短編まとめ

朱桜由樹

ラピスラズリ_永遠の誓い_

 魔力が一か所に集まり、固まると魔力結晶というものが形成される。魔力結晶をもとに魔物の巣くう森や洞窟ができるのだが、人々はそれを総じて「迷宮」と呼ぶ。迷宮にはそれぞれ魔力結晶を守る守護者がいる。守護者が討伐され存在しない迷宮は比較的安全なのだが、まだ討伐されていない、未攻略の迷宮は死と隣合わせの場所であった。

(失敗した……)

 未攻略の迷宮の一つであるとある洞窟でアメリアは自身の油断を後悔していた。未攻略の魔力結晶のある迷宮にはどんな罠があるのか予想もできない。今まで発見されていない罠があることも多々あるのだ。

 転移の魔法陣。

 この迷宮には至る場所にそんな罠が仕掛けられていた。自身が掛かってようやく、厄介な罠と認識を改めた。

 アメリアのギルドで受諾した依頼は迷宮の攻略ではなく、前に入って行ったクランの捜索だ。アメリアは旅人であり魔道士であり、冒険者である。魔道士とは魔術を使用する時などに使う魔法陣などの研究者のようなものであり、アメリアは旅をしながら研究を世界中のあちこちでしてきたのだった。旅好きなアメリアには一石二鳥の職業なのだ。そして、アメリアは旅のついでのように冒険者としても活動している。

 冒険者とは何か。

 この世界は先程も述べた通り、魔物の巣くう迷宮が存在する。そこから魔物が人の住む町や村に出てくると、討伐しなくてはいけなくなる。そんな魔物を倒したり、迷宮の無力化のため迷宮の攻略をするのか冒険者である。ちょっとしたお手伝いとか雑用をこなすこともあるから、何でも屋と言った方が分かりやすいかもしれない。

 依頼をギルドで受けるのだか一つの依頼を一人で受けることは少ない。大抵クランというチームを組む。洞窟の場合、狭く、大人数で入ることができないため、五〜七人程のクランを組むのが普通だ。アメリアの今回組んだクランも六人である。

 さて、アメリアたちのクランの前に入ったクランだが、1ヶ月生存が確認できていない。一度に一気に攻略できないため、三度迷宮から出てきているのは確認したが、1か月前に四度目の迷宮入り以降出てこないのだそうだ。

 前のクランの残した迷宮の地図を頼りにアメリア達は迷宮に入った。クランのメンバー達の相性は良く、魔物も難無く倒せていた。

 だからだろうか。

 少し気の緩んだアメリアはこの迷宮の罠である転移の魔法陣を踏んでしまったのだった。


 魔法陣を踏んだことに慌てるも、極めて冷静に、マッピングをしながらアメリアは進む。幸い、食料はまだあるし、水は魔術で何とかなる。余程のことがなければ、一人でも脱出はできるはずであった。

 しかし、運が悪かったのだろう。

 一人では手に余るような魔物の群れと遭遇してしまったのだ。



 魔力が底をつき、抗う術はもうなく。

 魔物の鋭利な爪がアメリアの喉を貫こうとする。

 アメリアは目を瞑る。

 まだ、生きていたい、と思うも、まあ、冒険者という危険な仕事をしているのだから、という諦めと。脳裏に浮かぶのは四年前に別れた愛弟子の顔だった。



 アメリアはとある街の学院で研究の傍ら、教鞭をとっていた。そこで出会ったアランという少年。彼は魔術の才能があり、とても教えがいがあった。このままこの街に永住し、今の生活を続けるのもありかと考えたが、自身に教師の才がないのと、1か所に留まるよりも旅をする方が自分に合うと思い、アランの卒業式の翌日に旅立った。

「アメリア先生の瞳はラピスラズリのようですね」

 綺麗な群青色だとは言われたことはあるが、そんな詩的なことは初めて言われた。ラピスラズリには

「群青色」という意味があるから的を射ているのかもしれない。

 アメリアとの別れに涙ぐんでいるアランに餞別にとラピスラズリのネックレスを贈った。ラピスラズリの宝石言葉は「幸運」だ。アメリアは彼の幸せを願った。


 アメリアの目と鼻の先で魔物の全身が凍る。アメリアは瞠目する。

「アメリア先生!」

 聞き覚えのある、しかし、それより低い声に呼びかけられ、振り返る。

(確か、彼は私より六つ年下だから、今年で16なのか)

 自分が彼と出会った頃と同じ歳だ、と余所事を考える。

「__アラン?」

 4 年の間に成長して、アメリアの記憶の中にいる彼より身長が伸び、アメリアが見上げなければいけなくなっている。

 想像以上の成長に惚けていたら、アランに抱きしめられていた。

「__間に合って、良かった……」

 アメリアは驚きのあまり、都合の良い夢でも見ているのかと考えた。しかし、アランの温もりに現実だと考え直す。

「あっ、怪我はしていませんか!?」

「あぁ、うん、大丈夫……」

 実際、魔力切れを起こしかけているのみで、アメリアはかすり傷ぐらいしか負っていなかった。アランは自身でもそれを確認する。

「では、積もる話もありますが、ひとまずさっさと出てしまいましょう」

「いや、ちょっと待って!」

 さっさと歩きだそうとする教え子を止める。

「どうしてここに?」

 きっとあの街で小さな幸せを積み重ねて生きていくのだろう、とアメリアは考えていた。あの頃のアランもそうするだろうと言っていた。だから疑問に思ったのだ。

「__ラピスラズリの宝石言葉に『永遠の誓い』というものがあるんです」

 宝石言葉は複数あることが多いのだという。

 アランはアメリアの目尻をそっとなぞる。

「僕は『16歳になったらアメリア先生に自分から会いに行く』とラピスラズリに誓ったんです」

 よく見ると、アランの首にあの日送ったラピスラズリのネックレスがあった。

 ずっと持っていてくれたのか、とアメリアは嬉しく思った。

「__外に出たら、話があります。聞いてくださいませんか?」

 そっと耳元で囁かれた言葉は小さくて、一瞬、聞き間違いかと思ってしまった。アランの耳が赤い。

 そうしてアメリアはかつて教え導いた弟子に導かれ、迷宮の外に出たのだった。

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