現代の悪徳マダムが異世界の貧民街で聖女と呼ばれるまで。

@yamatosumi

第1話 貧民街

「何しに来たんだ、さっさと帰りな。お前達には二度と来るのじゃないと伝えていたはずだよ。」

「母さん、わざわざこうして家族皆で会いに来たのに何てこと言うんだ。」

「フン、私は会いに来てくれなんて頼んじゃいないよ。」

「母さん孫や曾孫が可愛くないのか。」

「お母様お願いです、この子、ゆかりを一度だけでもいいので抱いてくれませんか?」

「嫌だね、どうせ曾孫を抱かせれば、ホイホイおだてに乗ると思っているのだろうけど、そうは問屋が卸さないよ。何時まで居ても変わらないよ、さっさと帰りな。」

「分かった、母さんの気持ちは、よく分かったよ。もう二度と来ない。帰るよ。今迄ありがとう。」

「分ったのなら、さっさと帰りな、二度と来るんじゃないよ。」

「それと母さん、余計な世話かも知れないが、裏で遣っている金貸し業はやめた方がいいよ、恨みを買うからね。」

「余計なお世話だ、お前は何様のつもりだ。さあ、さっさと帰りな。二度と来なくていいからね。」


 そして、この夜このマダムは御餅を喉に詰まらせ呆気なく死んだ。


「ここは何処? そしてお前さんは誰だい。」

「ここは異空間じゃ。儂か儂はお前さん達の言う神じゃ」

「それじゃあ、私は死んだのですね?」

「ああ、今お前さんは死んだのだよ。餅を喉に詰まらせて。」

「そうか、私は死んだのですね。」

「自分が死んだと聞いても、そんなに驚かないのじゃな。これからお前さんの葬式を見せてやろう。しっかり見て置くのじゃ、人の気持ちと言うものを。」

「私が死んで、悲しむ者など居る者か。寧ろ喜ぶだけだろう。」

「お前さんのような性悪者に育てられても、お前さんのために泣いてくれる。こんな心の優しい子供が育つんじゃな。」

「フン、どうせ心の底では私が死んで、財産が全て自分の物になると喜んでいるだろうよ。」

「やはりお前さんは救いようがない性悪者じゃ。仕方がない、お前さんには第二の人生を歩んで貰うとしよう。」

「第二の人生? 私はこのままあの世とやらに行けないのですか?」

「今のままのお前さんが行ける死後の世界は無い。もう少し改心せねば。それでもう一度試練を科す事にした。」

「試練とは、どう生きていくのでしょう?」

「今からお前さんが第二の人生を歩むのは、今迄の世界とは違うが、貧民街の孤児となり生きて貰う、治療魔法を使える様にしておいた。但し性根を根底から直さねば、子どもであっても、今のお前さんの老婆の顔のまま生きる事になる。」

「人間の性根や根底が易々っと変わる訳がないでしょう。」

「それと、最後に伝えておこう、お前さんの息子達家族は、お前さんが生前泣かせた者達へのせめてもの償いにと、お前さんの財産は全て寄付することに決めたそうじゃ。」

「私が必死に貯めて来た財産を、何て勿体ないことをするのだろうねぇ。」

「では時間じゃ。次に死んだ時は天国に行けるよう、この世界で修行するのじゃ。」


         ♠ ♠ ♠


 此処は何処だろう、確か貧民街の孤児になり生きて行くと言われたような?

 では此処が貧民街なのだろうか?

 此処は私の家なのかな? 家族か誰かと生活しているのだろうか? 

 屋根や壁には穴が開き空も所々見えている。酷い所だ。

 私は今何歳だろう。目線が低い両手や、両脚を見ても恐らく四、五歳位だろうか?

 それにこの瘦細った身体に着ている服もボロボロだ。それと服が小さいのか、袖とズボンの裾が短めだ。この身体はこれまでどうやって生きて来たのだろう。この身体の記憶を探るが分からない。


この家を出て少し歩いてみよう、誰かに会うかもしれない。

外に出て見ようと、立ち上がったところ、外から何やら子供たちの騒ぐ声が聞こえてきた

「ノア早く、早くアマルちゃんが真っ青な顔して倒れたの、早く」と聞こえた。

 壁の穴から外を覗くと、女の子が二人に男の子が一人、此方に向かって、急いで走って来ているのが見えた。三人共私と同じ様な格好をしている。

 程なくして先頭を走っていた女の子が此の家の入口から入って来た。そして私を見ると驚いたように私を見つめ、

「誰か知らない人が居る。お婆さんどうしたの? なぜ此処に居るの?」と声を掛けて来た。

 お婆さん誰の事だ、私の事かな? いや、まさか、違うだろうこの小ささだよ。


 だがその後から入って来た、女の子と男の子も不思議な顔をしながら私の顔を覗き込んできた。そして二番目に入って来た女の子が私を見つめ、

「この服はアマルちゃんの服だよ、でも、少し背が伸びたように見えるね、だって洋服が小さくなっているし、だけど、此の足の傷はさっき真っ青な顔で倒れた時に付けた傷だよ。アマルちゃんだよね? 今迄の可愛い顔と違って、お婆ちゃんの顔になっているけどどうしたの。」

 何故か、彼等は私の変化に驚きと、戸惑いを隠せないでいるようだ。

「私達が、ノアを呼びに行って居ない間に、誰かが入って来て、アマルちゃんに妖術とか魔法を掛けたのかもしれない。」と最初に入って来た.女の子が言った。

「そうかも知れない。アマルちゃんはまだ五歳なのにこんなお婆ちゃんのお顔になって、可哀想だよ。」


「アマルちゃん、私達の事は覚えている?」最初にこの家に入って来た少女に聞かれた。

「ごめんなさい。全然覚えていないの。」

「そうか倒れた時に、頭をぶつけたのかも知れない、じゃぁ何か思い出すかもしれないから、まず私はリリアよ、この中では一番年上の九歳。次は二番目にこの家に入って来たアン六歳、それと最後がノア八歳だよ。」

「そして、貴方はアマルフィ五歳、でも長いからみんなアマルと呼んでいるは。そしてアマル貴方は、私達と暮らしているの。」

「私は、アマルフィ、と言う名前なんですね。」

「そうよ、何か思い出せそう?」

「ごめんなさい。何も思い出せそうにない。」

「無理に思い出さなくても大丈夫よ。」


「それと此処は、私達のお家。此処に四人で暮らして居るの。」とアンが教えてくれた。

「お父さんとお母さんはどうしたの?」

「そんな人、はじめから居ないわ。私達はみんな貧民街の孤児なのよ。」とリリアが教えてくれた。


「所でみんな、私の顔に妖術や魔法を掛けた人が居るって言っていたけど、この世界に妖術や魔法を使う人が居るの?」

「居るらしいが、使える人は身分の高い貴族達だと聞いた事がある、ただ俺は見たことが無い。」と、ノアが教えてくれた。

「「私達も見たことが無い。」」とリリアとアンが教えてくれた。

 ノアのお腹辺に光が見えそれが点いたり、消えたりしていた。不思議な光景だ。私は思い切ってノアに聞いて見ることにした。


「所でノア、時々お腹がいたくなる?」

「アマルどうして分かったんだ? 誰にも言って無いんだぞ。」

「本当に、ノア時々お腹が痛くなっていたの。ちっとも気づかなかった。ゴメンね。」  とリリアが謝り。

「お腹が痛いときは言って。みんなとゴミ集めなどしなくていいから、寝ていても構わないから。」とアンが心配そうに言った。


 前世の病院の先生はどうやって診察してくれていた?多分服の上から、腹部を推して触診してくれていたような?

 やって見よう。わかるかなぁ?

「ノア、お腹を見せて貰っていい?」と私が言うと、

「分かった。」と着ていたシャツを上げようとした。

「そのままでいいよ。少しさわっていい?」

「ああ、構わない。どうするんだ?」

 そして、ノアのお腹に手を当てると、私の身体が熱を帯びたように熱くなり、もしかしたらこれが魔法なのかなぁ…!? と思い気の流れを感じ、その熱を掌に集めるようにイメージする。前の世界で言う気の流れを読むヨガみたいな感じかな?

 掌が少し光を帯びた様になり、その手でノアのお腹をさすってみた。するとノアのお腹で、点いたり消えたりしていた光が消えた。


「どう、ノアおなかの調子は、まだ痛い。」

「いや、全然痛くない。それ所か身体が軽くなった気がする。どうやったんだ。アマルは魔法使えたのか?」

「分からない。ノアのお腹に光が点いたり消えたりしていたから、試しに聞いて見たの。それと、お腹に手を当てたら、身体が熱くなって、それを掌に集めてお腹を擦ったら光が消えたから、治ったのかなと思って聞いて見たの。」

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