「アイドルの卵」飼育日記

甲斐アンクル

【一日目~十八日目】

「アイドルの卵」飼育日記 20XX/04/05


【一日目】

 今日から俺はアイドルの卵を飼う事になった。

 ……いや、こう書くと少々犯罪の臭いが漂ってくるが、アイドルの卵というのは文字通りアイドルの「卵」、長円形をした小さな物体のことだ。

 二十一で叔母の京香きょうかさんが専務を務めているアイドル事務所に転職、彼女の秘書というか雑用係として入社したはいいものの、まさかいきなり「アイドルの卵の世話よろしく!」などと命じられるとは……京香さんのとこ、動物タレントも扱ってたのか。


【二日目】

 アイドルの卵はにわとりのやつと見た目は似ているが、大きさだけは例外だ。こっちは高さが500ミリのペットボトルくらいある。

 その卵を、俺は以前から住んでいる一人暮らしマンションへと持ち込んで世話をするのだが……俺に出社の義務は無く、ただ「室温を快適に保つ」のみ気を付ければいいらしい。

 しかし今は春真っただ中だから本当にやることが無く、ほぼ社外ニート状態だ。


【三日目】

 引き続き社外ニート生活満喫中。しかも近所なら買い出し等で普通に出かけてもいいらしい。これで給料まで貰えるんだから最高だな!


【四日目】

 なんか卵デカくなってないか……? 卵ごと大きくなる生き物なんて存在するのか? もしかして中からエイリアンみたいなの出て来ないよな……


【五日目】

 明らかに卵が大きくなっている……今は1.5Lペットボトルくらいか?

 この事を電話で京香さんに報告したら「大丈夫、そういうもの」と返され、すぐ通話を切られた……


【六日目】

 朝、京香さんが訪ねて来た。卵の様子を確認したのち、今後の世話の仕方について

詳しく説明してくれた。

 そして俺は中身の正体について彼女に尋ねたのだが……「アイドルだよ、女の子の」としか答えてもらえなかった……


【七日目】

 とうとう卵の大きさが一メートルに達した……

 あと京香さんが昨日「そろそろ適当な小説なんかを卵に読み聞かせてほしい、できるだけ沢山」と言っていたので実行することに。

 電子書籍アプリの音声読み上げ機能で構わないとのことだが、せっかくなので

たまに俺が読んでやった。どうせヒマだしなw


【八日目】

 今日俺がアイドルもののラノベを卵に読み聞かせていると、卵が左右(前後?)へゆっくりユラユラとリズムよく揺れ始めた!

 読み上げアプリだとこの現象は起こらず、揺れるのは俺が直接読んだ時だけ! なんか嬉しくて今日は声がかすれるまで読んでやったw


【九日目】

 京香さんによれば、卵が動くのは孵化が近い合図らしい。そのせいか俺はしばらく外出禁止。食料等は事務所の人が夕方に置き配してくれる。


【十二日目】

 ついに生まれた! 俺が卵の隣で昼飯を食ってたら急に卵へバリバリとヒビが入り始め、その直後、卵の上から3分の1ほどが縦に割れ、中から女の子が顔を出した!

 そして目が合うなり女の子が「服、ある?」と聞いてきたので、俺は驚く暇もなく

京香さんが用意してくれた衣類一式とバスタオルを、殻越からごしに手渡す。

 そして女の子が中で服を着ると、身を乗り出しとうとう全身を現した。

 その子は中学生ほどの背丈で線はかなり細い。肩まで伸びるサラサラの黒髪を持ち、かなりの小顔で、しかもその顔立ちも今まで見たことが無いくらいに整っている!雰囲気というか佇まいもかなり神秘的だ、紫色の大きな瞳のせいだろうか。


 いやしかし、まさかあれが本当にアイドルの卵だったとは……この子に関してはもう書くことが多すぎるので、特徴については少しずつ記していくとしよう。

 ひとまず当面の俺の使命は「この子に簡単な読み書きを教え込む事」とのことだ。


【十三日目】

 卵から生まれた女の子(卵族たまごぞくと言うらしい)は生まれてしばらくは皆「タマ」という名前で育てられるしきたりのようだ。

 そのタマは昨日生まれたばかりだというのに、既に日常会話を問題なくこなしている。

 一方で体力が無さすぎるので、部屋の中を少し長く歩くだけでフラフラ状態。そのせいか、勉強させるにも小まめに休憩を挟む必要があった。

 しかし彼女は俺を警戒しないどころか懐いてるし勉強も嫌がらない、おまけに性格も素直なので世話係としては助かっている。


 そういえば昨日風呂場の使い方を説明して、あと身体の洗い方も教えたんだが「そんなの教えられなくったって分かるよw」と言われたので任せてみた。

 かなり不安だったが、結果的に一人で入浴を済ませられたようでなんとか一安心だ。

 それより、本題はトイレの使い方を教えた時だ! なんとタマは「アイドルだから

トイレに行く必要が無い」らしい! あれってそういう設定じゃなかったのかよw


【十四日目】

 タマは普通の人間(あまりこう書きたくないが)と同じ物を食べる。

 しかし彼女はかなりの小食なので、栄養補助としてサプリメントもいくらか飲ませている。


 あと夕方、京香さんが事務所のお偉いさん三人を引き連れて家にやって来た。

 タマが順調に育っているのを見て皆喜んでいたな。あとタマが俺にかなり懐いているのを見てビックリしていた、生まれたばかりの卵族はヒトにそれほど懐かないのが普通らしい。

 そして「タマはトイレに行かない」というのを聞かせたら皆声を上げて驚いていたw

 ただし卵族はその個体特有の特徴がそれぞれ一つ備わっているらしく、「汗を一切かかない」子は既に存在するとのこと。

 それに続けて京香さんは「私の特徴は『寒さを一切感じないこと』だからね」と言い出した……ちょっと待て、あんたも卵族だったのか!w 本当は叔母じゃないってのも初耳だぞ!


【十五日目】

 お偉いさんが昨日土産に持ってきたロールケーキをタマはえらく気に入ったようだ。いつも食べるのが遅い彼女だけど、よほど好きなのかあっという間に食べ切って

いた。


【十六日目】

 今日はタマに、アイドル時代の京香さんのステージ映像を見せてみる事に。

 すると一回目は映像を食い入るように見て、二回目は歌と踊りを真似始めた。

 まさかいきなり完コピしてくるかとちょっと期待していたのだが、さすがに歌もダンスもぎこちなかったw

 しかしただ一つ、表情づくりだけは格段に上手い! この調子だとタマは将来トップアイドル間違いなしだな……書いてて我ながら親バカだと思う。


【十七日目】

 タマが「世話をしてもらってばかりじゃ悪いから、掃除くらいは手伝わせて」と言い出した。一応俺は仕事なんだがな、まあタマの世話自体は全く苦じゃないけど。

 掃除の件を京香さんに確認したら「体力もつくしイイんじゃない」と、いつものテキトーな返事が返ってきたので任せてみたんだが……タマは風呂場とトイレもやると言い始めた。いいのかよ、タマはトイレ使わないのにw


【十八日目】

 タマは読み書きの合間の休憩時、大抵は横になりつつ好きなアイドルものの漫画を読んで過ごす。

 今日、一人の方が読書に集中できるかと思い俺がベランダで過ごしていると「世話係なんだから常にそばに居て!」とタマに怒られた。

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