Now On Air!!! 〜田舎高校の放送部がお送りします〜

@ashn_my

第1話 Cue

「うわぁ、背高いねぇ...頭ぶつけないようにねー。」

「こんにちは。靴はここにしまってね。まずはこっちの部屋からどうぞ。」


ーーガチャ





4月の頭、ここ北海道にはまだ雪の跡が残っている中、俺は近所の明園あけその高校へ進学した。なぜこの高校にしたのか、理由は簡単。近くて程よい学力だったからだ。中学2年生までは学力優秀で北海道内屈指の進学校へ進学できると言われるレベルだったが、勉強に価値を見いだせず近くにあったこの高校を選んだ。


入学式から1週間が経った。

高畑たかはたくんはどの部活入ろうとか、考えてる?」


篠田心露しのだこころに声を掛けられた。心露は隣の席ということもあって、入学初日から声を掛けられた。自分から進んで話しかけに行けない俺にとっては少し嬉しいことだった。ふむ、部活...考えてなかったな。中学の時は部活が面倒で入っていたバスケ部も2年生でやめたし、飽き性で継続出来ない俺にとっては、最初は楽しくても時が経てば自分を苦しめる足枷になってしまうのだろう。


「いや、特に入りたいのとかないかな。」

「じゃあ心露と一緒に部活動見学行こうよ!」


話を聞いていたとは思えないような返答が来て、驚きを超え関心した。俺がなんと答えようと、絶対部活動見学に誘う気だっただろ。「じゃあ」という言葉の使い方から学び直した方がいい。


「まあ、今日は別に用事ないしいいけど...」

「やったぁ!!部活動見学は今日を合わせてあと3日、うちの学校は全部で36個の部活があるから、1日12個見よう!...あ、でも明日は放課後の時間が今日より長いから、今日は10個にしよう!」


いやいやいやいや、伝わらなかった?この嫌々1日だけならいいですよって感じが。なんで3日間も一緒に回ることになってるんだ?この人はゲームのNPCかなんかなのだろうか?話が通じてる気がしない。

断りたい...しかし俺には彼女の誘いを断れない理由がある。


「ねえ、聞いてる?もしかして、心露と一緒に回るの嫌?」


涙目で俺の心に直接訴えかけてくる。そう、篠田心露という人間は、泣き虫だ。しかも重度の。俺は泣きそうになる瞬間を何度も見てきた。まだ出会って1週間なのに。

俺はすかさず教室をキョロキョロと確認した。すると教室の隅に固まっている女子3人組が俺のことを睨んでいるのに気がついた。まさに鬼のような顔つきで。

こんなの理不尽ではないか。まだも言っていない状況で、心露が勝手に妄想を膨らませて悲しくなってるだけだ。それなのに俺が悪いような雰囲気になっているではないか。


「別にそんなこと一言も言ってないじゃん。今日はどこ見たいとかもう決まってる?」

「えへへ、今日はね、外部活を見ようと思います!陸上部にテニス部、女子だけどサッカー部もいいなぁ。」


こうやって彼女の機嫌を取ってあげるのだ。鬼の形相で俺を見てきた女子3人組も角が外れたのか、何も無かったかのようにニコニコ彼女らの会話に戻っていた。


そんなことがあり、今日はグラウンドに出て外で活動している部活を見た。しかし、そんなに唆るものはない。



次の日。今日も心露と部活動見学に行く。


はずだったのが...


「ごめぇぇぇん。部活動見学一緒に全部回るって約束してたけど、陸上部に入るの決めちゃって、今日顧問の先生と面談しなきゃなんだ。楽しみにしてたと思うけど、ほんとにごめんね。」


彼女を一言で表すなら自由人である。このように。しかし意外である。彼女のような人なら「全部入りたくて困っちゃうー。」と、ギリギリまで悩んで結局2、3個兼部するものだと思っていた。まあ俺はそもそも見たい訳じゃなかったから無問題モーマンタイだ。


放課後、学校を出ようとした時、右ポケットが妙に軽いことに気がついた。俺としたことが、鍵を家に忘れてしまった。親が帰ってくるまで残り2時間。ここは田舎なので、寄り道してカラオケに行こうとか、ゲーセンで遊ぼうなどが出来ない。家以外に娯楽がないのだ。


しょうがないので、1人で部活動見学をすることにした。1人でブランコするよりかはだ。

さて、どこから回ろうか。


「あ、あの!良かったら放送部、見ていきませんか?」


ガラスのように透き通った、繊細な声だった。しかしその繊細さの中にはしっかりとした芯がある。そんな声が俺を呼び止めた。


「は、はい...!」


思わず脊髄反射ではいと言ってしまった。まあ時間は潰せるだろう。そう思い、この美声の女性に着いて行った。今思えば、これは恋に近い何かだったのかもしれない。


職員室の真隣。ここが放送室か。扉には少し年季が入っている。

扉を開けると、狭い空間に2人の女性が出迎えてくれた。


「うわぁ、背高いねぇ...あ、頭ぶつけないようにねー。」

「こんにちは。靴はここにしまってね。まずはこっちの部屋からどうぞ。」


見るからに優しそうな2人だ。1人は少し緊張しているのだろうか、声が少し震えている。

もう1人はずっと笑顔でこちらを見ている。

案内された部屋へ入ろうとさっきの扉よりもさらに年季の入った扉のドアノブを握り、そっと捻った。


ーーガチャ


開けた途端、俺は唖然した。


「あめんぼ赤いなあいうえおー」

「きゃあぁぁぁぁぁぁ」

「昨日のあの、新曲聴きました?もう、凄く良くて!」

「いや、だから何度言ったらわかるんだ、このパソコンはグラボがカスで!」


あまりにも大きすぎる騒音が鼓膜に届いた。良く言えば自由なのかもしれないが、俺には無法地帯としか見れない。


誰が入るんだこんな部活。

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