伝統的な雰囲気を活気づけ、安全に統一する為の法案

 遠い未来、地球のある国でひとつの法案が提出された。

 それは「伝統的な雰囲気を活気づけ、安全に統一する為の法案(Keeping Our Traditional Atmosphere Thriving and Securely Unified)」と名付けられたが、長いのでこたつ(Kotatsu)法と呼ばれるようになった。


 こたつ法は急速に失われていく国の伝統を保護し、それによって愛国心を育み国の統治をより安定させるための法案であった。国としては統治の強化が早急な課題だったので、この法案はすぐ審議に加わった。

 しかしこの法案は粗が多く、具体的にどんな伝統を保護すべきなのかが明記されていなかった。そこで委員会を作ってどのような伝統を取り上げるか話し合った。しかし失われた伝統が多すぎて議論は平行線となり、最終的に呼び名にされていた「炬燵」を復活させて反応を見ることで決着した。


  ●


 政府はまず失われた炬燵という伝統的な暖房器具を復活させることから始めた。過去の歴史資料をリサーチし、炬燵が持っていたあらゆる特徴を調べ上げて徹底的に再現した。紆余曲折を経て、政府は遂に完璧な炬燵を復活させることに成功する。まずは公共住宅に少しずつ配置していって炬燵という伝統の復活を謳った。しばらくして、SNSを中心に炬燵の復活が広まると国民の中に炬燵を求める声が上がりだした。国の伝統を復活させようという民間運動も出始めた事で、政府も効果が見込めると判断してこたつ法は正式に可決された。

 政府は国営企業に炬燵の製造を命じて国民に販売した。更に既存の暖房器具を回収することで自治体に補助金を出すなど、炬燵の普及に努め、国営企業も完璧な炬燵を製造するために専用の工場を建てるなどして国を挙げて炬燵を普及させた。


 法案が可決されて数年後には炬燵を持たない家は無いに等しかった。今や全国民が炬燵の恩恵を受けている。それに伴って国粋主義の機運が高まっていた。奇しくも重大な国難が訪れており、国は高まった愛国心で団結したことでこれを乗り切る事に成功した。


  ●


 国難を乗り切った政府はこたつ法が国の為になると判断して法案の強化を検討し始める。ところが、この時期から国民に異変が出始める。外出する国民の数が減りだしたのだ。調査の結果、国民の大多数は炬燵に入り込んで日々を生活していて出てこなくなったという結果が出た。

 報告を受けた政府は冬の厳しい季節だけだろうと楽観視して対策を取ることは無かった。しかし法案強化のために委員会を立ち上げると、委員の半分が炬燵から出たくないという理由で欠席してしまった。

 ここに来て政府は過ちに気づいた。完璧な炬燵は人間を魅了し、堕落させてしまう悪魔の領域を作り出してしまうということを。炬燵は人類を誘惑する大悪魔であったことを。


 政府は急いで炬燵規制法案を提出しようとした。しかし時すでに遅く、国民の殆どは炬燵から出れなくなっており、法案を通すための審議も議員が炬燵から出てこない事で不可能となった。やがて炬燵の魔力に屈した大臣たちも国会に現れなくなり、政府は一転して消滅の危機に瀕した。

 総理は国を守る為に炬燵の魔力に抵抗していたが、周りが炬燵に支配されてしまったことで全てを諦めた。そして最後の政策を発表する。


「全国民は炬燵と共に在るべし。炬燵の幸福をなによりの恵みとせよ。炬燵に全てを委ねよ」


 その政策を最後に国は統治機構を失った。


  ●


 それから数えきれない程の時間が経った。

 地球は死の星となって生物は存在しなくなった。そんな地球に別銀河からやって来た異星の調査団が降り立った。彼らはかつてこの地に住んでいた現住種族の遺跡を見つけて調査を始める。


「ここの生物は皆小さな机のような物の下で死んでいる。奇妙だな」

「ああ。もしかするとこれがこの生物たちの家なのかもしれない。きっとこの大きな遺跡は村か何かで、住民たちはこの小さな家で暮らしていたんだろう」


 異星人たちは全く見当はずれな仮説を並べて議論し始める。すると別の場所を調査していたグループから通信が入った。


『おい、大発見だ! この現住種族たちの家を製造していた工場を見つけたぞ。どうやらこの家は「こたつ」と言うらしい』


 通信先では世紀の大発見かのように歓声が上がっている。その後異星人たちは工場を調べ、復活させることに成功し考証の為に炬燵を製造した。


「何だこれは……」

「今までに感じた事のない抱擁感だ」

「こんな幸せな気分を感じられるなんて……きっとここはユートピアだったんだ」


 異星人たちはたちまち炬燵の魔力に魅了されてしまう。その時通信が入った。


『今ここの中枢と思われる遺跡から資料が出てきた。どうやらここでの法律について書いてあるらしい……古代語翻訳によれば「伝統的な雰囲気を活気づけ、安全に統一する為の法案」。注釈に「こたつ法」と書いてあるから恐らく炬燵に関する法律のようだ。どうやらこたつを普及させることで愛国心を高め、国を強くできるらしい。炬燵は国家をも救える素晴らしい発明のようだ!』


 新たな報告に調査団は喜んだ。炬燵という大発見で自分たちは歴史に名を残すことができると確信していた。調査団は速やかに炬燵を母星に広めるべきだと判断し、製造ノウハウを習得した後に引き上げていった。


 それ以降、その星の歴史は銀河に残されていない。

「こたつ」は今も銀河のどこかで新たな犠牲者を待ち続けている……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る