して名前を登録するだけ。

 それ以外の機能はないはずだ。


「せっかく見つけたコアなのに〜。」

 そこまで言って、さっきから取り合わない俺の雰囲気を、さすがに感じ取ったのかもしれない。


「……と思ったんですけど。まぁ、そういうときもありますよね!あの、いったんわたし、外に戻ります!みんな...あ、視聴者さんにも報告したいし!」

 とてきぱきと帰り支度を始めた。


「でも本当に、助けてくれてありがとうございました!あの一撃、マジですごいカッコよかったです!」

 そう言いながら、ユズハは にぱっと表情をほころばせる。


「よければ、あとでお話聞かせてください!お礼もしたいし...ぜんぜん、落ち着いてからでいいんで!あ……もちろん無理はしなくて大丈夫ですよ?」

 おどけたように言いながらも、最後はぺこりと頭を下げて、笑顔をこちらに向ける。


「それじゃ、お先です!」と言って小走りで去っていった。

 ……何なんだろうな。あのテンションの高さと行動力は。


 ユズハの足音が遠ざかるのを背中で感じながら、俺はようやく大きく息をついた。

 そして目の前に残ったのは、謎のコア――。


『――マスターとして承認します』


 あの声は、たしかにコアから聞こえてきた。

 何の冗談だと思いつつ、魔導端末を取り出してマナネットで軽く検索してみる。

 “ダンジョンからダンジョンマスターに任命された”なんて記事は……当然、出てこない。


「ダンジョンコア……じゃ、ないのか……?」


独り言のように呟いて、コアにそっと手をかざしてみる。


意識を集中させた途端、コアがぼんやりと光を放ち、半透明の文字や数値が宙に浮かび上がった。


魔力量:1000

エリア数:5(深度1)

モンスター数:10体(スライムのみ)


「なんだ、これ……」

どうやらここ――このダンジョンの簡単な情報らしい。

表示はごくシンプルで、数値が淡々と浮かんでいるだけだった。


「マスターってつまり、ダンジョンマスターってこと……?」

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