第十四話


「いわゆる『機器部』の部長に就任致しました、海原うなはらすばるです。入学したての若造ですが、『委員会』の議長も含め、拝命した以上何事にも真剣に取り組みます」


 ゲッ……。


「さて僕たちの活動方針は、この手元のカードに記されています。個人的な想いや願いが込められたものなので、みなさんに直接お見せすることはできませんが、とても好きな言葉です」


 ウソだろ……。


「カードには、『カワリタイ』と記されています。そうです、僕たちの部活はいま現在、若干中途半端な存在です。だから、部員たちとともに僕も『カワリタイ』と願っています」


 もう、そろそろ、とめませんか……。

 

「願うだけでは足りません。だからこれから、僕たちは小さなことをひとつひとつ積み重ねがら、前に進んで行きます。つきましては、この言葉を今年の活動方針として……」


「なにこれ〜。選挙の応援演説じゃないんだからー」

美也みやちゃん? これリアルで、隣で見てたんだよねー」

「うんうん。なかなかよかったよ」

「いやー、顧問としてもなかなか堂々としていてよかったと思うわー」

「名演説、でした」


 ……。

 僕はここが『機器部』なのを、完全に忘れていた。

 まさか三藤みふじ先輩がこんなものを、録画していたなんて……。

 いまはこの世の地獄、いや、いまは部室で。

 一台のビデオカメラのモニターを、豪華女性陣が取り囲んでいる。


「き、機械の調整によいかと、会議を録画してみだだけよ。な、なんなら、もう一度見てもいいわ。陽子ようこ、キャビネットからテレビ出すの手伝ってもらえるかしら?」

 少し耳を赤くしながら、三藤先輩がコメントする。


「い、いやさすがにそこまではいいかなー。ね、由衣ゆいちゃん」

「あたしもー。そこまでファンじゃないんでいらないですー」

「では、わたしが持っておくわ」

「え、ちょっと三藤先輩。私物化するんならわたしが保管しますんで……」

高嶺たかねさん、あなたさっきいらないといったでしょう?」

「いえ、テレビでみんなで見なくてもいい、っていっただけです!」

「まぁまぁ、とりあえずパソコンに保存しとくから、また観たいときに観ようね」

「え、じゃぁ陽子。データわたしのスマホに送ってくれる?」

 あぁ、春香はるか先輩だけじゃなくて、都木とき先輩まで……。

 恥ずかしい、頼むからもう、ヤメテクレ……。


 結局きょうは、部活が休みどころか。

 藤峰ふじみね先生まで加わって現在僕は、みんなの晒し者にされている。


「でも、初回は無事に過ごせてほんとによかったよー」

「美也ちゃん、お疲れさま」

「都木先輩の現場での貢献には大変感謝しています。あと高嶺さんと陽子もありがとう」

「そうそう、君たちの美しい関係性に、わたしも顧問として安心しているわー」


 ……やっぱり、僕ってこの部活にいなくても問題ないんじゃ?

 いっそあのまま帰ったほうがよかったんじゃないかと思うほど。

 僕は、自分の存在が薄くなっている気がする。



 こうしてひとしきり、僕以外が盛り上がってから。

 学校から最寄り駅までのスクールバスではいつものように、最後列に四人が並んで座っている。

 最近のバスでは、窓側から都木先輩、高嶺、春香先輩、反対側の窓側に三藤先輩の順で、三藤先輩の前の列が僕の居場所となる。

 この座席順に落ち着くまでにも一悶着あったが、それはまた別の機会に置いておこう。

 ただきょうは、なぜか三藤先輩が春香先輩に窓側を譲る。

 高嶺が一瞬驚いた表情を見せ、さり気なく都木先輩の側に数センチ移動する。

 もちろん、三藤先輩はそんなことでは動じないし。

 春香先輩は、いつものように三藤先輩の意図を計りかねながらも。少し苦笑いしただけで受け流す。



 バスの中では。

 先ほどの藤峰先生の提案について、各自が想いを巡らせている。

「ねぇねぇ、君たちの『カワリタイ』のために提案があるんだけどね。みんな、土曜日の午後はあいている? よかったら部活動してみない?」

 土曜日は基本的に、午前中で授業が終わる。

 となると午後は、部活やら塾やら買いものやらデートやら、そのほか色々。

 おそらく一般的な高校生は、それなりに予定があるのだろう。

 そういう意味で、我らが機器部は。

 土曜日の活動予定を決めていなかった。


「春香先輩、いつも土曜日は部活してたんですか?」

 質問したのは、高嶺だ。

「うーん、そこまでやることなかったから、やってなかったねぇ。美也ちゃんはどうだったの?」

「わたしひとりなのに、土曜の午後まで学校いないよ〜」

「部活ではおひとりでも、プライベートはおふたりだったのでは?」

「つ、月子ちゃん……。もしかしてまだ根に持ってる?」

「いいえ」

「で、結局デートとかしてたんですか?」

「あのね由衣。そのころはまだ……っていうか、そんなのしてないから!」

「本当ですかぁ〜、ねぇどう思う海原?」

 頼む、無理やり僕を会話にひきずりこむのはやめてくれ!

 僕は高嶺を不満そうに見るが、アイツは逆にうれしそうにニヤニヤしている。

 まったく、なんなんだか……。



「ちょっと!」

 バスが信号待ちで停止し、僕が窓の外を何気なく眺めていたそのとき。

 隣席に、甘い気配を感じたと同時に。高嶺の鋭い声がする。

「ところで、海原くんは土曜日なにか予定はあるの?」

 なんじゃこりゃ!

 なんと、三藤先輩が僕の真横に座って、ほほえみながら声をかけている。

 そして先輩の肩越しに見えたのは……。般若の面を被ったような、高嶺の顔だ。


「いきなり移動して、なにいってるんですか!」

 高嶺が続けざまに吠えるが、三藤先輩は涼しい顔だ。

 高嶺から恐る恐る視線をずらすと、やってくれたといわんばかりに苦笑いを浮かべた、春香先輩の顔が見えた。

「きょうの月子ちゃん、やけに積極的よね?」

 都木先輩、いまその冷静な分析とか不要なんで。

 もめないように、隣の高嶺の首をつかんでおいてくださいよ!


 次の信号待ちになった。三藤先輩がイタズラっぽくほほえみながら、口にする。

「まったく。わたし乗りものに弱いから、やっぱり窓際がいいわ。陽子、ごめんなさい」

 そいういうと、引き続き噛みつきそうな顔をしている高嶺をさらりと交わし。

 三藤先輩は、いつもの指定席に戻って行く。

 春香先輩が、まるで勇気ある猛獣使いのように、高嶺の両肩に両手をのせてなだめている。

「月子がそんないたずらができるくらいになったのかー。いやぁ、由衣ちゃんも大目に見てあげてよー」

「海原の、バーカ!」

 な、なぜ、僕なんだ……。

 ちょっと同情しながら苦笑するのが春香先輩で。

 都木先輩はというと、真顔で……。

「今度、わたしもやってみようかしら……」

 お願いです、やめてください!


 結果、駅に着く頃には。

 土曜日の放課後も特に予定のない僕たちは、先生の提案に乗ってみることになった。

「わたしたち、暇なんだねぇ……」

「都木先輩、デートがなくなったのを後悔しているだけでは?」

「まだ絡むんですか? いちいち嫌味ですよねー、三藤先輩は」

「まぁまぁ、せっかくだから土曜日も部活しようってだけだから、ね?」

「そうですよ。頼むから、仲良くやりましょう。……って、また僕のセリフは、お願いモードですか?」


 あぁ、どうして僕は部長なのに。

 いつもお願いばかりしているのだろう?

 あぁ。一致団結って、どうやったら手に入れられるんですか?



 そう思うと、僕は土曜日がやってくるのが……。

 なんだか、少しだけ不安になってきた。



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